遠野物語と柳田國男: 日本人のルーツをさぐる (556) (歴史文化ライブラリー 556)
- 吉川弘文館 (2022年8月20日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
- / ISBN・EAN: 9784642059565
作品紹介・あらすじ
東北地方の山間盆地に伝わる説話や体験談を筆記・編纂し、日本民俗学の出発点となった『遠野物語』。山姥など異世界の住人、河童・ザシキワラシといった妖怪や、犬・猿・馬などが登場し、臨死体験、神隠しなど不思議な話を収めたこの著作から、柳田は何を説こうとしたのか。伝承にひそむ古来の生活様式やものの見方を知り、日本人の歴史的変遷を探る。
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
●は引用、その他は感想
●前掲の表1にあげた著作も含めて以上のような研究史を確認してみると、実に多くの研究者が『遠野物語』に注目してきたかがわかります。そして、『遠野物語』が柳田国男の代表的な著作であり、日本民俗学の出発点であったという言い方はよくなされてきているのに、肝心の民俗学の分野からの『遠野物語』への論及がほとんどない、というのがその特徴だといってよいでしょう。
●その『定本柳田國男集』では、その中に日本、日本人、を含む文章や単語はおびただしく見つけられるのですが、日本人とはこのようなものだ、というような型にはまった解説はありません。それは、柳田の日本民俗学、民間伝承学つまり民俗伝承学というのは、伝承学トラディショノロジーであり、日本人の生活文化のあり方の古いものから新しいものへというその伝承と変遷の段階差を歴史の中に読み取ろうというものだったからです。ですから、すべて常に伝承と変遷の中にあるのであり、固定的な日本人論も完結的な日本人論もありえないのです。その代わりに、現在の日本人はどのような歴史の伝承と変遷の中で形成されてきているのか、どうしてこのような習性が身についているのか、その歴史的な段階的な変遷についての言及ならいくつか見られます。→本書でも『遠野物語』に語られている山人、ザシキワラシ、オシラサマなどがどういう歴史的伝承と変遷を経て、そういう風に語られるようになったかを、柳田の他の著作を引用して説明している。 -
昨年の秋、岩手を旅して遠野市立博物館を訪問してから、改めて「遠野物語」が気になっています。その後すぐNHKの「100分de名著」で折口信夫の「古代研究」が取り上げられていて日本の民俗学の系譜にも心惹かれています。そんなタイミングで朝日新聞でこの本の著者のインタビューが掲載されていて、手にした次第です。日本人が,明治以降の近代化の流れの中で「山の民」とどう関係して来たのか、そしてそれ以前から狼や猿や、河童やザシキワラシや、神々を含めた自然とどう向き合ってきたのか、柳田国男が「遠野物語」の自費出版という小さなアクションで開いたドアはこんなに大きいのか、と感じています。しかし、出版すぐには流れにならず、1975年の柳田国男生誕百年記念ちょっと前からの光のあたり方には意表を突かれました。吉本隆明や三島由紀夫の引用(著者としてはその引用に批判的な部分もありますが…)もきっかけとなっているという指摘は、時間感覚が間近に思えます。その時代の高度経済成長疲れの「ディスカバージャパン」に代表される海外ではなくて国内に目を向ける流れにもシンクロしているのかも、と思ったり。「ディスカバージャパン」のキャンペーン、「遠野物語」への注目、そして乱暴承知で言うと「水木しげる」の台頭、って全部シンクロしているような気がしました。日本人って、いったい…って考察、まだまだ深まりそうですね。全然、関係ないけど「日本語からの哲学」を読んですぐ、本書の「です・ます体」の研究書に巡り会い、びっくりしました。