親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか

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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784622095675

作品紹介・あらすじ

人はなぜ赤の他人に親切にするのか? 生存競争には一見不利な「利他行動」を生物学的に考察しても、完全な答えは得られない。本能的に利他行動をとる動物はヒトだけではないが、海を越えて見も知らぬ個体を手助けするのは人間だけ。この違いを生み出しているのは何か。「親切」の歴史を振り返れば、人間の理性が生み出した思想や科学技術の影響力が見えてくる。もっとも他人に親切なこの時代へとつながる、本能と理性の人類史。

感想・レビュー・書評

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  • 『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』|感想・レビュー - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/20437350

    訳書情報 「親切の人類史」 - shorebird 進化心理学中心の書評など(2022-11-15)
    https://shorebird.hatenablog.com/entry/2022/11/15/114317

    親切の人類史 | みすず書房
    https://www.msz.co.jp/book/detail/09567/
    ―――――――――――
    しもむめもさんの本棚から

  • 人間がいかにして利他的な心を持つようになったのか、歴史の大きな流れとともに考察していく一冊。

    気になっていた本だが、少し高めの価格にたじろぎながら、借りられるまで待ったが、借りられる期間である2週間で読み切るのはなかなか難しかった。

    読むこと自体はできても、理解するのにかなり苦労させられた。

    他人への寛大さは、一対一のものではなく、集団にとって利益になるからであり、また、他人への思いやりは「お返し」「インセンティブ」「活発な知的能力」「論理的思考」の四つからなっているそう。

    人間は様々な苦難を乗り越えながら、他人を思いやることが世界をより豊かにしていくことを学んでいった。もちろん、思いやりだけで全てが解決されるわけではないが、1日のうち一度でも他人を思いやる行動をすることができたなら、この本を読んだ意味がある気がする。

  • 1章から6章までは人間の利他行動に関する理論の要点とその妥当性を検証。ハミルトンの血縁淘汰と包括適応度、ウィン=エドワーズの群淘汰、マルチレベル淘汰とプライスの共分散方程式、アクセルロッド、アレキサンダーなどの互恵性理論など進化生物学の理論を手際よくまとめており、数学の知識が無い自分でも進化理論の進展についてポイントを摑めた気になった。
    この部分で特に印象深かったのはプライスの共分散定理。利他行動が優位となる淘汰の働きをたった一行の方程式にしてしまうのだから驚き。畏敬の念さえ覚える。
    また筆者はアレキサンダーなどの間接互恵性理論を現代人の利他行動を進化的に説明する概念として有望と評価している。ただし互恵性(reciplocity)と評判(reputation)だけでは友人関係あるいは古代社会のような小規模集団における利他行動を説明できても現代社会のような大規模な集団での協力体制を説明することは困難としてもう一つのR、理性(reason)の働きをあげ、7章以下で理性と社会構築に関する人間の能力の歴史的考察を展開している。

    筆者の歴史認識は全般的に楽観論に貫かれており12章(戦後復興と福祉国家の時代)までは同意できるのだが、ポスト福祉国家、新自由主義的イデオロギーが跋扈する時代(13章)の記述などは自分の実感とはやや異なる。
    生活保護受給者に対する虐め、冷酷な自己責任論など利他行動や社会的な協力を行う能力は少なくとも日本に於いては退化しているとしか思えない。

  • 人類の利他性について、進化論からいろいろな議論があるが、それがまずよく整理されている。しかし本書の主な主張は、進化論、人間の本能では直接は説明できない人類の他を思いやる気持ちの起源を、人間の知性に見出し、その歴史に辿っているところにある。良い意味で人類に対して楽観的な見方で、人類のこれまで、これからを利他性を切り口に辿った好著。訳も良い。

  • 他人に親切にするのは自分勝手な人にいいように使われ、進化の過程で不利だったのでは?
    赤の他人にまで親切するのはなぜか?って疑問に進化と歴史の観点から答えた一冊。

    進化の疑問には
    「互恵性」と「評判」の2つが生存に有利だったみたいな話がされている。

    赤の他人に親切にするのは、上記の本能的な進化では説明できず、苦難の歴史や理性で説明できる。

    思いやりは進化の過程で獲得したものだと思っていたが、実際は他者への思いやりは人間がより大きな集団になったときに初めて得た能力らしい。
    思いやり、共感は理性があれば広がると。

    実践理性と呼ばれる正しい選択と決断をする能力が、歴史上、他人への思いやりを広める上で重要な役割を果たした。って主張には納得感がある。

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12788924168.html

  • 【書誌情報】
    『親切の人類史――ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』
    原題:KINDNESS OF STRANGERS: How a Selfish Ape Invented a New Moral Code
    著者:Michael E. McCullough 心理学
    訳者:的場 知之
    判型 四六判
    頁数 464頁
    定価 4,950円 (本体:4,500円)
    ISBN 978-4-622-09567-5
    Cコード C0012
    発行日 2022年12月16日

    ◆人間の「利他の心」の存在はどのように説明できるだろう? 一筋縄ではいかないこの問いに、進化生物学と慈善の歴史という観点から挑みかかる。
     「利他行動」は生物学の難問の一つだ。ヒトをはじめ、他個体を利する行動をとる動物は実際に存在する。だがしかし、寛大にも他者を思いやる個体の遺伝子は、狡猾な個体に出し抜かれて繁殖機会を奪われ、淘汰されてしまうのでは? 生物学者たちはこのことにおおいに悩み、利他行動を説明できる理論を求めて奮闘してきた。
    ただし、人間の利他の心は、生物学だけで完全に説明することはできない。社会福祉制度や慈善活動などの方法で、血縁や地域を超えた「完全な赤の他人」にまで援助の手を差し伸べる動物は人間以外にいないのだ。ここには、何か特別な説明が必要になる。著者によれば、一万年の人類史における「七つの大いなる苦難」を、人類がどう解決してきたかが説明のカギだという。

    本書では、利他行動に関するいくつかの理論の要点とその妥当性を検討したのち、歴史を通して力を発揮してきた人間特有の能力を鮮やかに提示する。人類史上もっとも寛大な「思いやりの黄金時代」を生きる私たち。ここへ至るまでの道程を照らし出す、本能と理性のビッグヒストリー。
    [https://www.msz.co.jp/book/detail/09567/]


    【目次】
    第1章 思いやりの黄金時代

    第2章 アダム・スミスの小指
    シニカルなミスター・スミス/注意の限界/共感の限界/フォーマットエラー/ひとつの謎

    第3章 進化の重力
    ダーウィンの危険な思想/進化心理学とそれに対する批判/協力はコストを伴う

    第4章 すべては相対的(リラティブ)だ
    利他的デザインの基礎/母の家庭料理/手がかりは子宮にあり/母親、きょうだい、その他の親族/家族へのフォーカス/ハミルトンの法則と黄金律

    第5章 ミスター・スポックへ、愛を込めて
    真社会性から群淘汰へ/群淘汰のセレクション/個人のニーズと多数のニーズ/マルチレベル淘汰/親切は敵を滅ぼす?/またもや行き止まり

    第6章 大いなる報酬
    デジタル進化/球体度低めの牛/最近、わたしに何かしてくれた?/動くごちそう/イメージ重視/石器時代のサマリア人?/互恵性、評判、理性

    第7章 孤児の時代
    農民たち/無関心から不平等へ/不平等から抑圧へ/思いやりという策略

    第8章 思いやりの時代
    枢軸時代の寛大さの原因/枢軸時代の最優先司令/推論からレトリックへ/黄金律時代のユダヤ教徒の慈善活動/小休止

    第9章 予防の時代
    ビバ、ビベス!/イングランドの改革/ゴー・ダッチ/親切は残酷だ/得られた教訓

    第10章 第一次貧困啓蒙時代
    光あれ/第一のアイディア 分配的正義/フランス人/スコットランド人/ドイツ人/ピースをつなぎ合わせる/第二のアイディア 科学的思考/戦争と「苦難の共有」というレトリック

    第11章 人道主義のビッグバン
    国際支援のプロトタイプ/災害復興のプロトタイプ/「神の怒り」から自然科学的説明へ/人道主義の世界の拡大/不可欠だった情報通信と交通の拡大/人道支援ミッションの拡大/荒涼たる大陸を救え/人道主義ミッションの止まらない拡大/始まりの終わり

    第12章 第二次貧困啓蒙時代
    第二次貧困啓蒙時代/無関心ではいられない/動画の力/テレビ飢饉/クールな支援(エイド)/ブームの弊害/援助疲れ/開発の再強化/善行の効率化

    第13章 成果(インパクト)の時代
    効果的利他主義者/慈善資本主義者/貧困科学者/効率化のエキスパート/バスローブ人道主義者/単純な話

    第14章 理性が導き出す思いやりの理由
    三つのRがものを言う/テクノロジー、科学、貿易がツールをもたらす/他者への思いやりの未来

    謝辞
    人名索引/事項索引/原注/参考文献

  • 【配架場所、貸出状況はこちらから確認できます】
    https://libipu.iwate-pu.ac.jp/opac/volume/560495

  • https://cool.obirin.ac.jp/opac/volume/912587
    千駄ヶ谷にもあります。

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著者プロフィール

(Michael E. McCullough)
カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学教授。アメリカ心理学会とパーソナリティ心理学・社会心理学会(The Society for Personality and Social Psychology)においてフェローを務める。人間の社会性に関する、進化的・認知的な基盤に関心がある。対人関係における「許し」に初めて着目し、実験的に研究する方法を開発した研究者の一人。ほかにも、「感謝」「復讐」「向社会的行動」「宗教的な認知」「異なる時点での選択」などを実験的に研究する方法の開発を行ってきた。近年では自制心やホルモン(オキシトシン)が持つ社会的影響について研究を行っている。著書に、Beyond Revenge: The Evolution of the Forgiveness Instinct (Jossey-Bass, 2008)がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

「2022年 『親切の人類史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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