モラル・エコノミー:インセンティブか善き市民か

  • NTT出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (276ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784757123588

作品紹介・あらすじ

本書の著者サミュエル・ボウルズは、進化社会科学に基づくミクロ経済学を発展させてきた、日本でも著名な世界的経済学者である。これまで日本ではラディカル・エコノミストとして紹介されることが多かったが、ボウルズの本質はむしろリベラル派である。本書には、近年の行動科学やミクロ経済学の研究をもとにアメリカ的なリベラリズムを発展させた、ボウルズの奥深い経済思想が鮮明に示されている。

感想・レビュー・書評

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  • 本書によって、経済学の知見に依拠するインセンティブを組み込んだ政策を実施すれば、社会的厚生が向上するという「常識」が通用せず、実際にはモラルを低下させ、逆効果になり得ることを数々の社会実験によって示されたことは驚きであった。人間の利己的な側面だけでなく、利他的な部分を考慮したインセンティブに基づく政策は効果的であるという実験結果もあり、社会実装にはまだ課題があるが、将来に期待を抱かせるものだった。ただ、和訳が非常に読みにくく(おそらくオリジナルが悪文)、理解に苦労した。

  • 社会

  •  ここでの新しい発想は、社会の統治の質は市民の質のたんなる集計ではないということである。良い統治とは、良い市民から構成される社会の問題というよりも、社会制度がどのように市民の間の相互作用を組織するのかという問題である。
     現代の物理科学者は、マキャベリのこの発想を社会の統治の質は政治組織の創発性、すなわち、それを構成する市民たちの特性からは直接には推測されえない全体の性質であると言い換えるだろう。その場合、マキャベリにとっての良い政府とは、秩序だった社会の創発性なのである。(p.14)

     倫理的かつ他者考慮的な動機は良く統治された社会にとって不可欠であり、将来においてもいっそうそうである可能性が高い。この事実を無視し、人々の行動を動機づける選好に無関心である政策は、これらの必須の性質を傷つけるかもしれない。これが、政策立案者が本部長の懲罰的なインセンティブへの消防士の反応に関心をもたねばならない理由であり、また罰金を科された後でも保育園に遅刻する親たちに関心をもたねばならない理由である。(p.34)

     選好とはー誤解のないように言うとー自分の行動がもたらす結果に対する個人の評価である。信念とは、自分の実行しうる行動をその期待される結果に翻訳する、因果関係の理解である。(p.77)

  • 原題:The Moral Economy: Why Good Incentives Are No Substitute for Good Citizens (2016)
    著者:Samuel Bowles(1939-) 
    訳者:植村博恭、磯谷明徳、遠山弘徳

    【メモ】
    ・著者のサイト
     <http://tuvalu.santafe.edu/~bowles/


    【書誌情報】
    発売日:2017.03.31
    サイズ:A5判
    ISBNコード:978-4-7571-2358-8

    経済学と社会思想のパラダイムシフト
      本書の著者サミュエル・ボウルズは、進化社会科学に基づくミクロ経済学を発展させてきた、日本でも著名な世界的経済学者である。これまで日本ではラディカル・エコノミストとして紹介されることが多かったが、ボウルズの本質はむしろリベラル派である。本書には、近年の行動科学やミクロ経済学の研究をもとにアメリカ的なリベラリズムを発展させた、ボウルズの奥深い経済思想が鮮明に示されている。
    http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100002409


    【目次】
    序文
    第1章 ホモ・エコノミクスに関する問題
    第2章 悪党のための立法
    第3章 道徳感情と物質的利害
    第4章 情報としてのインセンティブ
    第5章 リベラルな市民文化
    第6章 立法者のジレンマ
    第7章 アリストテレスの立法者の使命
    補遺
    原註

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著者プロフィール

1939年生まれ。サンタフェ研究所アーサー・シュピーゲル研究教授・行動科学プログラムディレクター。40年以上にわたり、ミクロ経済学のイノベーターとして研究・教育活動を行ってきた。ハーバード大学経済学博士。ハーバード大学准教授、マサチューセッツ大学教授、シエナ大学教授を経て現職。日本語訳されている著書として、教育の経済学へのネオ・マルクシアン・アプローチの適用を試みた『アメリカ資本主義と学校教育』(1976)、80年代の右派経済学に対抗する民主的代替政策を提起する『アメリカ衰退の経済学』(1983)(以上、ハーバート・ギンタスとの共著)、サンタフェ研究所での行動科学と複雑系の共同研究を通して、ワルラシアン・パラダイムに代替する「進化社会科学」という新しいパラダイムを構想した『制度と進化のミクロ経済学』(2004)、そして再びギンタスとの共著である『協力する種』(2011)などがある。

「2017年 『モラル・エコノミー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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