総力戦とデモクラシー (戦争の日本史 21)

著者 :
  • 吉川弘文館
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784642063319

作品紹介・あらすじ

山東半島の利権をめぐり第一次世界大戦に参戦した日本。ドイツとの開戦、英・中国との外交交渉の過程からその国家的意志を追究。シベリア出兵へ続くヨーロッパの政治状況の構造変化を、反戦思想家の足跡から検証する。

感想・レビュー・書評

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  • 「戦争の日本史」シリーズの一冊として、第一次世界大戦とシベリア干渉戦争を取り上げている。本書の課題として、「東アジアがなぜ戦争の舞台となったのか、そして、それが何をもたらしたのか」ということと、「反戦とデモクラシーの結びつき方を再検討」することを挙げている。後者の課題を考える題材として、ロマン・ロランの思想に焦点を当てている。
    戦争と国民世論、あるいはデモクラシーとの関係を考えさせられる内容だった。圧倒的な愛国主義的な国民世論の中、罵詈雑言を受けつつも、反戦思想を貫いたロマン・ロランには敬意を表する。
    成瀬正一とロマン・ロランとの交流のエピソードがとても興味深かった。また、博文館発行の『欧州戦争実記』という雑誌を通して、第一次世界大戦が日本でどう報じられていたかを分析したパートも読み応えがあった。

  • 戦争の日本史というわりには、第一次世界大戦中の思想史みたいな感じ。まぁ、日本は主戦には参加していないんで、あまり戦争にはスポットあてられないのはわかるけど、兵器の進歩的なところは書いてほしかった。
    ただ、ロマン・ロランの思想はとても示唆深いと感じる。

  • 「二十世紀の起点としての第一次世界大戦」という位置づけのもと、その戦いの中で反戦を貫き通したロマン・ロランの思想を中心に大戦中も絶えることなく広がりを見せた「反戦」「平和」の価値を見い出す一書。最終的には国民国家を超えた世界市民主義的な社会体制の見通しについても触れている、と思う。世界史的な見地から第一次世界大戦における日本の位置を考える、ということでとても興味深い。

    第一次大戦および帝国主義がいかにエゴイスティックなものであるかを描き出す部分には共感を覚えるのだけど、最後のほうで出てくる「人間的インターナショナル」とかを直接的に評価(しているように思える)するのはちょっと早急に過ぎるかな?という印象。ある意味で楽観的な近代主義的個人主義に依拠しているロマン・ロランの「人間観」に支えられた世界市民主義は、個人の前提となった「主体」が揺らいでいる現状においてまだ有効たりうるのであろうか・・・という一抹の疑念は拭えないのである。

    しかしそんなことは著者もたぶん百も承知だと思う。歴史の本(しかも「戦争の日本史」だ)という制約なのだから、デモクラシーの今日的可能性について論を展開しなかったのは当然だろう。というわけで、この本の「その先にあるもの」について、気になってしまったのでした。あ、もしかしたらこれは歴史学が今日的課題にいかに対応できるか?という疑問と同義かもしれないなあ。

    関係ないですがp57が「井上薫」になっています。本来は「井上馨」。誤植ですな。

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