あんの夢 お勝手のあん (ハルキ文庫 し 4-7 時代小説文庫)

著者 :
  • 角川春樹事務所
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784758444491

作品紹介・あらすじ

安政の大地震から一年も経たず、颶風の高波に品川の街は呑みこまれてしまった。
品川宿の宿屋「紅屋」も、かろうじて建ってはいたが、一階はすべて水に浸かり、
二階は強風で屋根も壁も壊れて使い物にならなかった……。
紅屋は建て替えのため二ヶ月の休業が決まり、
その間、やすは政さんの親戚であるおくまさんから紹介された深川の煮売屋へ、年内いっぱい料理修業にでることに──。
大好評「お勝手のあん」シリーズ、待望の第五弾!

感想・レビュー・書評

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  • <お勝手のあん>シリーズ第五作。

    今回はあんの初体験が様々ある。
    前作で起きた颶風(台風?)による高潮で品川の町が海に沈んでしまった。〈紅屋〉も被災し建て替えられることになり、二か月間休業となった。
    料理修業をしたいやすは板長・政の親戚・おくまの紹介で煮売屋<さいや いと>にて年内働くことになる。

    このシリーズは嫌な人が出てこないのが気持ちいい。
    〈紅屋〉は自身も被災して営業もままならない中、炊き出しを行ったり休業中も奉公人たちに給料を出したりと、なかなかできることではない。

    煮売屋〈さいや いと〉の女店主・いとも『心根が優しく人の気持ちがよくわかる人』だ。
    阿漕な商売は嫌いで、材料費を掛けられなくても『自分が食べたいもの』を作るための努力は惜しまない。
    訳ありな武家の女性おそめが煮売屋をやりたいから修業させてくれと頼んできたときも、訳を聞かずに受け入れている。

    商売で苦労してきただけに『同業者とは仲良くするべし』というのが彼女の信条。やすが考え出した『おいと揚げ』のレシピも同業者に教えたいという。そして店の名物ではなく深川の名物にしたいのだという。

    こうした気持ちのいい人たちにはきっと気持ちのいいことが返ってくる。宮大工の正吉がわざわざ三浦から出向いて〈紅屋〉の修繕に来てくれたように。

    やすは煮売屋の料理を経験しレシピを考えることで、改めて旅籠の料理との違いを実感する。彼女の料理の幅が広がったかも知れない。
    これがやすの初体験その一。その二は<さいや いと>にて生まれて初めて一人部屋を使わせてもらっている。元布団部屋の窓もない小さな部屋だが油まで使わせてくれて幸せいっぱいだ。

    その三は初めての旅。旅籠で働きながら旅をしたことのないやすは、日野の尼寺に預けられている身重のちよに会うため、番頭とともに一泊二日かけて出かける。そこでも様々な発見があり出会いがあった。
    そして改めて品川が好きだと気付く。

    山場は何といっても日野で出会った『歳三』。
    幕末の歳三と言えば…あの人しかいない。
    その歳三とやすは江戸へ帰る途中で夢の話になり、自分でも知らなかった心の内を語ることになる。
    『自分がそんな思い上がったことを夢見ている』ことに気付かされたやすは『自分が恐ろしい』と言う。
    だが歳三は会ったばかりのやすを『それはあなたが逸材だからです。あなたは自分が思っているよりも、ずっと強く、負けず嫌いだ。女子にしておくのは惜しい人なのかも知れない』と分析する。

    高田郁さんの<澪つくし>シリーズの澪に比べたら…と思うが、何しろずっと『欲がない』と言われてきたやす。一人部屋を使わせてもらうだけでありがたいと感じる慎ましいやすが、自分でもたじろぐほど大きなことを考えていたのは確かに意外かも知れない。

    そして意外と言えば、シリーズ初期ではやすは自身が言うように『不器量だと心配』されていたようだが、今ではすっかり娘らしく『器量良し』になったようだ。
    煮売屋修業に来たおそめが言う、やすによく似た『楓様』は後に何らかの繋がりが出てくるのだろうか。

    小夜の体調が心配だが、二人の絆の方は安心。全く違うようで同じく意志の強い二人がそれぞれどんな道を行くのか。
    そしてハラハラさせられていたちよも覚悟を決めたようで一安心。これからも大変だろうがその強気な意思で突き進んでいくと信じたい。

    生まれ変わった〈紅屋〉には番頭が言うどんな驚きのものが作られているのか。

    ※シリーズ作品一覧
    (全てレビュー登録あり)
    ①「お勝手のあん」
    ②「あんの青春 春を待つころ」
    ③「あんの青春 若葉の季」
    ④「あんのまごころ」
    ⑤「あんの夢」本作

  • シリーズ5作目。史実に沿って作られているので、そう言えばそんな事もあったと思い出される。前回は大地震、今回は台風で江戸が壊滅的な被害を受けた。地震は持ち堪えたが、台風では屋根や水害で旅籠が駄目になり、主人公の「あん」は修行を兼ねて深川の煮売屋へ行く。ここでも女主人をはじめとして良い人々と出会い成長していく。
    将軍の御台所となった篤姫と知らずに友達となったり、今回は八王子で土方歳三と知り合い、幕府の天文方とも屋根で星を見たりと交友関係も広がって行く。どこまで成長するか楽しみになる。

  •  あー、最高でした。

     高潮の被害に遭った品川から深川の煮売り屋で修業することに。

     そこで思わぬ人にであるあんちゃん。幕末なんだなぁとしみじみ。

     新しい時代を迎えて今回は終わりましたが、この続きがもう読みたい私です(*^-^*)

  • シリーズ第五作。台風で被害を受けた紅屋が改修するため、やすは深川の煮売屋で二ヶ月間お手伝いをする。関わる人が皆いい人ばかり。江戸人情モノです。お小夜さんは早産の気があるのか絶対安静。何となく幸薄い感じがして、無事出産を終えて欲しいと願う。

  • 天災が続き、人々は傷つき、疲れ果てながらも、少しずつ立ち直っていく。紅屋が建替で休業する間、やすは深川の煮売屋へ料理修業に出る。煮売屋と旅籠の料理の違いを考え、工夫を続けるやすは女一人で煮売屋を切り盛りするおいとにも気に入られる。尼寺に預けられたちよを訪ねたやすは、江戸で奉公している、日野の歳三と知り合い、自分の夢について突き詰めて考えさせられる。
    ……え? 歳三!? この時点ではまだ海のものとも山のものともつかない野心家の若者だが、知り合うんだー、うわー、と勝手にテンションが上がった。
    新たに知り合ったおそめ・おゆき母子の訳ありな様子も気になる。

  • ランティエ2021年5〜11月号掲載のものに加筆修正して2021年12月ハルキ文庫刊。シリーズ5作目。高潮被害の品川から始まり、ラストは品川揚げで終わる。あんの夢がはっきりとした回でした。煮売屋での料理話が興味深く、面白い。

  • 品川の旅籠・紅屋(くれないや)に奉公する、おやすの物語、第5弾。
    颶風(ぐふう)による高波で、品川の街は水没してしまった。
    現代も、江戸も、日本列島は常に災害におびやかされている。
    紅屋の建て直しの2ヶ月間、やすは煮売屋のおいとの店で働かせてもらうことになった。

    女の子の成長物語だから、先輩となる女性たちの様々な生き方も語られる。
    今回は、煮売屋のおいとや、そこに弟子入りしたいと現れたおそめ。
    おいとは亭主に先立たれ、途方に暮れていたところを人に救われた。
    夫に頼って生きることを決めると、先立たれた途端に路頭に迷う。
    何があっても一人で生きていけるようにと商売を始めた。
    おそめは武家の奥方だったらしいが、娘を連れて婚家を出、町人として商いで身を立てたいと決意している。

    現代にも通じるものがある。
    やすも、年頃になり、この後どうしたいのかと人に問われる事も増えた。
    借金も返し終わり、給金がもらえるようになった自由。
    生き方も選べる自由。
    それゆえに却って、どうやって生きていくのか決めるのは難しい。
    そんな中で、次第に行く道を選んでいくおやす。
    生きるだけで精一杯だった少女時代から、今では夢を持つ事もできるようになったのだ。

    災害時の采配が素晴らしく、出来る男として個人的に注目していた「番頭さん」の名前が分かる。辰吉(たつきち)さん。
    そして、またもや歴史的有名人との絡みがあるおやす。
    サービスなのか。
    本格的に・・・関わらないだろうな。
    これから大きな歴史の転換期が来る・・・もう始まっているけれど。
    自分の人生を生きつつ、歴史の傍観者でもある、というところか?

  • 202112/シリーズ5作目。前作での水害から徐々に日常を取り戻し生きていくたくましさ。今回のやすは、被害を受けた紅屋を建て替えする間、修行もかねて政さんの知り合いの煮売り屋で働くことに。その煮売り屋の女将おいとも温かく気の良い人で頭が下がる。初めて与えられた自分一人で使える部屋に喜ぶやすがいじらしい。お馴染みのお小夜様おちよちゃん、今回登場のおいとやおそめ、それぞれの生き方。土方歳三が登場し、こう関わるのかという展開も面白かった。

  • こちら、高田郁さん「みをつくし料理帖」シリーズに通じるものがある。
    登場人物がみんないい人で食べ物が美味しそうで、人の温もりと少女の成長を感じられるストーリー。

    おやすの料理修行先 煮売屋「さいや  いと」のおいとさんが良い人で良かった~。
    旅旅籠「紅屋」で求められる料理と違って、冷めても美味しくご飯がすすむ濃い味付けのお惣菜。
    「料理っておもしろい!そして奥深い」
    そう感じられる1冊でした。
    江戸で奮闘するおやすの姿も良かったし、おそめさん、歳三さん、一郎さんと、新たな出会いにも心が踊りました。
    これからのおやすちゃんの成長がますます楽しみ。

  • 一人で手足伸ばし掛け布団を掛けて眠れるのを贅沢と感じるあん。
    今、当たり前の日々をあらためて幸せだと思う。

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著者プロフィール

 小説家、推理作家。
『RIKO-女神の永遠』で第15回横溝正史賞。
 猫探偵正太郎シリーズ、花咲慎一郎シリーズ など。

「2021年 『猫日記 Cat Diary』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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