松陰の本棚: 幕末志士たちの読書ネットワーク (歴史文化ライブラリー 437)

著者 :
  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642058377

作品紹介・あらすじ

幕末、古今東西の書物を読破し日本や世界の情報を収集した?読書魔?吉田松陰。彼にとって書物とは何だったのか。水戸学の代表作『新論』を求め続けた松陰の知的遍路や、獄中に記した『野山獄読書記』から松陰の思想形成の変化を追う。各地の志士たちとの書籍貸借が育んだ同志的ネットワークの展開にも迫り、書物を通して新たな幕末の姿を描く。

感想・レビュー・書評

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  • 吉田松陰(1830.8.4~1859.10.27)について私の知っていることと言えば、松下村塾を開いた学問の人であり、思想の過激さゆえに「安政の大獄」で若くして命を落とした人、という程度。
    授業で習った域から出ていない。
    著者の桐原さんは2010年10月、『吉田松陰の思想と行動――幕末日本における自他認識の転回』(東北大学出版会)で第4回日本思想史学会奨励賞を受賞している。
    本書では松陰の読書について考察する。まあ、たくさんの書名が出てきたこと。

    松陰には「山鹿流兵学師範」という社会的身分があった。
    明倫館の師範となるも、22歳のときに東北遊学の旅に出る。
    「遊学」という文字で騙されそうだが、目的は北方のロシアや満州に近い地であるという海防論的な関心から来るもの。守るべき日本への思いがあったということだ。
    しかしこれが「脱藩」の罪に問われ社会的地位ははく奪されて浪人の身となる。

    さて彼はどうしたか。
    日本の姿を確認しようと全国遊学の旅に出ていく。もちろんただの「遊」ではない。
    1854年・25歳のとき、浦賀にやってきたペリーの船に乗り込んで密航を企てるも失敗。
    地元である萩の「野山獄」に投獄され、ここから本格的な読書生活が始まっていく。
    約4年で1460冊もの書物の読破である。ひと月に約40冊というすごい読み手だ。
    遺された「野山獄読書記」には読んだ本の内訳が記されている。
    著者はこれを丁寧に分析し、図表化して解説してくれる。
    本書の最大の見どころはここだろう。読了した本が、枚挙に暇がないほど登場する。

    歴史書が全体の4割。日本と日本を取り巻く国々の理解のため。
    はじめは「水戸学(徳川光圀から始まった政治思想)」から読み漁り、次は「国学」。
    国語学や神道系を学び、自らを「日本人」として語るための根拠を作り上げようとした。
    野山獄では「首を図書に埋め」るように暮らしその境遇を「天下の至楽」と称している。
    松下村塾をひらくのは、在所蟄居(自宅謹慎という刑罰)の身となってから。
    読書人から思想家・実践家へと進化し、幕末維新に大きな影響を与える存在になっていく。

    「江戸の蔵書家たち」「江戸の読書会」で読んだことが本書でも繋がった。
    レア本を読むことはコネクションを構築することに繋がる。
    蔵書家の仲立ち、書物の貸借や贈与を通じて国学者などと親交を持ち「読書ネットワーク」を築きあげていく。
    「知の共有」はやがて同志を増やし、松陰と志を同じくする者を育てていったのだ。

    「万巻の書を読むに非ざるよりは、いずくんぞ千秋の人たるを得ん。
    一己の労を軽んずるに非ざるよりは、いずくんぞ兆民の安きを致すを得ん」

    松下村塾にある松陰の言葉である。
    「たくさんの書物を読破するのでなければどうして長い年月にわたって名を残す、不朽の人となることができるだろうか。できはしない。
    わが身に降りかかる労苦を何とも思わないような人でなければ、どうして天下国家の人々を幸せにすることができようか。できはしない。」
    ・・見学したことがあるが、これは覚えていなかった。読書量も覚悟も桁外れではある。

    「安政の大獄」という異常な政治弾圧の中で30歳にして世を去った松陰だが、生きて維新を目の当たりにしたら何と言ったろう。
    膨大な読書から得た知見で、どんな書を著したことだろう。
    明治維新そのものについても史観が見直されている。
    そんな歴史には興味もないわというひと、ちょっと考えてみて。
    立役者はみな、現代で言う「公務員」だった。そう思うと、見方も変わるかと。
    本の小さな旅は、意外な道を行くこともあるのが楽しい。

    • kuma0504さん
      私の卒論は中江兆民でした。おゝ、こんなところに「兆民」の文字が!とは言っても、兆民に吉田松陰の影響はありません。でも、吉田松陰は近代日本思想...
      私の卒論は中江兆民でした。おゝ、こんなところに「兆民」の文字が!とは言っても、兆民に吉田松陰の影響はありません。でも、吉田松陰は近代日本思想史を考える際には避けて通れないひとです。彼はあえて自らを「狂える人」と表現しました。世の中が狂っているのだから、狂わないと対処できないとしたのです。そこから、現代の危機に対して教訓があるという人もいます。明治維新の思想家は、いろいろ面白いです。
      2020/12/21
    • nejidonさん
      夜型さん。
      生年月日はあえて入れてみました♪
      もしや気が付いて下さるかと思いまして。
      同じ誕生日に歴史に名を残すひとがふたりも揃いまし...
      夜型さん。
      生年月日はあえて入れてみました♪
      もしや気が付いて下さるかと思いまして。
      同じ誕生日に歴史に名を残すひとがふたりも揃いましたね。
      それにしてもひと月40冊!!
      ライトノベルではありません(笑)
      どれも学問のための書物です。すごい学習意欲ですよね。
      2020/12/21
    • nejidonさん
      kumaさん。
      ふふ、きっとコメントを下さると思いました。
      何と卒論が中江兆民だったのですか!
      その頃から筋金入りの歴史好き・研究好き...
      kumaさん。
      ふふ、きっとコメントを下さると思いました。
      何と卒論が中江兆民だったのですか!
      その頃から筋金入りの歴史好き・研究好きだったのですね。
      松陰に関しては、歴史ドラマなどで見る限りほんの少しかすめる程度の登場の仕方です。
      あれはあんまりですね。
      今度はしっかりツッコミを入れながら見てやろうと思います(*'▽')
      2020/12/21
  • 類似する研究はあったが、思想的背景よりも読書とそのネットワークから松陰の遍歴をたどる。野山の獄で松陰は一月に四十冊のペースで読書している。矢張り怖るべき巨人と言うべき。また、蔵書。読書遍歴からジャンル別に著書を整理して、一覧になっており、松陰の読書傾向が一目でわかるようになっている。誰でもできる研究だが、誰もしなかったのは何故かとも思われるが、ともかく、羨ましい研究。

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著者プロフィール

桐原健真(きりはら けんしん)1975年生まれ。専攻は近代日本倫理思想史。金城学院大学教授。主な著書に『松陰の本棚――幕末志士たちの読書ネットワーク』(吉川弘文館、2016年)がある。

「2018年 『カミとホトケの幕末維新』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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