君のいた日々

著者 :
  • 角川春樹事務所
3.15
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  • (6)
本棚登録 : 281
感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758412261

作品紹介・あらすじ

大切なひとをなくした人へ、そして、今、大切なひとがいる人へ-"妻を失った夫"と"夫を失った妻"の、それぞれの世界から紡ぐ究極の夫婦愛。

感想・レビュー・書評

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  • パートナーに先立たれた一組の夫婦の物語。
    妻に先立たれた夫。
    夫に先立たれた妻。
    同じ家族、同じ設定で二つの話が交互に語られる。
    パラレルワールドだ。

    夫は部屋の電球がチカチカすると、そこに妻がいると考える。
    一方、妻はいつも夫の気配を近くに感じながら過ごしている。
    失う前も、失った後もお互いへの思いが途切れることはない。
    いや、むしろ忘れてることを恐れている。
    少々理想的すぎる気もしないでもないが、こんな夫婦いいなと
    思わせるあったかいお話だ。

    小説の中にはたくさんのおいしいものが出てくる。
    うなぎだったり、天丼だったり、しゃぶしゃぶだったり。
    美味しいものを食べると、あの人が好きだったなあ、あの人にも食べさせたいなと思いを馳せる。

    そうだよなぁ、家庭の中で食べることって重要だよな。
    仮に毎日一度だけも一緒に食卓を囲んで30年。
    それだけで1万回以上、一緒にご飯を食べることになる。
    これだけ一緒に食事して、相手の好みを知らないなんて愚の骨頂。
    果たして私の夫は、私を失くしたらどんなものを食べた時に思いを馳せてくれるのだろうか。

    この小説では美味しいものは外食に限られている。
    でも私なら、ふとなにかを食べたその拍子に、私が作った料理の味をもう一度食べたいと夫が思ってくれたら。
    それこそ毎日ご飯作ってきた甲斐があるというもんだ。
    果たしてどうだろうか。

  • 18年連れ添ったアラフィフの夫婦・春生と久里子、そして高1の息子亜土夢。妻が亡くなった世界~夫が亡くなった世界が交互に語られるという設定はなかなかに斬新(『ルート225』を彷彿とさせますね)。まずは妻が亡くなった世界から始まるため、悲しみに暮れる「泣きおやじ」春生にどっぷり共感してしまい、2章になると久里子が生きていることに一瞬違和感を感じる。背中合わせでありながら、それぞれが亡くなった理由は異なり、共通の登場人物(亜土夢、春生の姉、秘書課の三浦さん、夫婦共通の友人西沢)との絡み方も微妙に違う。章が変わるたび頭を切り替えながら、それぞれの世界の時間軸で読み進めていくと、真ん中あたりからエピソードが一部リンクし始める。それぞれの思い出の絡み方が絶妙で、胸がきゅーっと締め付けられる。
    今現在私と夫はアラフォーで、春生・久里子の一世代下に当たるだろうか。日々夫にイラつくこともあればたまには感謝することもあり、何となくそれがずっと続いていくのだろうと漠然と感じていて…それがどちらかの死によりピリオドが突然打たれる可能性があるなんて、あまり考えたことがなかった。だから彼らの物語に自分を重ね、すごく切なくなった。藤野さんらしく、悲しみを描きながらもベタつくことなく、時にユーモアも交えながらの描写だけど、だからこそ微妙な感情の揺れがリアルに感じる。ちらつく電気や廊下を歩くようなみしみしときしむ音にそれぞれの存在を感じるくだりは、わかるなぁと思ってしまう。
    春生の死は突然で、なかなかすんなり受け入れられない久里子の迷いも辛かったけど、一方の久里子の場合は病による死で、憔悴した彼女が「春さん、わたしがいなくなったら、まただれかと結婚していいからね」と語る場面が一番泣けた。切なくて悲しすぎる。ここでもまた、自分だったらどうだろうと考えてしまう。勿論先のことなんてわからないけど、せめてなるべくは、日々を大事に過ごせるようになれればいいかなと…読み終えて思ったのだった。
    テーマはヘヴィーかもしれないけど、秀逸なフード描写や脇役キャラ達、ユーモラスな小道具(お掃除ロボット。かわいい。)が物語を和らげ、穏やかにしている。そしてやっぱり藤野作品で毎度毎度心奪われるのが装丁。カバー袖と裏、見返しの爽やかなストライプが素敵です。表紙イラストがアラフィフ夫婦にそぐわないという声もあるけれど、私もちょっとはそう思ったけど、このイラストはイラストでかわいらしくて、すごく好きだなぁ。藤野作品は単行本・文庫本全部揃えて棚に面陳したいくらい装丁に惚れてます。
    今まで読んだ藤野作品の中でも、余韻を引きずる、心に染み入る一冊。

  • 涙無しには読めなかった。
    お互いの立場でお互いの伴侶への思いが綴られていく素敵な夫婦の物語。
    いつか訪れる日。自分もこんなふうに思われたら幸せだなぁと思った。
    でもはたしてそう思われる努力をしているか…と考えるとドキッとしてしまう。
    些細な不満の種を見つけるよりも些細な幸せの種を見つけて蒔いていきたい。
    今一緒にいる時間を大切にしたい。
    そしてこの気持ちを持続させることが一番大切ってわかってはいるけど…。
    まずは毎年同じ時期に同じ場所に出かけたい。

  • すっっっっごい微妙。笑
    微妙っていうか、行間誘ってくるなーって感じ。

    わたしの読了感が正しい(? 王道? 著者のもとめるもの??)なのかはわからんけれども、
    「何が言いたいんや?」
    と、首をひねりたくなる(いい意味で)小説。

    ここまで丁寧につくられてるんやから意味がないことはないやろう、どういうことや?? と、考えさせられる本。

    そういう意味で、めっちゃ面白いと思う。

    ただなあ…。わたしは…。

    違う道もあったかもしれない、と、いうところから派生するファンタジーはいまは触手が動かないのよう。
    なんでやろうね。リアルすぎるからかな。

    大きく言えば転生ものに近い(あくまで「近い」)フィクション。自分の知らない人生がどこかにある、そしてそこで違う自分が生きているんやろうと、思える夢? 希望?? は、45才では持てないのよう。

    中学生のころなら、イケたな!
    でも、ムスメ@中学生には響かなかったようなので、令和の中学生の琴線はここじゃないのかもしれない。わからんけども。笑

    別タイトルも読んでみようかな。^^

  • とても仲の良かった夫婦。
    こちらでは夫春生が妻久里子を亡くし、そちらでは妻久里子が夫春生を亡くしていた。

    不思議な世界観に最初は戸惑いましたが、双方からの語りとパラレルワールドに、それぞれが相手を思う気持ちが強く伝わってきます。
    2人の仲の良さが際立ち、たいへん好ましい。
    そう思うからこそ、それぞれが既にいないという事実、相手を思う気持ちに切なくなります。

    同じ妻の立場として、朝見送りをしなかった久里子の後悔には痛いほど共感し、そのシーンは後で見返しては目頭が熱くなりました。

    同世代なので、カンチとリカ(再放送もしたばかり)、ユーミンには反応してしまい、メロディーが頭の中を巡る時間を過ごしました。




  • 物語は特に佳境を迎えるわけでもなくスーッと終わる。

    若い人には退屈だろう。
    「だから何?」と思うに違いない。

    私は作者や主人公夫婦と同年代だから、色々と考えさせられた。

    店名は書いていないけれど、グルメ本なのか?というくらいに、実在する飲食店についての記述が出てくる。
    この有名天丼屋さんに行ってみたくはなった。

    それにしても、表紙はなんでこれなの?
    編集者と著者、何故これでOKなの?

  • ★2.5 読みやすくてあっという間に読み終えた。途中、涙をこらえるシーンもあったけれど、好みかどうかというと好みではないかな。夫がどうしても好きになれないタイプでした… (笑)この手のストーリーはどうしたって自分と旦那さんに置き換えて読んでしまうところがあるし、なんとなくフワフワとした雰囲気の話なの で、感情も持っていかれちゃって夢中で読んだ!とはならなかった。
    あと、どうでもいいことかもしれないけれど、表紙のイラストと50代の主人公たちの差にどうしても違和感を感じてしまってムズムズします。

  • 愛する人が亡くなってしまったら。夫が亡くなった場合と妻が亡くなった場合、残された者の視点で交互に話が描かれている。二つの世界があって、どこかつながっているような感じ。残されたものは悲しく切なくても、残りの人生を歩まなければならない。こんなにも愛し合えるパートナーと出会える人生ってうらやましいなと思ってしまった。そんなに派手さがあるわけではないけれど、夫婦の感じとか穏やかでほんわかしていてよかったです。読みながら、切なくて、うるうるとしてしまいました。

    書店でカバーをみて、一目ぼれに近かったのに、買わなかったがために、なかなか入手困難なことになってましたが、やっと読めました。

  • 20年弱連れ添った春生・久里子夫婦が、お互いを亡くした話がそれぞれの視点で交互に語られる。それぞれがお互いを大切にしているんだなというのが伝わってくる思い出話がとても温かい。少し冷めてるけど心根は優しいんだろうなという息子もいい味出してる。

  • 仲の良い夫婦の妻が亡くなったパターンと夫が亡くなったパターンを交互に、二人のその後。
    なかなかに愛溢れていた。
    夢に出てきたとか、これは合図的なものだ、とかは男性がよく言う感じでリアルだった。
    亡くなる年齢にもよるだろうけど、多分、女性のほうが立ち直り早そう。
    でもいつになっても似た人とかは目で追ったりするのもきっと本当。
    どんなに日頃愚痴ってる夫婦でも。

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著者プロフィール

1962年福岡県生まれ。千葉大学教育学部卒。95年「午後の時間割」で第14回海燕新人文学賞、98年『おしゃべり怪談』で第20回野間文芸新人賞、2000年『夏の約束』で第122回芥川賞を受賞。その他の著書に『ルート225』『中等部超能力戦争』『D菩薩峠漫研夏合宿』『編集ども集まれ!』などがある。家族をテーマにした直近刊『じい散歩』は各所で話題になった。

「2022年 『団地のふたり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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