穂高に死す (ヤマケイ文庫)

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  • 山と渓谷社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784635047838

作品紹介・あらすじ

近代アルピニズムの黎明期、その揺籃の地となった槍・穂高連峰では、数々の輝かしい初登攀の記録が打ち立てられたが、その陰で凄惨な遭難事故も起きていた。そのなかには歴史に名を残す著名な登山家も数多く、加藤文太郎(北鎌尾根)、大島亮吉(前穂北尾根)、松濤明(北鎌尾根)なども含まれていた。槍・穂高の登山史を振り返りながら、若くして山に逝った登山家たちの青春群像を描いた話題作。

感想・レビュー・書評

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  • 本人も登山に親しみ、井上靖の名作「氷壁」の資料提供者の一人でもあった安川茂雄がものしたドキュメント。
    遭難した山男たちのエピソードを集めたうち、明治~昭和、終戦後までの、日本の冬山高峰登攀黎明期の中にあって穂高で起こった遭難を扱っています。
    中には加藤文太郎など著名な山男の記録もあり、彼の「単独行」読書の前に触れられたのはよかったと思います。

    印象としては、WW2の戦前と戦後では(戦後の遭難エピソードは少ないので比較しづらいことは確か)、遭難の内容がちょっと違うということ。
    著者も本文中に書いているけれど、高峰登攀についての基礎訓練・心構えなどが違うこと。
    おそらく、一つずつ積み上げてきた登山のノウハウや訓練の仕方が、経験者らの戦死や戦後の学制改革で途切れてしまったことが原因の一つ。
    ここでも戦争の悲劇の一端が見える気がします。

    少し変わったところでいえば、山岳画家の茨木猪之吉。
    登ることと絵を描くことの違いがあるとはいえ、山への狂気的な愛情は登山家にも劣らない凄まじさでした。
    「一登山家の遺書」の松濤明の人柄と遺書はドラマチックすぎて涙が止まりませんでした。

    亡くなった登山家たちは山を愛し、山を深く理解しようと努め、何度も窮地をくぐりぬけて来ても、ある時にふっと山に取り込まれてしまう。
    ここまで山男たちの愛が深いのを知らされると、愛した人間だからこそ山はその腕に抱きこんでしまうのかと思わざるを得ません。
    『山で死んで幸福だ』と思い込みたい妄執。
    著者のこの一文で、やはり遭難は悲劇だとしか思えませんでした。

  • 山に行ったことのある人ならば、単独で山に入ったことがある人ならば少なからず「これはマズい状況なのでは?」という経験はあるのではないだろうか。
    ガスっている雪渓を降るこの先に、もしかしたら巨大な氷穴があるかもしれない。
    どうやって降りるんだ。
    とにかく情報量の少ない中で行動を選択しなければならない時がある。

    巻末に書かれているように登山黎明期と現代ではあまりにも状況が違う。

    まぁいいや、あの尾根を歩いた日々もあの国境越えた夜もずいぶん昔のことになってしまった。まぁいいのだ。

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