運命論を哲学する (現代哲学ラボ・シリーズ)

  • 明石書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750348261

作品紹介・あらすじ

入不二基義氏の主著『あるようにあり、なるようになる 運命論の運命』での議論を入り口に運命と現実について哲学する。未来は決定されているのか、決定されているとしたら一体どのように? 現代日本哲学に新たなページを開く本格哲学入門シリーズ、創刊。

感想・レビュー・書評

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/783311

  •  本書は2015年に講談社から刊行された入不二基義の名著『あるようにあり、なるようになる――運命論の運命』を教科書として、入不二本人および森岡正博が、その解説を試みた哲学的参考書である。『ある、なる』を読んだ読者も、これから読もうとしている読者も、同様に楽しむことができる。
     本書は大きく三部に分かれている。第一部は森岡による『ある、なる』の分かりやすい解説。第二部は『ある、なる』をめぐって2015年10月9日に早稲田大学で開催された現代哲学ラボの再現。第三部はそのラボで議論された内容に対する入不二本人による補足、さらに森岡による再考、さらに入不二による再応答、という構成になっている。
    『ある、なる』において入不二は「因果的決定論」も「神学的決定論」も採らず、また「物語的運命論」も採用しない。入不二が論じるのは「論理的運命論」である。「論理的運命論」は、他の決定論や運命論とは異なる構造を持っている。すなわち他の決定論や運命論が二項性を持っているのに対し、論理的運命論は単項性を持っている。ここでいいう単項性とは「ただそれだけでそう決まっている」という現実の全一性である。
     全一性は唯一性とは異なる。唯一性は複数性を前提としている。現実の唯一性を「複数の可能性があったはずだ」という方向で考えると、現実は複数性を帯び偶然性が立ち現れる。逆に現実の唯一性を「それが全てでそれしかない」という方向で考えると、現実は全一性を帯び必然性が立ち現れる。
     また入不二は現実を「相対現実」と「絶対現実」に分ける。「相対現実」とは中身を伴った現実であり、「絶対現実」とは中身を伴わない(無内包の)現実である。「相対現実」は唯一性を持ち、「絶対現実」は全一性を持つ。この「相対現実」と「絶対現実」の果てしないせめぎ合いを、入不二は「あるようにあり、なるようになる」と表現する。前者の「ある」「なる」は「相対現実」であり、後者の「ある」「なる」は「絶対現実」である。
     この入不二の運命論に対して、認識論的な立場から森岡は反論を試みる。すなわち入不二の運命論には人称性が欠落していると森岡は指摘するのだが、それに対し入不二は現実にはそもそも人称性はないとしてその反論を退ける。入不二哲学において人間は不要であり、むしろ人間の視点を超越しようとしているところに、入不二哲学の独創性がある。
     おそらくはそのためであろうが、入不二は現実と言語の関係については(あまり)論じていない。だが入不二運命論を意味論的に、すなわち言語という切り口から解釈するならば、その正当性はさらに補強されるように思われる。
     意味論的に解釈するならば、現実は非現実と対になって初めて顕在化する(もしくは創作される)。非現実を形成するのは言語である。言語とともに虚構が生まれ、可能性が生まれ、偶然が生まれる。ということは自由とは言語によってもたらされたフィクションであろう。過去も未来も、言語が見せている妄想に過ぎない。言語が消滅したときに、ベタな現実が姿をあらわす。と同時に現実は消滅する。なぜなら現実とは、言語によって形成される非現実という背景があって、初めて浮かび上がる「虚構」なのだから。
     しかし仮に運命論が正しいとしても、生きて行く途上でわれわれは絶えず選択し、悩み、後悔することから逃れることができない。ベタな現実というキャンバスに、われわれは言語によって自由を描くことをやめられない。なぜならそれがすなわち生きるということだからだ。よって運命と自由は両立する。
     敷居が高いと思われがちな哲学であるが、「J-哲学」を標榜して刊行された本シリーズは平易な日本語で書かれており、内田かずひろ氏によるイラストや哲学ラボで使用されたチャートなどもふんだんに盛り込まれている。これまで哲学を敬遠してきた読者にも受け入れられることを期待しつつ、本シリーズの今後に注目したい。

  • 久しぶりに大ヒットてかホームラン。『あるようにありなるようになる』の解説としてこれ以上のものはないでしょう。入不二ワールドを堪能できます。あるようにを再読したくなりました。現には常に既になんだな。

  • 東2法経図・6F開架:113A/I64u//K

  • 著者:入不二 基義
    著者:森岡 正博

    【書誌情報】
    本体1,800円+税
    ISBN 9784750348261
    判型・頁数 4-6・304ページ
    出版年月日 2019/04/12

    これがJ-哲学だ! 現代日本哲学に新たなページをきりひらく本格哲学入門シリーズ、創刊!

    運命とは何か? 運命と現実の関係は??
    入不二基義氏の主著にして「現代日本哲学の一つの到達点」(森岡正博氏)、『あるようにあり、なるようになる 運命論の運命』での議論を入り口に、運命と現実について哲学する。

    未来は決定されているのか、決定されているとしたら、一体どのように?――運命論から出発して、「ベタな現実」「絶対現実」「相対現実」「無でさえない未来」などの独自の概念を繰りだし形而上学的運命論&現実性論へと突き進む“入不二ワールド”の核心を、対談の名手、森岡正博氏が鮮やかに抉り出す。さらに圧倒的な書き下ろしによる応答で両者は互いの哲学を深化させていく。言語の極限状況で繰り広げられる、西洋哲学の輸入・紹介ではない、オリジナルな哲学。
    http://www.akashi.co.jp/book/b442845.html


    【目次】
    全巻のためのまえがき 
    第1巻のまえがき 001

    第I部 この本で何が語られるのか
    第1章 すべては運命なのか、そうではないのか?[森岡正博] 013
    1 「運命」は「必然」を意味するのではない
    2 運命は「現実」と関係している
    3 「絶対現実」と「相対現実」はどう違うのか
    4 あるようにあり、なるようになる
    5 「運命」と「自由」は密接につながっている
    6 入不二の講義を読み進めるにあたって
      語句解説(様相/因果的決定論と神学的決定論/物語的運命論と論理的運命論/ベタ性・ベタに連続する/指標詞・固有名)


    第II部 実況中継「現代哲学ラボ 第1回」
    第2章 現代哲学ラボ 運命論を哲学する[入不二基義×森岡正博] 065
      「あるようにあり、なるようになる」とはどういうことか?
      運命論(Fatalism)の主張
      運命論を書き換える
      因果や神にすべて決定されている?
      論理的運命論――ただそれだけでそう決まっている
      論理的運命論で用いられる論理
      論理的運命論で用いられる時間
      物語的運命論で用いられる「様相」――偶然と必然(1)
      論理的運命論で用いられる「様相」――偶然と必然(2)
      「二つ性」と「唯一性」と「全一性」
      「ベタな現実」へ
      絶対現実と相対現実の拮抗
      「あらかじめ」の不成立へ

    森岡正博のコメント 111
      本の全体について
      「現実」はどこから語られているか
      必然性と偶然性
      可能性と潜在性
      「森岡はカエルである」という文章を考える
      潜在性について
      未来と過去、書名の英訳

    ディスカッション 128
      一致とズレ
      記述し得ない「現実」
      人称性の問題
      入不二現実性論における現実は指標詞、一者のようなもの?
      神の存在論的証明/入不二の運命論、現実性論はカント的か?
      「あるようにあり、なるようになる」の図式化
      「あるようにあり、なるようになる」を英訳すると?

    フロアからの質問 161
      運命論を考えるようになったきっかけ
      人の出会いの偶然と必然について
      自由と運命
      瞬間どうしは交流しうるのか


    第III部 言い足りなかったこと、さらなる展開
    第3章 時間と現実についての補遺[入不二基義] 177
    1 ベタな時間推移か、無でさえない未来か
    2 現実性と様相と潜在性

    第4章 運命と現実についてもういちど考えてみる[森岡正博] 203
    1 「無でさえない未来」の概念をなぜ持ち得るのか?
    2 「いま」の土俵と「現実性」
    3 九鬼周造と「偶然性」
    4 「現実性」と「これ性」
    5 「現実世界の開け」と「存在世界の開け」

    第5章 再応答――あとがきに代えて[入不二基義] 259
    1 「無でさえない未来」と「無関係性」
    2 「忽然と湧き上がるいま」と「無関係性」
    3 「力」としての現実性
    4 「このもの主義」を別様に考える
    5 「現実性」と「存在物」

    あとがき 289
    読書案内 292

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著者プロフィール

入不二基義(いりふじ・もとよし):1958年生まれ。東京大学文学部哲学科卒業、同大学院博士課程単位取得。専攻は哲学。山口大学助教授をへて、現在、青山学院大学教育人間科学部教授。主な著書に『現実性の問題』(筑摩書房)、『哲学の誤読――入試現代文で哲学する!』(ちくま新書)、『相対主義の極北』(ちくま学芸文庫)、『時間は実在するか』(講談社現代新書)、『時間と絶対と相対と――運命論から何を読み取るべきか』(勁草書房)、『足の裏に影はあるか? ないか?――哲学随想』(朝日出版社)、『あるようにあり、なるようになる――運命論の運命』(講談社)など。共著に『運命論を哲学する』(明石書店)、『〈私〉の哲学 を哲学する』『〈私〉の哲学 をアップデートする』(春秋社)などがある。

「2023年 『問いを問う 哲学入門講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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