香川県の歴史 第2版 (県史 37)

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634323711

作品紹介・あらすじ

通史で読む郷土の歴史。地域で活躍した人物や歴史上の重要事件を、県民の視点で平易に叙述。市町村合併に対応した第2版。

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  • 明治維新は民衆に新しい政治体制への期待を持たせたが、すぐに裏切られることになる。高松藩では明治三年(一八七〇年)一月に林田村の浜崎周吉を中心とした綾北山林騒動が起こる。高松藩では寛政三年(一七九一年)に村々に御趣意林の運営を命じた。御趣意林は野山に木を植え、それを各村で管理し、収益は困窮者の救済や道普請の費用に充てる仕組みである。

    目的は立派なものに聞こえるが、入会地も御趣意林とされ、村人個々の生活のための利用できなくなった。また、村役人に運用が委ねられたため、本当に困窮している人々の救済には使われず、村の宴会費用に流用された。現代日本の警察の裏金のようなものである。

    怒りが蓄積した村人達は総勢三〇〇〇人で御趣意林や自然林の木々を伐採していった。高松藩は一月一四日に綾竹太郎と中条澄靖に衆徒鎮静を申しつけた。農民は白峯寺住職作成の嘆願書を提出した。綾竹太郎と中条澄靖は一八日から林田村で実地検分した。高松藩参政の杉山直記は弾圧に方針を転換し、一月二三日に浜崎周吉を逮捕した。周吉は高松城下の牢屋に入れられ、獄死した。綾北山林騒動は庄屋らの大半が罷免され、御趣意林が減少するという成果があった。

    綾北山林騒動で幕を開けた近代の讃岐国(香川県)は反骨の歴史であった。古代から讃岐国としてまとまってきたが、香川県に落ち着くまでが大変であった。廃藩置県で高松藩は高松県、丸亀藩は丸亀県、多度津藩と天領は倉敷県、津山藩の飛地はそのまま津山県となった。その後に香川県にまとまったものの、名東県(後の徳島県)に編入されたり、愛媛県に編入されたりした。愛媛県編入時は「讃予分離ノ檄文」が出され、分県運動が盛り上がった。

    讃岐国阿野郡は権力の腐敗を言論で追及し、言論弾圧を受けたジャーナリストの宮武外骨(みやたけ とぼね)の出身地である。外骨は風刺雑誌「頓智協會雑誌」を創刊した。明治二二年(一八八九年)、頓智協會雑誌に戯画「頓智研法発布式研法」を掲載し、大日本帝国憲法発布をパロディ化した。「第一條、大頓知協会ハ讃岐平民ノ外骨之ヲ統括ス」とする。外骨は天皇が薩長藩閥の傀儡に過ぎないと見抜いていた。
    しかし、これが不敬罪に問われて、三年八か月も投獄された。明治政府にとって痛いところを突いていたことを示すものである。その後も言論弾圧を受けたが、官僚の腐敗を批判し、権力批判を続けた。警察署長の不正などの警察不祥事や悪徳商法も告発した。

    香川県は民衆運動が強かった。日本農民組合香川県連合会は全国一の組織力があった。一九二七年(昭和二年)末に一二七支部一二二六三人であった。これは二位の新潟県の一三〇支部六八九一人よりも圧倒的な差である。農民運動の先進地であった。

    一九二三年(大正一二年)には大規模な小作争議の伏石事件が起きた。日農伏石支部は小作料を恒久的に三割減額するよう地主に要求し、小作米の七割から八割程度しか納入しなかった。
    地主側は稲に対する動産仮差押えを行い、小作側は弁護士に相談の上、事務管理及び留置権を根拠として、稲を刈り取り、保管した。この稲の刈り取りに対し、地主側は窃盗罪で告訴した。
    警察は小作農民および日農の伏石支部長・香川県連合会長・顧問弁護士ら二三名を窃盗や窃盗教唆の容疑で逮捕した。取調べは苛烈を極め、悪罵・威嚇による自白の強要や拷問に近い行為が連日長時間繰り返された。警察への抗議行動は全国に広がった。争議の結果、小作料は一割七分五厘減となった。

    香川県では一九二七年(昭和二年)に初の普通選挙の県会議員選挙が行われた。日農香川県連が支持した労働農民党は六名立候補し、浅倉菊雄ら四名が当選した。ところが、警察は労農党を治安維持法違反で弾圧し、労農党香川支部は壊滅した。浅倉菊雄は一九二八年(昭和三年)の三一五事件で検挙、起訴され、肺結核もあって転向声明をした。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/683299

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