ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057) (NTT出版ライブラリーレゾナント 57)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757102668

作品紹介・あらすじ

信頼社会から、新しい安心社会へ?ネットオークションの仮想世界に見る近未来の姿と、山岸俊男「信頼の構造」理論の新たな展開。

感想・レビュー・書評

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  • 意外と個人主義の国(中国とかアメリカとか)は人を信頼してる一方で日本人はガチガチの集団主義秩序を作り上げてるので人を信頼しなくていいらしい。

  •  ネット時代のあるべき評価システム(評判システム)について実証的に考察した本。

     第一章では、まず思考実験として嘘をついた時点で自動的に罰せられる「針千本マシン」を想定する。そしてそこから、裏切りを制裁・抑止するシステムによって人を信頼しなくても安心して取引に参加できる「安心社会」と、評価(評判)を元に、信頼できる人とだけ取引する「信頼社会」という二つのモデルを提示する。安心社会が集団主義的秩序を前提とし、信頼社会が個人主義的秩序を前提とするという比較が興味深い。

     第二章では、マグリブ商人や株仲間の中に見られる安心社会型の集団主義的秩序について書かれている。第一章で提示された二つのモデルが、具体例を通じて理解できるようになっている。

     第三章では、ネットオークションの実験結果が、そして第四章ではそれを受けて評価と評判についての考察が続く。
    ・ネットオークション詐欺を働いた人間が、自分のデータをリセットしてやり直しするのを防ぐには、加点方式(=新規参入のゼロの時点が一番低評価)を用いる。
    ・評価の公平性を担保する方法としては、ピアレビュー(相互評価システム)やメタ評価(評価者の評価に対する評価)を導入する。
     など、信頼できる評価(評判)を担保するための色々な指摘がなされており、理想的な評価システムについて考えさせられる。
     また、公平・公正な評価システムを考えると、つい単一の評価システムを想定しがちだが、人の嗜好を勘定に入れると、むしろ個人間で評価値に補正がかかった方が使いやすいのではないか、という指摘も面白かった。具体的に言うと、ラーメンのレビューで脂っこいラーメンが好きな人が普段からそういうポイント評価をしていると、脂っこいラーメンに高評価をするレビュアーの意見が優先的に反映され、あっさり塩味好きのレビュアーの意見は真逆に反映される、というようなものである。
     Amazonが購入した商品に関連して「この商品を購入された方はこんな商品も購入されています」と紹介するのは上記の評価システム的な考え方に立脚している。主に個人情報の観点から反対されているGoogleの新セキュリティーポリシーも、データを蓄積し、個人の嗜好に合わせた検索結果や広告を反映するという点で共通するものがある。
     個人的な嗜好の偏りに合わせて自分の見る評価やレビューが偏るのは、自分の好きな物だけを見るという点で知的営為としてどうなんだろう? とも思うが、例えばAmazonのカスタマーレビューでファンとアンチが★を5と1でつけ合い★3に落ち着くというのを見ていると、ある程度評価情報に軽重をつけていくシステムが必要であるようにも思われる。

     最後の第五章は「開かれた安心社会へ向けて?」である。
     この中で特に怖いと思ったのが「完全暴露原理」だ。自分の評価を晒すのが社会通念化してくると、この評価システムに参加しない奴は絶望的に評価が低い奴だ、という予断が働くようになるのではないかという指摘には考えさせられた。『パブリック』という本ではプライバシーを守ることよりも個人情報を積極的に公開していくことが言われているが、その思想の先に完全暴露原理的な強制があるとすればもう少し慎重に考えなければならないと思われる。

     現在の、我々を取り巻くネット社会と、これから来る社会をシステムの面から考えるときに、非常に示唆に富む一冊だ。

  • 「論文」的な本です。
    序論があり、仮説があり、実験があり、結果のまとめと今後の予測でまとめられてます。

    安心社会と信頼社会の違いが述べられており、ネットリテラシーの勉強にもなります。

    ネット社会を生きていくには、自分ブランドというものを、強く意識していかなければなりません。

  • 1680円購入2011-06-24

  • 12月20日読書開始。12月26日読了。

    目次
    第1章 安心社会と信頼社会(1)
    第2章 歴史からの教訓(39)
    第3章 実験研究からの教訓(55)
    第4章 評価と評判(103)
    第5章 開かれた安心社会へ向けて?(159)
    参考文献(215)

    <hr>
    互恵性(iv)
    直接互恵性:特定の相手との間でお返しをする。
    間接互恵性:もっと多くの人たちの間で評判を介してとられる。

    ユビキタス評判社会(vii)
    新しい安心社会。これまで一度も出会ったことのない人でも、良い評判値をもつ相手とは安心してつきあうことができる。

    <hr>
    安心社会から信頼社会へ(2)
    安心社会:人々が安定した関係のきずなを強化することで、固定した関係の内部で安心していられる環境を築き上げている社会
    信頼社会:他人一般に対する信頼の上に作られた、さまざまなチャンスの追求を可能とする社会

    集団主義的秩序と個人主義的秩序(17)
    集団主義的秩序:少ない取引費用、大きな機会費用(外部の機会を有効活用できない)、閉鎖的
    個人主義的秩序:大きな取引費用(司法制度の維持)、少ない機会費用、オープン

    グローバリゼーション(27)
    既存組織の外部にあるさまざまな機会へのアクセスが可能となった。
    つまり、集団主義的秩序が生み出す機会費用が拡大した。

    統治の倫理と市場の倫理(ジェイン・ジェイコブス)(30)
    統治の倫理:集団主義的倫理、身内集団の道徳(同)、特定の支配・被支配の関係を前提とした人間間の忠誠が中核
    市場の倫理:個人主義的倫理、解放個人主義の倫理(商人道ノススメ)、対等な人間間の取引を可能とする正直さを中核

    二つの倫理の間では、お互いを非倫理的だと決め付ける傾向がある。

    統治の倫理:武士道:自己利益を捨て去った無視の忠誠
    市場の倫理:商人道:自己利益追求が、相手にも利益を及ぼす(石田梅岩)、情けは人のためならず

    現代日本の「倫理観の崩壊」(32)
    利己主義の蔓延ではなく、集団主義的秩序の維持が困難となった結果。

    制度・倫理と秩序(33)
    制度が集団主義(相互監視と集団からの排除)から個人主義(司法制度)へ移行するとすれば、秩序を生み出す倫理も、集団主義的倫理から個人主義的倫理へ、統治の倫理から市場の倫理へと移行せざるをえない。

    制度とは独立に特定の倫理が維持可能であるとする見方をとれば、現代社会の諸悪をなくすためには、学校や企業での倫理教育を徹底するという方向を強化することになる。50年後の日本に、ほとんど回復不可能なダメージを与えることになってしまうだろう(34)。

    社会的知性(37)
    市場の倫理が機能するためには、信頼に値する人間とそうでない人間とを見分けるための社会的知性が必要

    <hr>
    エージェント問題(41)
    情報の非対称性が生む出す。

    <hr>
    第1実験:ネットオークションの実験(69−85)
    顕名市場 売主が表示される。評判が表示されない。
    評判市場 売主は表示されない。評判が表示される。
    匿名市場 両方とも表示されない。
    品質:
    顕名市場・評判市場>>匿名市場
    再参入不可能市場>再参入可能市場
    再参入可能市場(ポジティブ評判>再参入可能市場(ネガティブ評判)

    評判の共有が不正防止に役立つか?(85)
    閉鎖的市場:役立つ
    ポジティブ評判の開放的市場:役立つ
    ネガティブ評判の開放的市場:役立たない

    第2実験:インターネットでの実験(86ー102)
    閉鎖的市場
    混合(ポジ・ネガ)評判の開放的市場
    ネガティブ評判の開放的市場

    評判と落札価格・利益の相関(98−99)
    良い評判者が高い落札価格
    良い評判者が高い利益:混合評判の開放的市場
    悪い評判者が高い利益:ネガティブ評判の開放的市場

    正直者
    閉鎖的市場:得をする
    混合(ポジ・ネガ)評判の開放的市場:優位性なし
    ネガティブ評判の開放的市場:損をする

    再参入可能なネット市場(102)
    ポジティブ評判の維持、呼び込み作用、個人のブランド化

    <hr>
    評判(106)
    「ある対象に対して個人や集団が与えた好ましさの査定」

    特定の対象に対する評価という側面
    評価の伝達・集約という側面

    インターネットの世界では、自分自身や他人についての評判が、これまで私達が日常生活で経験していたよりもずっと重要な役割を果たすようになっていくだろう(157)

    <hr>
    日本人の一般的信頼性が低いのはなぜか(170)
    日本人は個人としての他人を信頼できないので、他人を信頼しなくてもすむ安心社会を作ってきた、そして安心社会に定住することで、他人を信頼できるかどうかを見極めるための社会的知性を十分に育成してこなかった。
    安心社会では信頼が生まれにくい。

    信頼ゲームの信頼率(183)
    日本人の信頼率が低いのは、「自分はあなたを信頼していますよ」と相手に伝えることが、相手からの信頼に報いる行動を引き出すと思っていない、それどころか、そうした信頼を相手に知らせると相手から付けこまれてしまうと思っているからだと考えられる。

    中国人(185)
    中国の庶民は歴史的に政府や法制度の保護を期待できなかったたま、グァンシ(関係)のネットワークを通した相互扶助のシステムを確立した。

    日本人と中国人の比較(186)
    日本人:特定の集団からの庇護と資源の提供を求め、その対価として集団に対する忠誠を提供
    中国人:特定の個人・有力者・パトロンに庇護と資源の提供を求める。家族を超えた集団の凝集性が弱い。

    地図作成型とヘッドライト型(196)
    地図作成型の社会的知性:まわりの人たちの間の人間関係の性質についての知識。地図に頼れるのは、地図が存在している範囲。
    ヘッドライト型の社会的知性:相手の立場に身を置いて相手の行動を推測する能力。

    197
    一人ひとりの個人が適切な社会的知性をもたなくても、テクノロジー(評判システム)が肩代わりしてくれるような社会を作れるか?

  • ネット評判社会 (NTT出版ライブラリーレゾナント057)

  • 6日前に同著『安心社会から信頼社会へ 日本型システムの行方』を読んで感動していたのに、山岸先生は4年前に既に「新しい安心社会」を唱えていたのだった。ちーん。/最近耳にするgoogleグラス系のアイディアが示唆されてました。面白かった。

  • ヤフオクのシステムが、これからのソーシャルを考えるのに参考になるんだね。

  • [ 内容 ]
    信頼社会から、新しい安心社会へ?
    ネットオークションの仮想世界に見る近未来の姿と、山岸俊男「信頼の構造」理論の新たな展開。

    [ 目次 ]
    第1章 安心社会と信頼社会(安心と信頼;針千本マシン;針千本マシンとしての社会制度;集団主義的秩序;集団主義的秩序のコスト;個人主義的秩序;信頼の二つの役割;安心の日本、信頼のアメリカ;日本社会が直面する機会費用の増大;集団主義と内向きの倫理;統治の倫理と市場の倫理;信頼を支える社会的知性)
    第2章 歴史からの教訓(マグリブ商人;株仲間;マグリブからジェノヴァへ)
    第3章 実験研究からの教訓(ネット上での不正取引;マグリブ商人とネットオークションにおける評判の役割;ポジティブな評判とネガティブな評判;ネットオークションの実験;第1実験;再参入可能な市場;再参入可能な市場でのポジティブな評判とネガティブな評判;第2実験(インターネット実験) オークションの手続き 第1実験結果の再確認 正直な売り手と不正直な売り手、どちらがより大きな利益を得たか? 評判の「追い出し:機能と「呼び込み」機能)
    第4章 評価と評判(評判とは;評価者の能力;メタ評価とピアレビュー;評価基準のずれ;評価のインセンティブ;ネット上の詐欺行為と評判システム;電子商取引に際しての評判の役割;ネット社会における騙しの氾濫;ネット社会における評判システムの種類と特徴;評判システムの具体例;評判情報の抽出;ネット社会に要求される評判システム)
    第5章 開かれた安心社会へ向けて?(「安心、安全」を求めて;日本と中国での信頼ゲーム実験;信頼を伝える;関係形成はの投資としての信頼行動;カバマダラとメスアカムラサキ;社会装置としての社会的知性;人は他人の表情をどこまで見抜けるか;完全暴露原理;ユビキタス評判社会;開かれた安心社会?)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 閉じた集団による「安心社会」から、開いた集団による「信頼社会」へというテーマを掲げる山岸教授の著作。ネットでの評判実験がとても面白い。
    amazonのようなユーザーレビューや評価をどのように機能させるか、とくに評価は加点方式と減点方式のどちらがよいか、悪意の評価をいかに減らすかという、実務的な観点からの解説が多く、実務的にも役にたち、アカデミックにも面白いという珍しい本。評価高い。
    著作時点でのネットビジネスでのユーザーレビューに関するいろいろな方式やテクノロジーも紹介されており、辞書的にも使える。
    この本でも引用されている、マグレブ商人の秩序形成に関するグライフ著『比較歴史制度分析』に日本語訳もほぼ同時に出版された。合わせて読むとなおよさそう。

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著者プロフィール

COEリーダー・北海道大学大学院文学研究科教授

「2007年 『集団生活の論理と実践』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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