めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話(1) (ガンガンコミックスUP!)
- スクウェア・エニックス (2019年7月12日発売)
- Amazon.co.jp ・マンガ (143ページ)
- / ISBN・EAN: 9784757562028
感想・レビュー・書評
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本人が動じなくても、周りは戸惑う。そんな天動説だか地動説。
『ななしのアステリズム』の小林キナ先生が送り出したTSF(後天的性転換を取り扱ったフィクション)漫画です。
タイトルで説明してくれているので、あらすじを事細かに説明しなくても楽でいいなと思います。
それで済ますのもなんなので、後で触れますが。
ところで女装とTS(性転換)は部分的に重複するジャンルということもあって、ちゃんと「女装」で実績を積まれただけはあるなと感じました。
お約束を踏まえた筋運びと、ジャンルへの理解がなされているので安定感があります。
ひとまず言っておくと、タイトルと表紙で選んだ方を裏切ることはありません。
ちなみに掲載媒体ですが、Twitterで宣伝も兼ねて様子見的に掲載されたのを興りに、企画としては通っていたのか、各種WEB漫画サイトで連載が開始されました。
こちらの媒体はスクウェア・エニックス管轄の漫画アプリ「マンガUP!」、ほかに「ニコニコ静画」、「Pixiv」などです。
同様の経緯で女装をメインテーマに据えた『少年の初恋は美少女♂でした。』一巻が発刊されたので、スクウェア・エニックスの販売戦略もわかりますね。
あと、漫画の特徴としましては上から下へ読み下していく構図を意図しているのか、大ゴマとテンポを重視したコマ運びが目立ちます。
掲載サイトやアプリの都合もあってですが、情報がページをまたぐことなく、ワンページワンページでまとまりがよくテンポも明瞭です。
情報量が少ないかと思えばそうでもなく、明確な説明役が作中にいるので文章量がかさむようでいて、そちらでもなく小気味よくまとめてくるのも面白い。
必然進行は早めなんですが、テンションの上げ下げとリアクションの楽しさでその辺のハイスピードが気にならない気もします。
あと同社の作品で言いますと『性別モナリザの君へ。』のシアンもそうですが、掲載時の黒とオレンジが際立つ多色刷りのまま単行本になっており、実際に読んでいくと相当に目を引きます。
オレンジでアップテンポを演出しつつ、黒でしっかりダルダル系女子(元男)のかわいさとゆるさを表現しているので、モノトーンに色がプラスされたことによる漫画の可能性を再認識しました。
実は相当にポップでハイテンションなので、表紙買いをした読者の印象をいい意味で裏切るかもしれません。
あと、描線のブラッシュアップが図られていること、巻末の描きおろしを含めて、無料掲載分だけでなく単行本として買うことの意義はあるなと思ったりもしました。
ところで一旦、ストーリーに話を戻します。
主人公の早坂くんは世話焼きな高校二年生。男子寮で同室してる省力系男子「安田」先輩がいきなり女子になったところから話はスタートします。
この手の話は性転換してしまった当人が変容した体や一変した生活への困惑を抱き、それを軸に話を回していくことが多いようですが。
けれど安田先輩は「はいそうですか」って一言で男→女に伴うあれやこれやを片づけてテキトーに生活を送りそうな危機感のなさで、ついでに自覚もありませんでした。
なので振り回されるのは、無防備さに危機感を持った周囲(特に後輩「早坂」)になるわけです。
安田先輩が性的アプローチに乏しいけど、かわいさを放ってくるマスコット系の容姿で、嫌がるにしても反応も薄めなんで猫を愛でるような感覚を覚えるかもしれません。
「かわいいは正義」、この時期の先輩後輩の関係性もあれど、文句言いつつも世話を焼きたい欲求から抗える気はしませんよね。
安田先輩の睡眠以外興味のない枯れっぷりもあって、思春期的なあれやそれに過度に傾かせることはなく、日常系学園コメディをやってくれてます。
それと先にも触れましたが、ジャンル「TSF」に詳しくて着せ替えイベントを提供してくれる変人もしっかり完備しています。
最近のコメディ系TS作品では説明役も兼ねてこの手のキャラが登場することも多い気がしますが、ジャンルと共通認識がある程度確立した今だからこそなのかもしれません。
ただ、この「杉村」などの変人が過度に暴走することはなく、ちゃんと主人公共々「良識」に乗っかってくれて、先輩の意志をそこそこに尊重する辺りは流石のバランス感覚。
ハイテンションギャグなら展開上違和感を吸収できないこともないんですが、コメディ系ならこのくらいだよねって、ほどほどのゆるさによって違和感を生じさせることはありません。
あと、性転換した当人に「めんどくさい」以外の意識が乏しいので、周囲は気負ってるのに脱力させられて、それ以上ツッコむ余地をなくすってのは大きい。
特にメリットを見出していないけど、積極的に戻ろうとするほどデメリットがあるとも思っていない。
この辺はある意味、現実的なのかもしれません。
実際「男性」の服飾(ファッション)と比べると、女性は下着の問題もあります。積極的に「女性」やろうとすると、相当な労力を払わされるのは確かです。
でも、省力化を図るなら、女の子に夢を見ないなら、たいして変わらない、だって俺は俺だから。
などと謎のメッセージ性を感じない(作中で言及もしてるけど)こともないです。
性転換に伴うイベント(鏡を見る、制服を着る、トイレに行くなど)を一気に発生させているのに、「慣れ」も「照れ」もなくて常に自然体ってのは同ジャンルではなかなか見ない気がします。
つまり、心理の揺らぎや内面が異性のものに移行していって最終的に「変身」を遂げて終了って王道ラインを外して話を続けてもいい、逆に王道に則ってもいい。
一巻にして、展開に振り幅を用意しているのは面白いですね。
なんにせよ右から左へ、当事者が周囲の過干渉を受け流すだけで面白い漫画ができるとは思いませんでした。
むしろ本人の反応を排したからこそ、周囲の右往左往を見て楽しむことができる、むしろ動じないからこそのあれこれが新しい、そんな漫画かもしれません。
なお、巻末の50ページの書き下ろしですが、こちらは思春期の女性であるなら避けて通れない「生理」の回。
および、もし先輩が元に戻ったのに主人公が女の子になったらという「IF」ストーリーの二本立てになっています。
前者に対しては本編の補完といった感ですが、後者は王道のTS漫画です。
主人公はちゃんと驚きうろたえてくれますし、鏡を見てドギマギも、セーラー服に袖を通しておおっともなってくれます。
先輩に思いを寄せる主人公「早坂修一」の妹「織枝」との関係の変化も合わせて、本編と合わせて読むとかなり面白い展開が見込めそうですし、単独ではパンチが弱くともかなり面白いかと。
ちなみに前者は当然として、後者もナンバリングが打たれており続くこと前提。
裏側視点の面白さでも、ある程度の連載期間が保証されているという意味でも、相当に面白い試みかもしれません。
打ては響く反応も面白いけど、沈黙を前にした人々のどよめきも悪くない。両方ならばなおさらだ。 -
最近TSがアツいな!
これも表紙買いしたけどよかったぞー