給料はあなたの価値なのか――賃金と経済にまつわる神話を解く

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622090557

作品紹介・あらすじ

給与の額=あなたの市場価値なのか? なぜ年収は増えず、仕事によって収入に格差が生まれるのか? 多くの人は「誰がいくらをなぜもらうのか」を知らないまま神話にとらわれている。アメリカの社会学者がさまざまな企業・業界の実態調査に基づいて世間の誤解を正し、給料を上げる方策と公平な賃金制度への道を提言する。「権力」「慣性」「模倣」「公平性」の新視点から論じる格差是正論。コロナ危機を踏まえた「あとがき」収録。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    給料は業界によって天井が決まっているという事実はよく知られている。しかし、その天井が「なぜその高さなのか」という疑問に答えている人はほとんどいない。どうしてごみ収集人や介護士といったエッセンシャルワーカーの月給は低いままなのか?飛行機のパイロットと高速バスの運転手はどちらも命を預かる仕事なのに、倍近い給料差が生じているのは何故なのか?アメリカで寿司を握れば1000万円貰える――しかも日本よりクオリティが低いにもかかわらず――のは、いったい何が原因なのか?

    そうした給料にまつわる様々な疑問を解き明かすのが、本書『給料はあなたの価値なのか』である。本書は「成果主義」「業界別賃金」という多くの国で一般的となっている指標にメスを入れ、「労働市場の構造」という観点から賃金差が生まれる原因を探っていく。そして不健全な状態に留め置かれている格差の改善をも提案する一冊となっている。

    給料を決める大きな要因として思い浮かぶのは「成果」だろう。アメリカほどではないが、日本も営業職を中心にある程度の歩合制インセンティブが導入されている。また「公平性」という倫理的な観点から見ても、成果を中心に給料の多寡が決まるのは非常に理にかなっているように思える。
    しかし具体例をいくつか紐解けば、この「成果」という概念は個人の貢献度を測定するにあたって非常に使いづらい尺度であることがわかってくる。
    例えば、トニー・ブレア政権下で、イギリスの国民保健サービス(NHS)は、待ち時間を減らした病院の報酬を増やした。誰だって病院の待合室で待たされるのはうれしくない。そのため、患者の健康を直接的に測るものではないが、患者の健康状態にかかわる要素の1つとして、待ち時間が把握されることになった。だが、すぐに問題が出てきた。待ち時間の削減目標を達成するために、病院は患者を待合室に移す前に救急車に留め置いたのである。救急車内で過ごした時間は「待ち時間」とされないことになっていたからだ。
    ここで「待ち時間は測定基準として曖昧すぎる、患者を直接的に治す行為=診療数・治療費によって報酬を決めよう」と基準を変更しても、それは別の問題を生むだけだ。例えば報酬制度を導入したことで、必要以上の根管治療をして数年で100万ドル近くを稼いでいた歯科医がいたという。
    「患者を健康にする」という比較的単純に見える目標を掲げる分野においても、その目標に医者一人ひとりがどれほど「成果を上げたか」を測るのは簡単ではない。いわんや内勤の事務職においてはほとんど不可能といっていいだろう。つまり、成果という尺度は ①仕事は測定可能なものばかりではない ②基準を作るとそれを何としてでも達成するべくインチキする人間が現れる という2つの問題を孕んでいるのだ。

    もう1つ、給料を決める大きな要因と考えられているものに「その仕事の生産性の高さ」がある。介護職の給料が低くてコンサルタントが高いのは、ひとえにコンサル業務が高度な知能を必要とし、生産性も非常に高い(と信じられている)からだ。これが「誰でもできる仕事/高度な仕事」という概念を産み、業界によって賃金差が生じる原因となっている。しかし、この「生産性」というものも、突き詰めると賃金決定には影響を及ぼさない指標であることが分かってくる。
    例えば1980年から2017年までの間に、シカゴとアトランタにおける運転手の賃金の中央値は3分の1近く下落している。フルタイムの建設労働者の賃金は、1970年代のはじめに比べて1万ドルほど下がっていることも明らかになっている。
    では彼らの賃金が減少したのは業界の生産性が落ちたことを意味するのだろうか?その答えはNOである。そもそも、その2つは基本的に人工仕事であり、機械による置き換えが難しい。今も昔もこれらの仕事には一定の人数が必要となるため、生産性は長年にわたって変わらない。むしろ、トラック運転手は1970年代の運転手に比べて生産性が2倍になっているという研究結果もあるぐらいだ。加えて、物流の発展と不動産需要の増加により慢性的な労働力不足に陥っており、両者の需要は安定して上がり続けている。

    つまり、賃金の増減については、労働者の働き方が効率的になった/非効率になったという事実とは一切関係が無く、社会的な希少性という枠組みの中で決定されるものでもない。それは競争の激化や労働組合の一掃といった、本人の働きぶり以外の要因によって変動するものなのだ。

    ――大勢のアメリカ人が、給与の停滞あるいは下落を経験し、もともとは良い仕事だった悪い仕事から抜け出せないでいる。念頭におくべきは、仕事の良し悪しを決めているのは、仕事固有の性質ではないということだ。それは賃金と労働環境の問題である。良い仕事を一斉に取り戻すためには、要求する場が根本的に変わらなければならないだろう。
    ――――――――――――――――――――――
    以上が本書のまとめの一部である。
    私たちは日本の雇用における「経験主義」を批難し、成果によって賃金を決めるべきだという考え方に魅力を覚える。「なぜ大した業績を上げていない奴の給料が高いのか」「私はこんなに働いているのに不公平だ」など、怒りの矛先は一緒に働く人との差に向けられがちだ。しかしながら、真に不公平な要因は働く場の「外」にあるのである。

    ――賃金が技能やハードワークだけではなく、労働者にはコントロールできないもっと大きな権力の力学によって決められるとしたら——。雇用主がたまたま組織内の公平性の概念を持っているかどうか、あるいは持っていないライバル企業に倣ったかどうかに集約されるとしたら――。労働者が過去の仕事で判断され、最初の仕事の低賃金が次の職場で提示される賃金を決めるとしたら――。いずれの場合でも、一生懸命に働く人に快適な暮らしを約束する賃金を渡さず、あるいは逆に、給与を決めるときにあらゆる手段を使える一部の幸運な人たちに桁外れの給与を渡すことが、正当化されていいわけがない。
    ――――――――――――――――――――――

    【まとめ】
    1 給与を決める4要素――権力、慣性、模倣、公平性
    何が給与を決めるのかという議論をめぐっては、これまでは学界でも世間でも、市場の力や仕事の本質にその答えを求めるものが主流だった。「誰がいくらをなぜもらうのか」という問いに対するこれらの答えは、経験的に見て正しいとは言えず、今よりも公平な未来を目指すための指針としてますます役に立たなくなってきている。

    ①権力
    賃金や給料が決まる過程では必ず「権力」が行使される。権力はさまざまな形をとる。たとえば、従業員が給与の額に不満があっても、上司が異論に対しては処罰姿勢を示しているために表立っては言えないときには、強制的な権力が発動されている。従業員は水準に同意しているように見えるかもしれないが、その水準が正しいとは思っていない。一方、上司は従業員と組織全体の両方の利益を考慮しているという理解のもとに、給与を受けいれているなら、それは正当な権力である。

    ②慣性
    権力闘争が繰り広げられ、やがてその結果が正当と見なされるようになると、慣性が働くようになる。新しい職場で働きはじめるとき、給与をめぐる闘いはたいてい過去のものになっている。雇用にあたっては、もらうことになる報酬額をはっきり告げられる。交渉の余地が提示されたとしても、その幅はわずかだろう。

    ③模倣
    ある組織で慣性が働くようになると、他の組織でそれを模倣するところが出てくる。よく見られるのは、地位に応じた業界内の相場で賃金を払うというものだ。

    ④公平性
    公平性——給与を公平に払うという考え——は賃金制度の最後の基本要素だ。新しく雇う従業員に、他社の同種の仕事をしている人より年収で1万ドル低い賃金を提示するのは、会計的には意味があるかもしれない。人件費は間違いなく他社より抑えられるだろう。しかし、その申し出を受けてくれる応募者がいるかどうか。ほとんどの人は、不公平だと感じて受けないだろう。「公正な一日の仕事に対する公正な一日の賃金」という古い格言は、報酬と実際の労働は連動させるべきだという考えを反映している。
    また、現在の給与を下げる、周りの給料を上げているのに一人だけ昇給をしない、という行為も、従業員に不公平感と尊厳の破壊をもたらす。

    現代の経済においては、誰がいくらをもらうかを理解するうえで、4つの要素すべてが必要となる。しかし、世間では「給与は個人の実績に基づく」「給与はその職業の重要性による」という考えが一般的になっている。この2つは実際には誤りだ。「労働者の生み出す価値によって給与が支払われる」わけではない。


    2 給与にはその人の実績が反映されるわけではない
    学者の世界で一般的な賃金決定理論とされているのは、モノと同じように需要と供給の法則によって決まる「人的資本モデル」だ。そのモデルによると、組織の収入に対する個人の貢献、その組織の製品やサービスに対する市場での需要水準、労働市場における競争力によって、給与が決定される。市場において適切な競争が行われていると(強引に)仮定すれば、労働者の限界生産力のみによって給与が決まるということだ。そして、従業員、管理職、役員など全ての労働者が、給与設定には「個人の成果が最重要である」と答えている。

    だが、このモデルは3つの間違った前提の上になりたっている。すなわち「労働者の限界生産物というものが存在する」「それは計算できる」「それにもとづいて給与を払うのはいい考えだ」という前提だ。

    1つ目の生産性の存在についてだが、そもそも生産性の定義からして様々だ。
    例えばテキサスA&M大学は2010年に、教員の生産性を図る方法を考えだした。教授を評価する算式は単純で、2つの変数で決まる。講義に出席する学生の数と、研究助成金の額だ。学生の数からは1クラスあたりの平均授業料が割りだせるし、助成金はもちろん金額がわかる。ところが、導入後すぐに抗議の声があがった。大学の評判、社会、新たな研究成果などに対する貢献はどうなるのか。何とか卒業しようとがんばっている学生の指導にあてた時間はどうなるのか。算式に含まれないではないか。教えることを優先する者もいれば、大学の真価は研究にあると信じる者もいる。
    言い換えれば、定義の議論は、その組織の「商品」が何なのかについての意見の相違から生まれるものだ。数量化できないものを無理やり数量化したとしても、その基準が妥当であるかを確認するすべはない。

    2つ目の生産性の計算の問題について。成果主義には測定がつきものだが、測定を重視しすぎると測定指標を悪用するインセンティブが生まれる。
    カントリーワイド社では、契約歩合の額が、通常の金融商品よりもリスクの高いサブプライムローン商品に対して高く設定されていたため、本来なら従来のプライムローンで購入できる客にも無理やりサブプライムローンを組ませた。結果的に住宅価格が上がり続け、その後市場が崩壊した。
    ミュラーはこう言う。「報酬が測定実績に紐づけられると必ず、測定執着が改竄を招いてしまう」。Aに対して報酬を与えれば、人々は重要なBを無視するようになるのだ。

    3つ目の給与と生産性を結びつけることへのコンセンサスについて。
    生産性には、営業職といった個人の成果を組織の業績に結びつけやすい仕事であっても、社会的な側面がある。完全に1人で黙々と働き、その日の終わりに1日の成果物を組織で共有する器に入れて帰るような仕事はめったにない。互いに学びあい、協力しあい、まわりの人を助け、そうしたやりとりが成果に影響を与えている。組織が個人の生産性をもとに給与を分配するなら、皆が協力し合う職場は、皆が競争しあう職場になり、全体の生産性は落ちるかもしれない。
    大手法律事務所メイヤー・ブラウンは、新しい成果給制度を導入し、弁護士一人ひとりの成績が目に見えるようにした。事務所はパートナーに点数を割りふり、それがその年の利益の分け前に変換され、最初のページに上位50人の名前を載せた。理屈では、こうした開示により、ほかの人が発奮して仕事に励むようになるはずだった。実際には、「これ以上はないというほどの敵意を生み出した」。パートナーたちはお互いに協力しあうことをやめた。報酬制度のしくみを考えれば、完全に合理的な行動だった。報酬はゼロサムゲームなのだから、クライアントを獲得するために同僚に手伝いを求めれば、売上を分けなければならなくなる。行動の変容はさらに進んだ。パートナーは「ほかの法律事務所の弁護士と競うだけではなく」、同僚のクライアントを横取りしようと、「お互いに競うようになった」のである。

    成果主義は理想的に聞こえるが、実際には信じられないほど複雑で、多くの場合は実行不可能である。最近の研究からは、成果制度を採用した企業では業務中に怪我をする率が高くなり、企業の業績も製品の品質も下がる傾向にあることがわかっている。また、残業が増えると指摘した研究もあり、そうして疲弊して結局は欠勤することになる社員が増えると結論づけている。


    3 その仕事だからその給料なのではない
    20世紀の半ばのアメリカでは、農業以外の仕事のうち3人に1人は製造業に従事していた。今では10人に1人となっている。もっとも多かったのは自動車製造業で、1950年には、この国の仕事の6つに1つはこの業界関連のものだった。1970年代を通して、全国の自動車産業の賃金の伸びは、ほかの民間部門の平均賃金の伸びをはるかに上回った。1980年代になっても、製造業従事者の賃金は、民間部門の非製造業従事者に比べて15%高かった。しかし、1990年代からグローバル化や工場の自動化によって人員が大量に整理され、いわゆる「産業と雇用の空洞化」が発生した。
    このころから「製造業は失われた」とよく耳にするようになったが、現代まで時計を進めれば状況は少し変わってくる。2010年代から海外に工場を置いていた業界が国内に回帰し始め、雇用の伸びが見られるようになった。アメリカの大手メーカーの経営者を対象にした2015年の調査によれば、3分の1近くの経営者が今後5年で自国内の製造を増やすことを検討しているという。同調査は、海外から仕事を取り戻す国内回帰を進めている経営者の割合が、3年で2倍以上になったとも伝えている。

    ただし、雇用環境はかつてとは異なる。自動車産業の平均賃金は、昔は民間部門の平均より30%高かったが、今は同じだ。2013年、製造業の生産性の伸びは経済全体の平均をはるかに上回っていたにもかかわらず、賃金の中央値は、全体の中央値よりも8%低かった。就業者数こそ増加しているが、賃金は安くて、離職率は高く、安全は二の次に置かれている。つまり、製造業は良い仕事から悪い仕事に変わってしまったのだ。

    悪い仕事に変わった要因の1つは労働組合の解体にある。
    組合員が同じような仕事をしている非組合員よりも多く受け取る賃金は、平均で15%増となっている。1970年代初期には、製造業で働く人の3人に1人以上が組合に参加していたが、今では13%である。鉱山労働者はアメリカの経済から急速に消えつつあり、数少ない残った労働者たちの組合の参加率は昔に比べて激減している。組合に参加している人は、今では10人に1人もいない。

    要因の2つ目は、雇用形態の変化、つまり正規従業員から派遣社員への切り替えである。
    1990年、派遣労働者のなかでブルーカラーの仕事に就く人は4分の1を少し上回る程度だったが、製造業従事者全体のうち派遣会社から給与をもらう人は1%にも満たなかった。その後の10年で、派遣労働は全国に広がり、規模も2倍の400万人近くに膨れあがった。派遣労働者の内訳も大きく変わった。製造業では、派遣労働者の数は1989年から2000年で、約40万人から140万人と、100万人増えた。このあいだの製造業における派遣労働者の増加は、従来の従業員の減少を上回っている。1990年代、経済は急激に拡大したにもかかわらず、製造業の雇用は4%減少した。実際には、派遣会社の労働者を加えれば、製造業の雇用は1.3%増えている。つまり、製造業の仕事はすべてが海外に移転したわけでも、自動化されたわけでもなかった。多くは単に雇用形態が変わったのである。

    過去数十年のあいだに雇用形態の改変を通じて起きた、雇用する側とされる側の関係の再編は、あらゆる業界で労働者を劣勢に立たせることになった。組合の減少と雇用形態の改変は、要求行動の場に変化をもたらし、労働者が要求を通すのを難しくしている。何よりも労働者が十分な賃金をもらう権利を主張しづらくなっている。

    賃金が減少したという事実は、この業界の生産性が落ちたことを意味するのだろうか?答えはNOだろう。製造業は技術革新によって、少ない人手で同じ価値の商品を生産できるようになった。トラック運転手は1970年代の運転手に比べて生産性が2倍になっているという研究結果もある。賃金が減少したのは、規制緩和により競争が激化したからと、労働組合が一掃されたからである。

    また、「君の給料が低いのは誰でもできる仕事だからだ」という理論は、地域間を比較すれば間違いであることが分かる。同じ仕事であっても国によって給料の額が違うからだ。デンマークのバーガーキングで働くハンプスは時給20ドルを貰っているが、フロリダ州のバーガーキングで働くアントニーは、10人のスタッフをまとめる地位にいるにもかかわらず、時給はわずか9ドルだ。


    4 公平な賃金を目指すには
    ・最低賃金の引き上げ
    →最低賃金を上げれば「市場水準」を超えた賃金を払うことになるので、雇用の抑制につながるという考えを裏付ける証拠はない。多くの場合、最低賃金の上昇は労働者の利益になり、雇用を減らさない、とデータが明らかにしている。アメリカでいちばん高い最低賃金を採用したといえるエメリーヴィルの失業率は2.4%で、アメリカ全体の失業率を大きく下回る。最低賃金が25セント以上引き上げられた50以上の事例を分析した最近の研究からは、雇用への悪影響も、週あたりの労働時間数や年間の就労週数への影響も見られなかった。典型的な「悪い仕事」に従事する人に特に効果がある。

    ・ミドルクラスの増加
    →最低賃金の引き上げは、それより上にいる中間層の賃金を増加することにつながる。中間にいる人たちの賃金や給与を上げて、それが公平な分け前であるようにするためには、給与が決定される場所、つまり職場において、その決定過程を変えることが肝要である。労働組合を強化し、社内に内部労働市場を復活させる。成果主義を抑制し、年功序列型賃金制度を部分的に導入する。

    ・天井を下げる
    →企業幹部や株主に流れる組織の収益を減らす。

  • ◆労働経済学の常識を覆す[評]森永卓郎(経済アナリスト)
    給料はあなたの価値なのか 賃金と経済にまつわる神話を解く ジェイク・ローゼンフェルド著:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/172099?rct=book

    給料はあなたの価値なのか ジェイク・ローゼンフェルド著: 日本経済新聞(会員限定)
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO60027380V10C22A4MY6000/

    『給料はあなたの価値なのか 賃金と経済にまつわる神話を解く』 | ブックレビュー | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
    https://toyokeizai.net/articles/-/576888

    「給料はあなたの価値なのか」書評 米国の「自由な労働市場」の現実|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14588158

    給料はあなたの価値なのか | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/09055/

  • あまりに資本側に偏っているという認識は反対しづらいのだが、さてどうするかの話になるとどうも歯切れが悪い。その根底にあるのが給与がその人の価値を表しているという信仰だという。それ確かにある。読んだけど、しんどくて、ちゃんと追い切れているかというと申し訳ない。あの人は稼がないとあの人は価値がないのリンクをほどけたら楽になるということなんだろうけど。

  • 給与はその人の能力によって決まる。と思っている人が多いが、そんなことないよという本
    環境や業界他社や景気や市場などさまざまな要因の与える影響の方が大きい。

    ゴミ清掃員は危険なのに給与が安いのは、前科者を雇っていて、彼らは他に仕事がないので交渉力がないから。
    社会のルールを作る側というか、パワーを持つ側になろうと思った

  • どちらかと言うと「あなたの給料はなぜ安いのか」というタイトルの方がしっくりきます。賃金が決まる要素は、その労働者の生産性や市場価値だと思われがちですが、著者はそれを否定します。実際は、権力、慣性、模倣、公平性の四つの要素が大きく影響しているからです。そのほぼ全ての要素が、賃金格差を拡大する方向、貧しい人をより貧しくする方向に作用しています。本書はそのメカニズムと現状について、アメリカの多くの業界を実例として紹介しつつ解説してくれます。

    みんなが給料の額を共有してると交渉材料になって給料が上がるというのが面白いです。だから会社は秘匿する。でも他人と比べることで幸福度が下がりそうな気もします…

    生産性は多くの社員との関係や外部要因で社会的に決まるので、定義出来ないし測定できないというのは目から鱗です。言われてみればそうだよな、と。そこで安易に測定可能な指標を作って成果主義にすると、それだけを追求して非効率になり、さらに社員同士で足を引っ張り合うようになるというのもあるあるです。

    その他、株主資本主義、労働組合の弱体化、派遣労働の増加など、給料を下げる方向性ばかりで読んでで暗い気持ちになります。

    対抗策は、最低賃金アップと労働組合という、地味ですが地に足のついた提案でした。
    結局は年功序列が一番マシな制度かも、というのも皮肉です。

  • なかなか刺激的なタイトルだが、中身は労働市場の変遷や株主と企業、経営者と従業員の利益配分とか、真面目な内容でした

  • アメリカの事例ではあるが、介護や小売、飲食、運輸などの業界が押し並べて給与が低いという現実は日本もあるのではないか。生活の基幹を担ってくれているのにも関わらず。

    給与は属人的なものではなく、単に政治や社会的な指標である。しかし、当事者にとっては生活の掛かっている死活問題である。労働者の団結と、政府による制度改革が打開策になるのだな。あまり踏み込めない領域ではある。

    給与について深く考えることがなかったしがないサラリーマンですが、公平性の原理は職場内でもろに感じている。でもやはり、労働者個人個人では昇給にはスキルや実績というものが反映されるのではないかと考える。マクロ的な論述だという理解で、その視点が開かれた意義は大きいと個人的な学び。

  • この本の論点であり、私が興味を持った主題は大きく二点。社会格差と評価制度、この現状における妥当性。片方で使いきれぬ富を持て余しながら、もう片方で生活費を下回る賃金を許しておいて良い訳が無い。また、評価制度は殆ど不快で不満の源泉になっているのみであり、会社のグチとしては世界中で最もポピュラーなテーマだ。

    賃金決定の過程とは。権力闘争の果てに正当な権力が生まれ、やがて慣性が働くようになる。賃金制度において、慣性により不満を発生させないようにする事が重要。大抵、労働者の限界生産物を測定する事は難しいため、学歴や経歴といった人的資本の測定指標が利用される。

    測定し評価する側は優位だ。同時に、その権威者は、企業の利益処分にも権限を持つ。利益を、誰に優先配分するのか。この優越的な地位が、経営者企業モデルから株主資本主義に変わった。やや労働者への冷遇度合いが変わるが、最下層である事に変わりはない。評価される側は、常に不条理だ。

    不条理だが、それは自己裁量における選択の結果だとキツめの意見も可能だ。ただ、それは社会制度として、見えない天井に気付いていない人の発言であり、我々は自由に見えて、生まれながらに自由ではない。従い、選択しているように見えて、その実力を見抜かれた上で、選択をさせられている。実は、なるべくして、下層労働に従事している。そして、それは既定路線であるから、同情的な措置が中々施されない。ミルトンフリードマンの市場による自動調整機能は正しいが、それが発動し効果を発揮するまで、途中経過に多くの犠牲があるのも事実だ。

    賃金について重要なのは垂直的にも水平的にも、「納得感」。低質な制度を用いて無能に評価される仕組みが多いから、居酒屋はまるでグチの音楽フェスのようだ。だけれど、一番怖いのは実はそのグチを溜めさせておくのは意図的であり、不況時の従業員数調整のバッファとして、一定数の離職を必要悪としておくという事だ。納得させない事は、スパイスのような組織の味付けでもあり、資本主義とは、何ともサイコパスな出来事である。

  •  給与はどう決まっているのか。今、何が問題なのか。

     給与は単純な仕事の価値として決まっていない。そもそも仕事の価値を単純に計れないし、周囲との賃金差など環境要因も大きく影響する。
     後半では近年になって企業の株価偏重や労働組合の弱体などで賃金が大きく下がっていることを取り上げる。製造業や販売業、エッセンシャルワーカーは低賃金が当たり前ではない。昔はそうではなかったし、そうでない国や地域、変化を勝ち取った人々もたくさんいる。

     仕事と賃金の関係を考える上での必読書。

  • 2022/4/2朝日新聞

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著者プロフィール

(Jake Rosenfeld)
ワシントン大学セントルイス教授(社会学)。先進民主主義国における格差について、政治的・経済的な要因を中心に研究している。プリンストン大学で社会学の博士号取得。著書にWhat Unions No Longer Do(Harvard University Press, 2014)がある。《ニューヨーク・タイムズ》《ポリティコ》《ロサンゼルス・タイムズ》などに寄稿している。

「2022年 『給料はあなたの価値なのか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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