動く倫理学を展開する:生成変化の中の実践 (小林道憲〈生命の哲学〉コレクション)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623077274

作品紹介・あらすじ

内に混沌を蔵している〈動く社会〉の倫理を考え、新たな倫理学を構築する。生成変化する社会では、われわれの行為の意味や価値も目まぐるしく変動する。われわれの行為は、変化する状況とともに変わり、また、状況を変化させてもいくことができるのである。生成の中で行為を考え、行為の中で生成を考えながら、その叙述の過程に東西の倫理思想を位置づけ、行為の意味と価値を考察する〈動態倫理学〉の展開。

感想・レビュー・書評

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  • 『複雑系の倫理学』(2000年、ミネルヴァ書房)のほか、3編の論考を収録しています。

    著者は、個人をそれ以上分解できない最後の単位とみなす「方法論的個人主義」も、社会を一種の実在としてあつかう「方法論的社会主義」も、ともに人間と社会のありようを正しくとらえることに成功していないと批判します。そのうえで、個人は社会のなかにあり、社会は個人のつながりによって形成されているという「関係体」の観点から、人間社会の倫理についての考察を展開しています。

    こうした著者の思想は、和辻哲郎の「間柄の倫理学」の視座に一部かさなるところがあります。ただし著者は、和辻の「間柄の倫理学」は、けっきょくのところ個人と社会のダイナミックな関係を把握することに成功しておらず、いまだ「静態倫理学」の立場にとどまっていたといいます。そこで著者は、システム論や複雑系に関する比較的新しい知見を参照することで、「創発」を組み込んだ「動態倫理学」の構想へと議論をすすめていきます。さらに、ニーチェの「超人」思想に著者の考える「創造倫理」の可能性を見いだそうとしています。

    動態倫理学というスローガンにはある程度共感できるところもありますが、和辻倫理学がはたして著者のいうような「静態倫理学」の立場なのかという点については、やや疑問があります。また、システム論と規範的倫理学との関係については、ハーバーマストルーマンの論争を見れば明らかなように、考えなければならない数多くの問題が存在しているのですが、本書ではそれらの問題についての考慮はなされておらず、いまだスローガンの提示にとどまっているような印象を受けます。

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著者プロフィール

小林道憲(こばやし・みちのり)
1944(昭和19)年 福井県生まれ。
1972(昭和47)年、京都大学大学院文学研究科博士課程修了。
現在、福井大学教育地域科学部教授、
麗澤大学比較文明文化研究センター客員教授。
専攻は哲学・文明論。

主な著書
〈哲学研究〉
『ヘーゲル「精神現象学」の考察』『生命と宇宙』
『複雑系社会の倫理学』『宗教とはなにか』
『宗教をどう生きるか』『複雑系の哲学』
『生命の哲学—〈生きる〉とは何かということ』(人文書館)
〈現代文明論〉
『欲望の体制』『われわれにとって国家とは何か』
『近代主義を超えて』『20世紀を読む』
『二十世紀とは何であったか』
『不安な時代、そして文明の衰退』
『対論・文明のこころを問う』(共著)
〈比較文明論・日本研究〉
『古代探求』『古代日本海文明交流圏』
『文明の交流史観』等がある。

「2008年 『生命(いのち)の哲学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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