西郷隆盛:人を相手にせず、天を相手にせよ (ミネルヴァ日本評伝選)
- ミネルヴァ書房 (2017年8月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
- / ISBN・EAN: 9784623080977
作品紹介・あらすじ
薩摩藩兵を率いて戊辰戦争に勝利するも、新政府で征韓論争に敗れて下野し、郷里で西南戦争の総指揮官に担がれた西郷隆盛。明治維新を成し遂げた英雄とされる一方、多面な顔をもつその特性と素顔を、一次史料に基づいて解明する。
感想・レビュー・書評
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https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/689938詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
NHKの大河ドラマと並行しながら読み始める。豊富な史実とともに、組み立てられた伝記は、ドラマとは別に語りかけてくる。脚色された語りでない、史料を通した肉声が人物像を作り上げていく。大久保利通との宿縁のプロセスが、クールに紡がれていく。豪胆さと繊細さが共存する人間味が多くの人々を惹きつけた。晩年の行動の不可解性が人物の魅力として重なっているのだろうか。
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家近先生の最新研究
中身が濃い! -
四六判で600頁というすごい分量のせいで、読み終わるのに2週間もかかってしまった。
本書の特徴はその分量だけでなく、西郷の生涯を描くために書簡を多く用いたことにあると思う。色々と逸話の多い人物だけに、なるべく本人の書いたものから構成しようという構想は、歴史叙述の方法として理解できるし誠実だと思う。
一方で、西郷の「行動」を追えばそれなりの叙述が成り立つ幕末期に比して、「構想」や「思想」を問わなければならない征韓論争については、書簡だけで全体像を見出すのは難しくなる。それでも征韓論をめぐる西郷の意図は、研究者の努力で明らかになってきた。しかしさらに事務的な内容の書簡が多くなる西南戦争期については、西郷の考えを知ることがほとんどできず、叙述がいっそう困難になっていく。実際、本書でも西南戦争期は叙述が短いが、構成上の問題と同時に、今述べたような史料的な問題があるのではないだろうか。
また、叙述が分厚くなればなるほど、叙述相互の関係が難しくなる。例えば、「『南洲翁遺訓』に記されている西郷の言葉は、すべて彼の実態を反映したものではない」(p.324)と言いつつ、別の箇所で西郷は単なる「死」ではなく「戦死」を望んでいたとし、その根拠に『南洲翁遺訓』が引かれる(p.420)。こういった矛盾をどう理解すればよいのか。
ついでながら、p.75に引用されている、万延元年5月25日の大久保宛書簡は『西郷隆盛全集』1巻が出典となっているが、手元の『全集』にこれは収録されていないのだが、どういうことだろうか。