チャイニーズ・ライフ――激動の中国を生きたある中国人画家の物語【上巻】「父の時代」から「党の時代」へ
- 明石書店 (2013年12月21日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (340ページ)
- / ISBN・EAN: 9784750339313
作品紹介・あらすじ
中華人民共和国の成立から、文革、経済発展を経て、いま世界の注目が集まる激動の中国社会を画家の眼で活写する。マネー至上主義と化した中国を冷静に分析しながらも、市井に生きる庶民を共感的な眼差しで描写する。上巻は革命から毛沢東の死まで。
感想・レビュー・書評
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中国人画家(新聞社の美術記者)による自伝マンガで、上下巻あわせて700ページ近い長編である。
共著者のオティエは中国在住のフランス人外交官。熱烈なマンガ愛好家でマンガ原作も手がけているそうだから、本作のプロデューサー/アドバイザー的役割というところか。本書の中にも、李とオティエが天安門事件の描き方について議論をする場面がある。
本書は当初フランスで刊行され、昨年初頭には中国でも刊行。昨年11月には、中国で最も権威あるマンガ賞だという「中国漫画大賞」も受賞している。
……というと、「なんだ、中国当局お墨付きの共産党礼賛マンガか」と思う向きもあろうが、意外にそうでもない。
大躍進政策時代に中国を襲った飢饉の惨状や文革の狂気など、中国現代史のマイナス面もきわめてリアルに描かれているし、その後の経済発展も手放しで礼賛してはいない。
文革期に1人の少年だった著者は、紅衛兵にあこがれて「反革命分子」糾弾の真似事をする。その場面に添えられた次のようなモノローグに、強い印象を受けた。
《ああ、自らを狂喜に委ねることはなんと気持ちのよいことだろう。
昨日まではみすぼらしい無数の水滴の集まりにすぎなかったのに、今日はすべてを洗い流す激流になるなんて。
誰も我々を止めることができませんでした。あらゆる時代の貴重な品々を葬り去りました。
目に見えない塵となって飛び散り、私たちの若い胸を満たしたのです。》
ただし、1989年の天安門事件については、著者は“自分は事件をメディアを通じて知っただけだし、友人知人にも当事者はいないから”と、詳細に描くことをかたくなに拒んだという。
その点をとらえて、「これは現代中国を正確に描いた作品ではない」と難ずることもできなくはない。が、いまも中国で暮らす著者にそこまでを望むのは酷だろう。
中国の市井の人々の等身大の像を焼き付けたマンガとして、本作には高い価値があると思う。イラン出身のマルジャン・サトラピの自伝マンガ『ペルセポリス』と同系列の、「異文化を知るマンガ」として優れている。
著者の絵柄は、日本のマンガとはまったく別物である。
版画的かつ水墨画的、とでも言ったらよいか。黒と白の強烈なコントラストを活かした見事な絵だが、すっきりとした日本のマンガを読み慣れた目には、かなりとっつきにくい。
それでも、内容のインパクトに引っぱられてずんずん読み進めることができる。
とくに、大躍進時代から文革期、毛沢東の死までが描かれた第一部(上巻の大半にあたる)の迫力はすごい。詳細をみるコメント0件をすべて表示