北条時政:頼朝の妻の父、近日の珍物か (ミネルヴァ日本評伝選233)

著者 :
  • ミネルヴァ書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784623094400

作品紹介・あらすじ

北条時政(1138年から1215年)鎌倉幕府初代執権。
源頼朝の死後、二代将軍・頼家を廃し、実朝を擁立し実権を握る。さらに娘婿・平賀朝雅を将軍にしようとするも失敗、子の政子と義時に逐われ伊豆に隠棲したされる。緻密な史料批判による実証作業を踏まえ、最新の「武士論」研究の成果に基づいて、時政の実像を捉え直す。

感想・レビュー・書評

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  • 鎌倉幕府初代執権の北条時政に関する評伝。帯の惹句にある「緻密な史料批判・最新研究の成果……「老獪な政治家」の実像に迫る」を裏切らない。しかし、さすがに史料が少なく総ページ数も212ページ。あっという間に読了。

    序章では従来の北条時政のイメージについて。いわゆる先行研究批判。それを踏まえて本書の課題とすべき点が6点挙げられていて、わかりやすい。

    第1章は上記課題のうち①「出自・系譜=ステイタス」②「国衙との関係やその近傍に位置する伊豆北条の空間の特性」が主として取り上げられている。一言で言えば、近年強調される武士の都市的な側面を典型的に体現しているのが北条氏であるということ。北条氏のステイタスは幕府成立以前からの在地における存在形態に起因していたと見ることができる。要するに、頼朝の外戚という地位は北条氏権力確立の一要因にすぎない(p.37)。また時政の弟の時定の在京活動も重要なポイントである。

    第2章「流人頼朝を囲繞した人たち」ではとくに擬制的な親族関係(烏帽子親や乳母)の重要性が強調されている(p.59)。第3章「時政の周辺」でふたたび時定の在京活動に触れられたあと、妻の家牧(大岡)氏について詳細に述べられている(課題③)。牧氏本拠の空間は交通・流通の拠点として京都文化を受容しうる場であり、伊豆北条と多くの共通性を有する空間であった(p.74)。また牧宗親は時親に置き換えられるべきで、宗親は挙兵前に死去していた可能性が高いと著者は推測する。

    第4章「時政と京都権門」ではp.98に簡潔にまとめられているように時政が京都・中央政界に広く人的ネットワークを有しており、貴族社会に一定のステイタスを確保していたことが、鎌倉政権内部で他の御家人から一頭地を抜く存在たり得た要因であった(課題⑤⑥)。

    第5〜7章までは治承・寿永の乱という戦時下、頼朝死後の権力闘争、そして時政・牧の方の失脚と一挙に読ませるパートだが、とくに第7章の時政・牧の方失脚は北条氏による政治劇として解釈され、非常に面白かった(課題⑥)。また女性の役割についての著者独自の見解も傾聴に値すると思われる。

    蛇足だが、『鎌倉殿の13人』での比奈(姫の前)やりく(牧の方)、政子の描かれ方はこれからも見所だし、本書を読んでから後編を楽しむのも良いかと思った。

  • 最新の「武士論」研究の成果に基づいて、時政の実像を捉え直した本になります。
    伊豆の小土豪と思われがちな北条時政だが実際には法皇側近など京都と非常につながりが深いのは興味深かったです。

  • 源頼朝岳父にして鎌倉幕府初代執権とされる人物の評伝。その出自や、妻牧の方を含めた京都人脈の観点から、伊豆の小土豪という従来イメージの刷新を図る内容。最後の失脚に関して、合意の上での義時への世代交代という視点は興味深い点だった。

  • 時政の権力は源家家長である政子の支持あってのものであった。そこを理解していないことが牧氏事件で時政や牧の方が政子と義時に敗れた理由である。逆に自分の権力の限界を理解していたからこそ、源実朝を廃して娘婿の平賀朝雅を将軍にしようとしたと理解することもできる。

  • 北条氏は決して田舎の一土豪ではなかった、とする説。所領の地理的重要性や、牧氏との関係性、平氏といっても直方流であること(仮冒説もあるが)にその根拠を求めている。
    確かに、そもそも貴種頼朝の正妻を出す家系である。そして単に鎌倉殿が婿というだけで、あの数々の陰謀の中心にいられたのは、時政(そして義時)の個の力だけではなかったはずで、そもそも背景となる氏族としての力があったという。説得力がある。

  • 頼朝の妻の父、近日の珍物か
    玉葉で九条兼実が北条時政を評した言葉
    北条丸と路傍の石のごとく蔑まれた言いようではなく
    従来の北条氏の実像を覆す本書には驚愕させられる
    婿が偉いから地方の小土豪が権勢を得たのではなくて
    朝廷・貴族社会に於いて一定の基盤と影響力を持って
    いる・・・だから政変により伊豆国司交代に伴う地域
    権力が脅かされる対抗策が頼朝擁立からの行動となる

    本書で先行研究を丹念に検証・批判する事で北条時政
    人物像を浮き彫りにして検討すべき課題が整理される
    出自系譜を見ると存外ステイタスを持ち、土豪として
    の理解が覆される・・・都市型で貴族と近しく兵力も
    権威後ろ盾も固めた地方勢力じゃないか!

    長くなってきたので端折るが、弟と思われる北条時定
    の存在(上洛時の兵千名は結構子飼いの兵?)や、牧
    家の京都貴族人脈(なお牧宗親は時親ではないか…既
    に死去している?)、一条能保が持つネットワークの
    意味、そして吉田経房との交流などなどが北条一族の
    昇進という成果物をもたらした事は認めるしかない

    本書で女性の役割や烏帽子親・乳母の重要性を再確認
    できるので時代を理解する事が深くなる
    読むしかないのではなかろうか(´・ω・`)

  • 読み終えたら 北条時政に抱いていたイメージが一変しました!
    北条時政は、頼朝の妻の父として鎌倉幕府創成期に深く関与した人物。本書を読むことで、これまでの時政像が、新たなイメージに更新され、石橋山の戦い前後の伊豆に生きた人たちが、生き生きと動き出す感覚が私にはありました。
    大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は、今後、時政が躍進していく展開になります。そこに本書で学んだ知識を持ち合わせていれば、ドラマでは描ききれない背後の人間ドラマまで考察ができる。なぜあの人物は時政の呼びかけに賛同したのか、賛同できなかったのか。そういう細かな動機を知ることで、この時代の歴史がますますおもしろくなります。
    とりわけ時政の生きた時代は、いろいろなことがありました。すでにドラマでは放送済みの、源義経の排斥、曽我兄弟の仇討ち、梶原景時の排斥。これから放送される、比企能員の謀殺、畠山重忠の討滅、平賀朝雅をめぐる牧の方の動き…こうした出来事のキーパーソンが北条時政です。時政に続いて、義時、泰時・・・と北条氏による執権政治が続いたことを考えると、時政がどんな人物であったのか理解することが、北条氏を知る外せない起点になると思います。

  • 東2法経図・6F開架:289/Mi43/233/K

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著者プロフィール

1951年、千葉県生まれ。1973年、青山学院大学文学部史学科卒業。1981年、青山学院大学大学院文学研究科史学専攻博士課程修了。現在、京都女子大学名誉教授 ※2022年6月現在
【主要著書】『伝説の将軍 藤原秀郷』(吉川弘文館、2001年)、『源氏と坂東武士』(吉川弘文館、2007年)、『源義家―天下第一の武勇の士―』(山川出版社、2012年)、『東国武士と京都』(同成社、2015年)、『源氏の血脈』(講談社学術文庫,2022年)

「2022年 『公武政権の競合と協調』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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