めんどくさがり男子が朝起きたら女の子になっていた話(3)(完) (ガンガンコミックス UP!)

著者 :
  • スクウェア・エニックス
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感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・マンガ
  • / ISBN・EAN: 9784757570764

作品紹介・あらすじ

女でも、男でも、めんどくさがりにブレはない!
皆で出かけたプールで突如男に戻ってしまうも、めんどくさがりにブレがない安定の安田。女の子になった原因と元に戻る方法も判明し、安田を巡る織枝と大嶋の争いもより激しさを増す中、五十嵐が二人でデートすることになり一歩リード…!? 誰かが養うことになるのか、早坂が諦めて養うのか? 人気の早坂がTSするIFストーリーの描き下ろしも収録した、まったり人気の性転換コメディ、完結の第3巻!!

感想・レビュー・書評

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  • 女の子になったり戻ったりもするけれど、それとは別に彼ら彼女の日常は軌道に乗ってます。

    まず思うところとしては最後まで自然体を貫き通したなあってのが正直な感想でしょうか。
    それとなく恋の行方をほのめかしつつ、ふわっとこれからも彼ら彼女らの日常は続いていきますよと示唆する、ある種典型的な終わり方でした。人によっては打ち切りと取られるのかもしれません。

    ただし作者の「小林キナ」先生は本作と同時並行で「TS(性転換)」と隣接するジャンルである「女装」をテーマにした『少年の初恋は美少女♂でした。』を連載し、同じく三巻で終了しています。
    大まかにこれくらいの分量で終わらせようという企画通りだったのかと察します。少なくとも打ち切りによくある二巻コースではなかったことは確かです。とまれ、実際の事情はわかりませんが。

    いずれにしてもこの終わり方はこの漫画ならいくらでも許されるなって思ったのも確かです。
    「自分の体が異性に!?」というシチュエーションに全く動じない朴念仁「安田」先輩のキャラクター自体が面白いので、これ以上彼を付き合わせてもそれほど新しいことにはならないなとも感じましたし。

    あえてお約束を外した実験といってしまうと言い方としてアレかもしれませんが、やっぱり性別が変わってしまった本人の心情なりアイデンティティーが揺らいでもらわないとこれ以上は無理かなと。
    ひととおり、ほとんど揺るがないマイペース人間の反応を堪能させてもらったので私は満足ですが。

    よってこの先を描くとすれば別の軸、この場合は本格的にラブコメを持ち込むことになると思うのです。
    ただそうなるとこの巻で友人としても恋人としても、堅実で優しくて性格のいい「五十嵐」さんが躍進しすぎて鉄板かなと思ったりもしました。彼女とのその後を描いたおまけページの破壊力も高いですし。

    なお、この巻単独の流れとしては性別を抜きにした日常をしっかり描きます。続けて、前述した通りの、これからも彼ら彼女らの日常が続いていくという予感を読者に伝えて終わらせる構造になっています。
    とは言え、安田(男)と五十嵐さんのデート回は一方通行なようで通じ合っていてラブコメとして完成度高かったです。私としては早坂後輩より抜きんでたかなと思ったりとかナントカ。まぁそれはそれ。

    ひるがえって男女の、どちらかの性別の安田先輩に惹かれている「早坂織江」と「大島王子」のふたりは、恋の鞘当てを(当人の知らないところで)繰り広げるはいいものの……。
    空回っていてラブ抜きのコメディ要因になっているのがちょっと気の毒かなと思ったりもしました。

    男女どっちでも「安田」くん/先輩は、「安田」くん/先輩、だよね/ですよね!
    という境地に辿り着いている「五十嵐」さんと、世話女房な後輩「早坂」くん。

    「安田」という男女問わずに変わらない「いきもの」の側には劇的なエピソードはいらなくて、なんとなくどちらかとくっついてたが許されるのかも。
    繰り返しますが、別に先を描かなくても許されると思います。恋の行方も仰々しく注目されてませんし。

    「性別」に紐づく魅力があるので拘泥したくなる気持ちもわかりますが、一個人を定義する上でのパラメーターのひとつに執着しすぎるのもなんだかなあって気取らないメッセージはやっぱり好きです。
    もちろんそれが唯一無二の正論だなんて断言するつもりはありませんが。

    反面、TSの王道の反応を本人と周囲込みで描き、まだまだ続きが描けそうだった巻末の恒例「早坂IF」は10ページ留まりでちょっと投げっぱなしかなー、という印象でした。
    「IF」といっても本編から明確に枝分かれしたというより、バリエーション違い程度の扱いで流されたので、私としてはちょっと消化不良感を残してしまった感触もあります。

    本編では少しばかり割を食った恋のライバルふたりが目立った扱いをされたりと、見逃せないは見逃せないんですけどね。ただ、二巻で目立った分で夢を見てしまいましたが、結局はオマケ形式というべきか。
    本編と二本立てでもいいんじゃないかなとか、ちらりと思った私の目論見も露と消えたようです。

    とは言え、どちらに転ぶかは不明にせよ女の子になっちゃった元男が元鞘で男の子に戻っても、それはそれで許される。そんな雰囲気でふわっと終えられた「TSF」漫画はこれはこれで新しいと思うわけです。
    それはお前の読んでいる作品が偏っているだけだとお叱りを受けるかもしれませんが、やはり男の子から女の子に転じるタイプの作品はそのまま女の子に定着して終わりがちな風潮にあると私は考えます。

    むしろ性転換に連れてのわかりやすい反応とは別のところに話の焦点を持ってきたことにこの作品の価値があるわけで。
    振り回される側の反応を見て、振り回していた動かない側が、少しであれ余波を受ける。

    わかったこともある、出会えた人もいる――ただし大事なところは譲らないままという落としどころは、少し変わっているけれど力強くて素敵でした。
    ああそれと、一話のリフレインなコマからはじまった最終話にもセンスを感じたりもしました。

    ゆえに、これからを感じさせつつも、しっかり物語を閉じて後は読者の想像に委ねる。
    ありきたりに思えても、それは言い換えるならばきちんと地に足着いた、穏当で堅実な実感込みの結末ということである。それら余韻はしっかり読者に届いたと、私はそう考える次第です。

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