米軍基地の歴史: 世界ネットワークの形成と展開 (歴史文化ライブラリー 336)

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  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642057363

作品紹介・あらすじ

米軍基地ネットワークはいかに形成されたか。第二次世界大戦を経て核兵器の時代を迎える中、米国本土への直接攻撃を回避するため巨大な基地群が築かれる。普天間の形成過程も明らかにした、基地を考えるための一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 【米軍基地はアメリカのためにある】
    在日米軍は日本を守るためにあるのではない。あくまでアメリカ本土を守り、アメリカのグローバルな国益を守るために駐留しているのである。
    本書は、ともすれば多くの日本人が認めたがらないこの当然の事実を、第二次世界大戦後の海外の米軍基地形成過程をたどることによって実証している。敗戦国や、英仏の植民地ネットワークを土台として全世界的に展開された米軍の海外基地の狙いは、あくまで米国の敵対勢力を本土からはるか離れた前線で撃破することだった。こうした超大国アメリカの身勝手な国際戦略が冷戦下も冷戦後も「変更すべきでない現状」としてまかり通っているのだ。
    米中対立の中で、日本政府が「前線」を自ら引き受けようしている現在、「何のための米軍基地か」を見据える必要がある。
    本書が、戦後史における戦争責任問題回避と米軍基地容認との結託を指摘している点も重要である。(本土に沖縄の米軍基地を引き取る福岡の会/門倉)

  •  19世紀末以降、現在に至るアメリカ軍の軍事基地の世界展開史。アメリカ政府・軍の未刊行文書を中心とする多数の史資料から、米軍基地がいかに拡大し、世界規模のネットワークを形成したかを、国際関係の変容や基地受入国・地域との緊張を軸に明らかにしている。特に沖縄や日本本土の米軍基地の歴史的変遷を局地的ではなく、世界史的・巨視的視野から実証的に位置づけ、他の米軍受入国との共通点と相違点が明確に示されている。米軍基地に起因する性売買・性暴力に1章を割いているのも特筆に値する。米軍の世界展開の背景に依然として植民地主義が抜きがたく存在し、他方、在地の基地反対運動や政権の交代が米軍の展開を強く制約していることがよくわかる。

  • メモ

    ☆米軍の方針
    抵抗が少なければ、住民の人権よりも自らの軍事目的を優先

    ☆日本の利用
    ナイキ(核非核両用兵器)→日本人に核を受け入れさせる上で「理想的な道具」

    核兵器貯蔵容認へ向けて→核エネルギーの平和利用、原潜の日本寄港(慣らし)

    ☆琉球政府時代
    米軍によって容認される範囲内での限定的な自治組織
    →裁判所があっても米兵犯罪は裁けない

    53年、土地収用令
    収容告知後30日以内に所有者が譲渡の諾否を判断しない場合、米軍が強制的に土地を収用できる
    →銃剣やブルドーザーの使用(家も潰す)、農耕をやめさせるためにガソリンをまいて農地を焼き払う、深夜の襲撃、立ち入り禁止区域に入った農民の逮捕や懲役刑

    ※沖縄の反発
    →四原則(一括払い反対•適正補償•損害賠償•新規接収反対)

    54年、軍用地料一括払い計画(定額の借地料16.6年分を一括で支払うことで永代借地権を設定)、プライス勧告(土地収用の正当化と今後の土地接収の容認)
    地代→当時のコーラやタバコ代より安い

    58年末、一括払い廃止の合意

    59年2月「賃借権の取得について」
    地代は毎年支払い、五年毎に評価更新、地代の引き上げ(6倍)
    ※強制的な土地接収と無期限使用は変わらず

    日本復帰→米軍基地から解放される手段として主張
    しかしかえって米軍基地を増やすことに(本土のもの、海外基地縮小のしわ寄せが沖縄に

    普天間基地の海外や県外移転を日本政府が阻止

    沖縄は日米両政府から半植民地的な扱いを受け続けており、しかもそれを支えているのが日本本土の国民
    (P131)


    東アジアの民衆が分断され、米軍のみが東アジアに軍事的ネットワークを持っている状況では矛盾は押し付けやすいところに押し付けられる

    ☆戦争責任と基地
    吉田茂
    在日朝鮮人の「多くは共産主義者並びにそのシンパ」→朝鮮半島への追い返し、講話会議出席反対→独立回復後、旧植民地の住民の日本国籍の一斉剥奪

    戦犯解放運動
    戦犯は「等しく国家のため戦争に従事し、戦敗という現実によって生じた一種の犠牲者」
    加害行為に目を背け、戦犯を戦争犠牲者と見る見方が社会に蔓延

    各国(共産圏)戦犯釈放の動きと共に、釈放しないアメリカとの協力関係に疑いを匂わせた岸信介内閣→岸信介内閣支援の一環としての戦犯釈放

    東アジア諸国
    韓国
    米軍政下では対日協力者を利用。
    李承晩→それに依拠して政権維持

    朴正熙→陸軍士官学校の後、満州で抗日運動鎮圧
    民衆の不満のはけ口として日本の植民地支配の批判を許可したものの、対日協力者への批判は許されず、植民地支配による被害者たちの声を圧殺(故に90年代まで慰安婦被害者をはじめとする被害者たちは声を上げれなかった)
    朴正熙政権との国交樹立と支持
    →日本の植民地責任の封じ込めを意図

    台湾
    中国との対立に着目し、支持
    日米の支援を得て生き残りを図ろうとする国民政府が対日賠償放棄→中国への戦争責任について考える機会を逸する

    70年代の日独
    ドイツ
    東方外交のようにソ連や東欧諸国への積極的外交、ナチスドイツの罪を認め謝罪と責任の明確化による緊張緩和→その積み重ねが欧州冷戦構造の解体に繋がる

    日本
    冷戦構造を利用しながら、戦争責任や植民地責任から逃れようとし続けた→日本の民主化と軍事負担の軽減と経済安定の重視が周辺諸国や地域での軍事化、民主化の抑圧につながる


    ☆基地と性売買
    沖縄
    慰安婦+生きていくための売春
    (一定の制限はあるものの黙認)
    韓国
    朝鮮戦争後、政府による国連軍や韓国軍向けの慰安所

    基地周辺でのセックス産業拡大
    米兵→自国民や観光客向け

    性犯罪についての意識の鈍化?

    ☆刑事裁判権
    日米地位協定
    裁判権競合の際
    「もっぱら合衆国の財産もしくは安全のみに対する罪又はもっぱら合衆国軍隊の他の構成員もしくは軍属もしくは合衆国軍隊の構成員もしくは軍属の家族の身体もしくは財産のみに対する罪」
    「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」
    ⇒米国に裁判権


    「第一次の権利を有する国の当局は他方の国がその権利の放棄を特に重要であると認めた場合において、その他方の国の当局から要請があったときは、その要請に行為的考慮を払わなければならない」

    密約
    日米間で犯罪通知がなされてから「比較的軽微な罪」は10日以内、「その他(殺人、強盗、強姦等の重い犯罪」は20日以内に裁判権行使の意思を相手に通告しなければ、自動的に裁判権を放棄したとみなす
    ⇒強制猥褻•脅迫•横領•器物損壊等は起訴せず、殺人•強盗•放火•強姦等の起訴率も低い

    なぜ、裁判権を放棄させたいのか?


    民主主義国たる米国が基地のある国の民意を無視できない⇒民主党政権の誕生と基地除去への動きは強固に主張されれば変化はあったはず(マスコミと政府内部からの抵抗)

    米軍基地が日本の安全に貢献している=多くの人を殺し傷つけ痛めつける施設を受け入れることによって、自らの安全と利益を得ようとしている

    日本の戦争責任、加害者であったことの反省と責任から逃げ続けている日本国民⇒沖縄戦で沖縄の人々を犠牲にしたことを直視しようとしない日本国民は現在でも沖縄に基地の犠牲を押し付けている

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著者プロフィール

1955年、兵庫県神戸市生まれ。1985年、一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。現在、関東学院大学経済学部教授、日本の戦争責任資料センター研究事務局長。専攻は現代史、軍隊・戦争論。主な著書に『暴力と差別としての米軍基地』(かもがわ出版)、『沖縄戦と民衆』(大月書店)、『沖縄戦 強制された「集団自決」』(吉川弘文館)、『戦犯裁判の研究』(勉誠出版)、『戦後平和主義を問い直す』(かもがわ出版)、『シンガポール華僑粛清』(高文研)、『BC級戦犯裁判』(岩波書店)、『裁かれた戦争犯罪』(岩波書店)、『「慰安婦」・強制・性奴隷: あなたの疑問に答えます』(御茶の水書房)等多数。

「2015年 『日本軍「慰安婦」問題の核心』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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