- Amazon.co.jp ・本 (96ページ)
- / ISBN・EAN: 9784634350298
作品紹介・あらすじ
西ヨーロッパの古代から中世への歴史的転換にあたって、カール大帝が政治や文化や経済にはたした寄与は極めて大きなものがあった。それはこの傑出した王の個人的資質もさることながら、彼が活躍した時代相との幸運な巡り合わせというものもあった。本書ではこれを、西暦一千年紀後半に世界システムが実在したとする最新の仮説を軸とした文脈の中で考察した。
感想・レビュー・書評
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世界史のヨーロッパ史のうち、いまいちよくわからない時代に出てくるのがカール大帝(シャルルマーニュ)である。
※以下はカール大帝で表記を統一する。
カール大帝(742~814年)の時代に、ヨーロッパでは他に何が起こっていたのだろうか。
『山川世界史総合図録』によれば、大きな出来事として732年に「トゥール・ポワティエの戦い」があり、756年には「後ウマイヤ朝」が成立した。
…それくらいである。
ほとんどの方はイメージが湧かないのではないか。
僕も湧かない。
そんな時代に活躍したカール大帝は「ヨーロッパの父」と呼ばれることになるが、どのようなことを成し遂げたのだろうか。
カール大帝は、カロリング朝の後継者である。
「カロリング」とは「カール家の」といった意味であり、それが指すのはカール・マルテル(688頃~741年)である。
カール・マルテルは既に挙げた「トゥール・ポワティエの戦い」に勝利をもたらした人物だ。
ちなみに「マルテル」というのは「鉄槌」という意味だそうだ。
「トゥール・ポワティエの戦い」とは、イベリア半島(スペイン・ポルトガルがある半島)から中央ヨーロッパへ侵入してきたイスラム教軍を撃退した戦いである。
カール・マルテルの息子が「ピピンの寄進」で知られる小ピピンであり、フランク王国においてメロヴィング朝に代わりカロリング朝を開くことになる。
「ピピンの寄進」とは、イタリアのラヴェンナ地方を教皇に献上したことを指す。
その小ピピンの息子がカール大帝である。
つまりカール・マルテルの孫にあたり、そもそもはフランク王国カロリング朝の王に過ぎないのであるが、なぜ「ヨーロッパの父」と呼ばれるようになったのか。
それは、彼の極めて広範な活動によるところが大きい。
「もう1人のアレクサンドロス大王」であり、その戦歴は「もうひとつのガリア戦記」とも呼べるだろう。
カール大帝は、まず773年にランゴバルド王国を制圧する。
ランゴバルド王国はローマなど教皇領を除くイタリア本土全体を支配していたゲルマン民族の国家である。
次に、異教徒の国であるザクセン地方(現在のドイツ)の制圧に向かう。
これには772年から804年まで30年を要した。
またザクセンと戦う傍ら、イスラム領であったヒスパニア(スペイン)へも778年に進軍を行い、カタルーニャ地方に領地を創設する。
ちなみに、このときのスペインを支配していたイスラム国家が冒頭で登場した「後ウマイヤ朝」である。
カール大帝は、さらにバイエルン地方にも787年に進軍し制圧。
そこからさらに東に進み、791年に東欧、現在のスロヴァキアあたりを支配していたモンゴル系民族であるアヴァール人と戦うことになる。
ただ、その軍事力は弱く、また自発的なキリスト教への改宗もあったようで制圧は容易だったようである。
こうしてカール大帝は単なるフランク王国の王から、西はスペイン手前、南はイタリア、北はドイツ、東は東欧という広大な地域を支配下に置くことになる。
そして800年、カール大帝は西ローマ帝国の皇帝としてローマ教皇から戴冠される。
476年にゴート族により滅ぼされてから途絶えていた西ローマ帝国の復活である。
ここで対立することになるのがビザンツ帝国(東ローマ帝国)であった。
というのも、ビザンツ帝国がローマ教皇による権威を失うということは、その正当性に関わる問題になってしまうからだ。
806年、ヴェネツィアにて西ローマ帝国とビザンツ帝国の戦闘が行われるが、最終的に和平となったようである。
その後、カール大帝が支配した広大な領地は彼の死去に伴い分裂し、現在のフランス・イタリア・ドイツなどの原型となる。
カール大帝のもうひとつの大きな功績は、その領土拡大に伴った文化的交流であった。
それは「カロリング・ルネサンス」と呼ばれる。
イタリア・ルネサンスの800年前である。
本書によればカロリング・ルネサンス(800年頃)以前には写本は2000点しか存在しなかったとされているが、その後100年間で8000点もの写本が生み出されたという。
また正確で読みやすい「カロリング(カロリーナ)小文字」の発明も、カロリング・ルネサンスの産物であった。
これについてはWEBサイト「世界史の窓」によるメロヴィング文字とカロリング文字の比較画像が分かりやすい(http://www.y-history.net/appendix/wh0604-018_1.html)。 -
ヨーロッパの父、カール大帝。世界史リブレットの「人」であるが、他の方も行っている通り、カール大帝にまつわる出来事はそれなりに記されているが、その人となりはほとんどわからない。もっと人物に迫ってほしかった。でも、全体的にはわかりやすくてよかったとは思う。
14/9/16