パクス・アメリカーナへの道: 胎動する戦後世界秩序 (歴史のフロンティア)

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  • 山川出版社
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784634481107

作品紹介・あらすじ

20世紀後半の世界を大国としてリードしたアメリカ。転換点となった第二次世界大戦への参戦から国連構想、原爆製造、冷戦へといたる合衆国の世界政策の展開を解き明かす。戦後秩序の世界史的意味を問う。

感想・レビュー・書評

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  •  現・京都大学大学院文学研究科教授(アメリカ現代史)の紀平英作の著作。著者は現役では日本屈指のアメリカ史研究者である。

    【構成】
    序 章 第二次世界大戦
    第一章 戦後構想立案の開始
    第二章 国際関係の組織化
    第三章 フランケンシュタイン・モンスターの誕生
    第四章 戦後ヨーロッパと反共のレトリック
    第五章 パクス・アメリカーナの構築に向けて
    終 章 戦後世界の位相

     すぐれた歴史書とは「細かい実証を重ねて、スケールの大きな歴史の変動を叙述する書」であると思う。

     そのような視点からすれば本書は、「優れた歴史書」であろう。やや誇張した表現を使用すれば、ヨーロッパにおいて、第二次世界大戦がはじまったその時点から、アメリカ合衆国の「戦後構想」はスタートする。

     本書は主として、大西洋を挟んで向き合うアメリカ合衆国とヨーロッパ、それも主として西ヨーロッパ諸国との戦後関係が、戦中からどのような議論の推移を経て構築されたのかという極めてダイナミックな歴史の変動を対象にしている。第1章のブレトン・ウッズ体制、第2章の国際連合構想、第3章の核兵器と軍事戦略、第4章・第5章のマーシャル・プランと反共思想の台頭と、政治経済の多角的な視点を設け、アメリカが志向した対ソ連、対西欧政策を展望する。

     戦中、FDR政権内で検討された幾分ウィルソニズム的なリベラルな戦後構想は、ソ連を戦後国際社会にいかに迎えるのか、あるいは来るべき国際組織の軍事機能をいかに効率的に遂行するのかという点が重視されていた。
     しかしながら、1943年以降、東ヨーロッパにおいて攻勢に転じたソ連が、圧倒的な陸軍兵力によって周辺地域を影響下に収めていく状況は、米英両国にソ連へ強い警戒感を抱かせるのに十分であった。
     そして、このようなソ連情勢と西ヨーロッパの予想以上の弱体化は、アメリカによる強力な西欧支援諸国支援と、終戦後に急速に必要性が論じられるようになったドイツの経済復興を行わせることになった。
     このようなアメリカの世界大の構想は、大西洋主義を明確に示すものであったが、反面、戦後の東ヨーロッパへの支援と関心を切り捨てる思想を包含していたと著者は論じる。

     「パクス・アメリカーナ」という思想的現象を、FDR・トルーマン両政権の残した公文書や枢要な人物たちの残した文書に依拠しながら、緻密にしかもダイナミックに描く本書のロジックとレトリックは目を見張るものがある。

     ただ、あたかも紀平先生が大学の教室で講義しているかのような遠回りでもったいぶった言い回しや、経緯説明を突然打ち切って結論を述べるような議論の進め方は、好悪がわかれるかもしれない。

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著者プロフィール

京都大学大学院文学研究科教授
1946年 東京都生まれ。
1969年 京都大学文学部史学科卒業。
1972年 京都大学大学院文学研究科博士課程現代史学専攻退学。
1983年 京都大学文学部助手を経て、同助教授。
1996年 京都大学文学部助教授を経て現職。

主な著書
『ニューディール政治秩序の形成過程の研究』(京都大学学術出版会、1993)
『パクス・アメリカーナへの道』(山川出版社、1996)
『歴史としての核時代』(山川出版社、1998)
『帝国と市民』(編著、山川出版社、2003)

「2004年 『ヨーロッパ統合の理念と軌跡』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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