見えないものを探す旅——旅と能と古典

著者 :
  • 亜紀書房
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本棚登録 : 112
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784750516943

作品紹介・あらすじ

いつもの風景が、その姿を変える

単なる偶然、でも、それは意味ある偶然かもしれない。
世界各地へ出かけ、また漱石『夢十夜』や三島『豊饒の海』、芭蕉など文学の世界を逍遥し、死者と生者が交わる地平、場所に隠された意味を探し求める。

能楽師・安田登が時空を超える精神の旅へといざなう。


私たちには、「見えないもの」を見る力が備わっています。
「目」を使わないでものを見る力です。(まえがきより)

感想・レビュー・書評

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  • 下掛宝生流の能楽師、異才、安田登さんの雑誌連載を基にしたエッセイ集。能のワキとは「分く」から来た言葉で、あの世とこの世を分かつ存在、境界線に立つ存在だという。そのワキ方の安田さんが、能と旅と古典について記したエッセイは、まるで夢幻能のように、過去と現在、現実と幻の境界が曖昧になっていく。

    一ノ谷で肩に止まった赤トンボから平家を視る。旅先で会った古老から疱丁の包丁さばきを幻視する。ほうきや麻雀牌から隠れた意味を見出し、松尾芭蕉の歌を脳内ARに再生させる。

    こうしたことは誰にでも起きていると安田さんは言う。ただ、それに気づくか気づかないかだけだ、と。古典芸能や古典文学に触れることは、早回しのようになっている日々の時間軸を、ゆったりと、さらには引き伸ばしていくことにつながるのかも知れない。

  • 心の底から旅に出たいと思った。コロナ禍はつらい。

    "能のワキは旅人が多いが、能に限らず、古典の主人公はよく旅をする。そしてその旅人は何かの理由があって、属していた組織から追い出された者たちが多い。(略)
     日本人は昔から組織や共同体の中で自分の「物語」を紡いできた。(略)だから組織や共同体から追い出されるということは、物語を剥奪されてしまうということになる。
     物語がなければよって立つところもない。どこに足を置いたらいいのかわからなくなる。深い暗闇が大きな口を開いている。そんな穴の上に立たされるのと同じだ。
     そんな時、昔人は旅をした。物語を喪失した旅人はあてのない旅の途中で、ある場所と出会う。
     (略)
     漂白の旅人はそこで歌を謡う。
     なぜ歌か。彼が今まで生きてきたのは現実的な叙事的世界だ。散文的な世界だ。しかし、組織から追い出され、物語を失ったとき、今まで確固たるものだと思っていた叙事的世界がカラカラと崩れ、極めて不安定なものだということを思い知る。だからこそ、歌を謡う。歌は叙情(抒情)的世界に属する。韻文的な世界だ。彼の生は散文的世界から韻文的世界へと移行する。叙情的世界は、表層的には不安定でありながら、しかしその根底が真理につながっているがゆえに実は強固な真理世界なのである。" 105ページ

  • 能を観たくなった
    むしょうに歩きたくなった
    漂泊の旅人であるシテに共感

    P.161
    能の物語の多くは、漂白の旅人が異界と出会うというパターンを持つ。ふつうの人には出会えない異界も、漂白の旅人だけは出会うことができる。そして、漂白の旅人は異界と出会うことによって、新たな生を生き直すことができるのである。能を観るということは、その地平に観客も巻き込まれるということだ。それによって、能を観終わったあと、心身ともに新たな自分に変化して、新たな生の可能性を感じることができるのではないだろうか。

  • 感覚として分かる
    言葉にして感想書くのは難しい
    やっぱりストンとくる感じ
    しばらく安田登さんの本を追っかけて
    自分なりの答え(感覚?)を
    つかみたい
    HUTBOOK STORにて購入

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著者プロフィール

安田 登(やすだ・のぼる):1956年生まれ。 能楽師のワキ方として活躍するかたわら、『論語』などを学ぶ寺子屋「遊学塾」を、東京(広尾)を中心に全国各地で開催する。関西大学特任教授。 著書に、『身体能力を高める「和の所作」』(ちくま文庫、2010年)『異界を旅する能』(ちくま文庫、2011年)、『日本人の身体』(ちくま新書、2014)、『身体感覚で『論語』を読みなおす――古代中国の文字から (新潮文庫、2018年)、『見えないものを探す旅――旅と能と古典』(亜紀書房、2021年)『古典を読んだら、悩みが消えた。――世の中になじめない人に贈るあたらしい古典案内』(大和書房、2022年)、『魔法のほね』(亜紀書房、2022年)など多数。

「2023年 『『おくのほそ道』謎解きの旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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