進化の技法――転用と盗用と争いの40億年

  • みすず書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622090434

作品紹介・あらすじ

魚が四肢を得て上陸したり、鳥が飛行能力を獲得したりといった飛躍的な進化はどのようにして起きたのか。大進化はゼロから無数の失敗を重ねて実現した、奇跡の産物なのだろうか? 実は、生物は効率よく進化するための様々な道具を持っている。既存の体のパーツを転用したり、ほかの生物から有用な遺伝子を奪ったりと、さまざまな方法で飛躍的な進化を起こしてきたのだ。ダーウィン以降の歴代の研究者たちと共に、紆余曲折をへて生物の「進化の技法」が解明されていった過程を追う1冊。

感想・レビュー・書評

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  • ☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC10594748

  • 30年ほどまえ、修士論文のために遺伝的アルゴリズムを研究していた。出来上がった論文はゴミだったが、いくつか知見を得ることはできた。最大の知見は、画像認識あるいは人工知能研究のためには当時の時点ではコンピュータのパワーが圧倒的に不足しているということ。
    当時、遺伝的アルゴリズムの研究者にどれほどの人材が参加していたかは不明だ。もともとが遺伝子のふるまいをごくごく単純にモデル化したにすぎないもので、実用に耐えうるのかという疑問が指導教員をして当方にテーマを授けさせたと感じている。単純なモデルに不安を感じたのは指導教員だけではなかったのだろう。門外漢が付け焼刃的な学習から得た遺伝子のそれっぽいふるまいを付け足した、やくたいもない論文だらけだった。この分野に未来はあるのだろうかと思ったものだ。

    遺伝子の振る舞いは、これまで思っていたものよりも静的ではない。免疫が外部からの侵入者と常に戦っているように、ウィルスという外敵だけでなく、自らのコピーミスとも戦っている。稀な出来事ではないらしい。

    そんなことを本書を学んだ今ならば、少しは面白い遺伝的振る舞いを仕込めたかもしれないなどと懐古する。

    「何事も、当然のことながら、私たちが始まったと思った時に始まっているわけではない」
    この言葉の意味するところは、進化という言葉に想起される個人的なイメージを払拭した。進化のために遺伝子セットが生み出されるのではなく、すでに存在する遺伝子が必要に応じてオンオフされるということだ。本書ではサンショウウオの例と、浮袋を持つ魚の例があげられている。
    サンショウウオの食餌は、水棲時においては吸い込む方式で、陸棲時はカエルのように舌を伸ばして捕食する。舌を伸縮する方法は筋力によるものではなく、いわば指先につまんだなめらかなものを弾き飛ばすようなもので、エラだったものが変化したものだという。環境要因で遺伝子がオンオフされて、同一個体でそう成るという。
    地球上の生物の進化は海から始まり、陸に上がったといわれている。陸に上がったから肺が発生したのではなく、まず浮袋に類するものがあり、それが変化したのだという。

    そしてまた、遺伝子に対する漠然とした疑問が本書で解消された。すべての細胞に含まれるという遺伝子は、適材適所の発現をなにによって制御しているのかというものである。
    遺伝子の中には発生をコントロールする遺伝子がある。中学の理科だったろうか、胚葉の部位が身体の部位に対応していることを学んだのは。遺伝子の並びもそれに準じている、ということらしい。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000059196

  • ダーウィンの5文字の言葉:「何事も当然のことながら、私たちが始まったと思った時に、始まっっているわけではない」 発生学の胎動 ゲノムに宿るマエストロ 美しき怪物 進化というモノマネ師 私たちの内なる戦場 重りの仕込まれたサイコロ 生命のM&A

  • 創造論者の教授の下では進化の話ができないとか…20世紀の米国で、ですよ!骨の髄までニッポン人のワタクシにはピンと来ない話なんだけど、よくこの手の話、聞くしなあ。科学と信仰って、折り合いつけるの大変なヒト達がいらっしゃるんですよね、うんうん。
    ところで、脳オルガノイドって、倫理的には大丈夫なのかな?

    三胚葉の分化とか、高校生物の復習を思わずしちゃったよ(笑)

  • ●ヒトの中の魚、魚の中のヒト。の著者。
    ●鳥類の祖先は何らかの種類の恐竜である。と言う考え方に対しては、学者人が異を唱え、それぞれに異なる今家を持ち出してきた。
    ●肉食恐竜が多様な羽毛生やしていたことがわかってきた。
    ●生物の体に生じる発明は、それが関与する大進化の最中に起きるわけではない。羽毛は飛行が進化する最中に誕生したわけではなかったし、肺や足も動物が陸上に進出する最中に誕生したわけではなかった。
    ●サンショウウオは、発生を遅らせたり止めたりすることで、その体を劇的に変えることができる。
    ● DNAは4つの文字で表される塩基の連なりで、その塩基のつながりがアミノ酸のつながりをコードしていて、そのアミノ酸の連なりがタンパク質を構成する。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12741616444.html

  • 面白すぎる。
    レビューでウォール・ストリート・ジャーナルが、「ニール・シュービンは天性のストーリーテラーで、才能ある科学コミュニケーターだ」と評している通り、リーダビリティが圧倒的。
    昨年読んで抜群に面白かった『家は生態系』の著者ロブ・ダンも、娘と奪い合いながら読んだとのこと。

    各章の「進化というモノマネ師」や「重りの仕込まれたサイコロ」など、タイトルを見ただけで興味がそそられるし、進化の本なのに原題が"Some Assembly Required(要組立)"と謎めいているが、最後になるほどと感心させられた。

    「進化は環境と偶然から起きるもので、何百年もかかるもんだ。だが歴史は環境と選択によって生まれるんだ。しかも人間の一生のあいだに起こるものだし、場合によっては数年や数か月、いや、数日の間にさえ起こるんだ」。

    キム・スタンリ・ロビンソンの傑作SF『レッド・マーズ』の中のセリフだが、多くの人が進化に対してこのように見ているのではないだろうか?
    グールドが唱えていたように、今の我々や地球上のすべての動植物は、数十億年に起きた数々の偶発的な出来事の産物で、巻き戻してやり直したって同じにはならないはずだ、と。

    著者は偶然を否定する。
    進化の道筋は、それぞれの種が様々な経路を辿ったとしても、最後には同じ場所に辿り着く、と。
    グールド風に言えば、「偶発的な状況を変更して生命史のテープをリプレイしても、重要な事件は変わることはない。それらは同様に発生する」と、主張している。

    この結論に行き着くまでには、何が進化の原動力になっているのか、何が地球上の全生命に違いをもたらしているのか、の難問に答える必要があるのだが、ここで著者は科学者列伝とも言うべき、古今東西でこの難問に挑んだ先達を登場させ、少しずつ核心に迫っていく。

    同種の中でこれだけ個体差がある理由は、特定の環境下でも個体が生き延びて繁殖する確率を高めるためで、この多様性があるからこそ自然選択による進化が起こるのだ。

    「個体間の多様性は自然選択による進化の燃料であり、多様性が大きいほど進化が起きる速度も増す。(奇形であろうと)多様性の潤沢な供給があるからこそ、自然選択が長い時間のうちに大きな変化をもたらしうるのだ」。

    つまり、進化の真髄は、ある世代から次の世代へと受け継がれる多様性にある。
    さらに進化の推進力となる燃料として、古来の遺伝子を改変したり、使い回す転用であったり、エラーによって生じた遺伝子の重複や余剰をあげている。
    これにより、新たな用途にすぐに使えるよう、余分が変異して新たな機能を獲得できるようになる。

    「新しい遺伝物質だと思っていたものが、新たな用途に転用された古い遺伝物質のコピーだったりする。進化の創造力はどちらかと言うとモノマネ師の能力に近い」。

    魚のヒレから肢への進化を調べると、あらゆるレベルで転用が起きていることがわかる。

    「生命に大変革が起きるのに、新たな遺伝子、器官、生活様式が一斉に発明される必要があるとは限らない。古来の特徴を新たな用途に使い回すことで、子孫に大いなる可能性が開かれることもある」。

    転用やコピーなど、祖先から受け継いだものばかりではなく、実は外からの侵入者(ウイルス)によって促される進化もある。
    哺乳類しか持っていない妊娠に関わる細胞は、もとはウイルスが我々のゲノムを乗っ取るため侵入し、無限コピーをつくろうとしたところ、免疫によって返り討ちにあい、無毒化され、新しい主人のために使役する羽目になったものだ。

    進化の道筋で失われてしまった能力もある。
    多くの生き物が持っている、体の一部を失っても再生する能力などがそれに当たる。

    「何事も私たちが始まったと思った時に始まっているわけではない」と繰り返し語る通り、無から新たな機能を獲得したり、発明しているわけではなく、すでにそこにあり、ただ転用したりエラーを起こして重複コピーしてしまったりとかが、背後にあったなんて想像もしなかった。
    しかもさらに面白いのは、退化としか見られないような機能の喪失が、新たな機能の発現など、進化を促すキッカケにもなるなど、本当に逆説的な話だ。

    ただ、ダウン症などの先天異常を調べるためにも必要なのだろうけど、奇形生物や変異体を生む遺伝子の組み換え実験は、心底ゾッとさせられる。
    ヘミングウェイの6本指の猫や、乳首や肋骨が普通より多い人など、本書でも紹介されているが、体の部位をあれこれいじられ、体節も器官もまるで異なる産物は、怪物なのではない、生命に多様性がもたらされる仕組みを解き明かしたのだと抗弁する。
    オランダでは、流産や中絶で死亡した胎児の脳細胞とマウスのそれを組み合わせてキメラを作成していることも、「SFっぽい」とサラッと触れられているが...。

  • 請求記号 467.5/Sh 99

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著者プロフィール

(Neil Shubin)
古生物学者、進化生物学者。ハーバード大学で博士号を取得。現在、シカゴ大学教授。動物の解剖学的な特徴がどのように進化したかについて研究している。グリーンランド、中国、カナダ、南極、北米やアフリカでフィールドワークを行う。魚類と陸棲動物の特徴を併せ持つ生物「ティクターリク・ロゼアエ(Tiktaalik roseae)」の発見者の1人として知られる。著作に『ヒトの中の魚、魚の中のヒト』(早川書房、2008年)『あなたの中の宇宙』(早川書房、2014年)がある。

「2021年 『進化の技法 転用と盗用と争いの40億年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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