産業革命 (世界史リブレット 116)

著者 :
  • 山川出版社
4.00
  • (7)
  • (8)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 124
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (90ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634349544

作品紹介・あらすじ

産業革命はなぜイギリスで最初に起こったのだろうか、産業革命はどのような意味で革命的なのか、そして産業革命は人びとの生活にどのような影響を与えたのだろうか。本書は、最新の研究成果に拠りながら、こうした問題に答えることを課題としている。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • グラフや写真なども豊富で非常にバランスのとれたまさにリブレットという感じの概説書。序盤に産業革命の研究史のまとめから始まってくれているのがありがたい。産業革命という言葉がフランス系知識人~始まっているというのも興味深い。産業革命に大きな断然を認めるか連続を重視するかというのは、日本の歴史研究でもあるある。イギリス(イングランド)経験論が産み出したものという流れをも少し深く知りたかったのと、エゴドキュメントに言及されているのだから、具体的なエゴドキュメントをひとつでもいいから引用してほしかったのが、要望。

  • 山川出版社のリブレットシリーズは初めて読んだが大変読みやすいつくりである。版面の上段3分の1ぐらいが用語解説および図表のためにあてられ(これと別に1ページ大の図版が入ることもある)、残りの下段3分の2に本文が入る構成となっている。本書の場合は参考文献を入れても90ページ(他の巻も似たようなものだろう)、読書慣れしていない人にも安心して薦められるボリュームだ。

    さて、本書の内容についてだが、わかりやすい文章で様々な論点をフォローしており、非常に手堅い印象を受ける。そのなかで特筆すべきは先行研究への念入りな論及であろう。論争史の大まかな流れがわかるようになっており、ある学説がどのような時代背景を持って登場してくるかといった点でも興味深いサンプルとなっている。

  • 産業革命に関する教科書の記述は、私たちが高校生の頃と比べてだいぶ変わってきました。私たちは18世紀後半にイギリスより開始されたと習ってきましたが、今の教科書では、例えば山川出版社の『詳説世界史』の注で「18世紀末のイギリスにおける経済成長率は、まだそれほど高くはなかった。」、東京書籍の『世界史B』では「18世紀後半のイギリスにはじまり、19世紀を通じて欧米世界で展開した技術革新と工業化が、経済活動の膨張と長期的な経済成長をもたらしたことはたしかであるが、その成長率は現代の目からすれば、きわめて低いものであった。」と書かれています。
    本書ではこれら最近記述が変化してきた産業革命像について詳しくその流れを知ることができます。
    曰く「蒸気機関は近代産業都市の形勢の原動力となり、「天高くそびえる煙突から煙を吐く工場」が古典的な産業革命のイメージを形成していった。しかし、「世界の工場」と呼ばれた産業革命期のイギリスにおいても、主要な生産形態が、伝統的な職人たちによって担われる仕事場(ワークショップ)生産にあったことが指摘されている。」(46頁)
    しかし、やはりこの時期のイギリスは特筆すべきものでした。「1700年代から1870年代にかけて生じたイギリスの産業革命とは、独特な2つの段階から構成されるものであった。18世紀をつうじて、人口は安定的に成長しながら、都市化によって農業から製造業への産業構造の転換が進み、人びとの勤労意欲も高まっていった。綿業や製鉄業などの一部の産業部門は、技術革新によって成長率が変化した。しかし、国民所得の上昇は緩慢で、労働力構成も安定的であった。全体的にみれば、経済の変化は小規模なもので、それが産業革命の開始を告げるものではなかった。それは、この経済成長が既存の有機物依存経済(人力・馬力・水力など)の枠組みの内部で発生したからである。アークライトの水力を利用した紡績機、河川や馬車によるターンパイク道路など交通網の発達などは、自然に依拠したエネルギー源を活用したものであり、有機物依存経済の状態にあることを示すものとなる。
    ところが、19世紀初頭のある点において、技術革新と結びついたかたちで石炭という化石燃料の使用が大幅に増大する。いわゆるエネルギー革命によって、鉱物依存経済への転換がはかられていったのである。これによって、人口動態の変化・都市化・食料生産量の増大などが一挙に進展する。それは、これに先だつ50年間の経済的発展によって可能となった経済成長のパターンだった。マクロなレヴェルでみた場合、経済成長率では(略)それほど大きな変化を生じさせることにはならなかったかもしれない。しかし、イギリスの経済や社会の構成という点からすれば、根本的な構造的変化が進行していたのである。産業革命は、その断続性・革命性がふたたび評価されるようになってきている。」(80~81頁)
    経済成長率という点も「産業革命は綿業や機械工業などの生長部門が立地する地域の急激な発展を生み出す一方で、伝統産業の立地する地域の衰退をもたらした。この発展地域と衰退地域の平均をとった場合、必然的に全国レヴェルでの平均値は発展地域のそれよりも下方に修正され、産業革命の実像を反映したものとはならない。」(63頁)と指摘しています。
    私たち高校世界史教員も、いつまでも過去の知識に引きずられないで、つねに最新の学説へアンテナをはっていなければならないことを「産業革命」の記述は教えてくれます。
    以下備忘録を一つだけ
    ・フェビアン協会の指導者ウェッブ夫妻について「イギリス史上もっとも知的なカップル」

  • 産業革命について改めて勉強しようと思い、その第一弾として本書を買いました。リブレットということでページ数は90ページほど。しかも写真や図表も多いので文章はかなり少ないですが、非常に興味深く読みました。産業革命という用語自体、いろいろな議論が行われてきたとのこと。つまり経済指標だけを見ると「革命」というほど劇的な変化はなく、あくまで連続的な変化でしかない、と主張する人と、社会生活まで踏み込めばかなり人間生活が変わった、つまり革命である、という主張です。また本書内でもっとも印象に残ったのは、産業革命の本質として、それまでの有機物依存社会が無機物依存社会(石炭など)に変化してエネルギー制約および土地利用制約が解かれたことを強調されている点でした。ページ数は少ないですが、重要な論点や本質的な議論がたくさん盛り込まれていましたので、初心者にはオススメです。

  • 産業革命期であっても、主要な産業形態は伝統的な職人による仕事場生産であり、手工業技術の生産性を高める試みが続けられた。
    断絶があるとすれば、18世紀までの有機物依存経済から19世紀の鉱物依存経済への変化が挙げられる。人口動態の変化、都市化、食料生産量の増大は更なる工業化を進展させた。

  • 学説の歴史的紹介。

  • 英国産業革命に関する最も簡便な入門書。植民地の意味、イノベーション、女性労働や児童労働、生活水準論争などマクロからミクロまで網羅されている。

  • イギリスで起こった産業革命は、土地、資源、植民地など、多くのことが重なりあって起こったものだと分かった。
    グラフや図も理解を助けてくれました。
    ただ、一読しただけでは汲み取れない部分もあったので、今後も勉強が必要。
    まとまっていて読みやすい。

  • 332.06||Ha

  • 世界史に詳しい人には常識なのかもしれないけど、自分には興味深いことが多かった。そもそも、産業革命がなぜイギリスで起こったかという問題の分析で、「プロテスタンティズムの倫理」がでてこない!勤勉革命は出てくるけど、ここでも「プロ倫」には触れられてないし。もう「プロ倫」って古いんだね。知らなかった。
    他にも、労働時間か急激に伸びていって「朝食の発明」がされたらしいという話も面白かった。あと産業革命によって生活水準は向上したか、という論点について、実質賃金の上昇は確かにみられるが、男子の身長の記録を見るとむしろ低下してるんだって!

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

北海道大学大学院教授。

「2019年 『家族の命運』 で使われていた紹介文から引用しています。」

長谷川貴彦の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×