攻撃される知識の歴史 なぜ図書館とアーカイブは破壊され続けるのか

  • 柏書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760154425

作品紹介・あらすじ

古代から文字によって記録されてきたもの、粘土板、巻物、書籍、住民の公的な記録、手稿、手紙など、その土地に住む人々の文化的な記録は、歴史上、故意にあるいは忘れ去られることで幾度も破壊が起きてきたことを説明しつつ、その過程でライブラリアンやアーキビストがどのように戦ってきたかを記す。

これまで、例えば図書館の存亡の歴史を扱う書籍では、その維持費用や、関心が持たれなくなって廃れたり、災害で失われたり、戦争で、敵国によって破棄されたりという、あくまで図書館とその蔵書がどうなったかを描いてきた。それに対して、本書は、図書館と書籍だけを考察するのではなく、文字で記録されたあらゆる内容は「知識」として保存されたもので、それをいかに後世のわれわれが、振り返って読んだり、活用しているかを考え、その貴重な「知識」の破壊が進んでいることに警鐘を鳴らす。たとえば、古代では、ニルムードのナブー神殿から資料保管室が見つかっており、そこから多量の粘土板が発見された。その中から不利な契約が書かれた粘土版が意図的に踏みつぶされているのが見つかっている。それは現代の公文書の破棄や改竄も同様で、つねにわれわれの蓄積された知識は遺棄される方向い動いている。こうした動きに対して抵抗した人々の活躍や、遺棄に際して考えるべき点も明らかにしていく。必ずしも図書館の破壊という観点だけでなく、個々人の書いた原稿や日記などの扱いについても、その公表にかかわる問題点を述べる。

特に、ヨーロッパでは宗教改革など、宗派の対立から起きる敵対派閥の書籍の破棄などにも言及する。これらの知識はキリスト教会が独占してきたため、図書館というより修道院に図書が保存されてきた。それをこの対立が破棄に向かわせることになった。

粘土板にしろ文字で書かれた情報というのは、それ以前の時代とは比べものにならない価値があった。たとえば何かの作りかたを記述すると、その作り方を知らない人がそれを読むことで同じ物を作ることができるようになる。しかも文字を読める人が少なかった時代では、その記述はあたかも魔法の呪文のようにも思えた。だからこそその貴重な図書を古代の王たちは集めて保存した。それがムセイオンであり、アラブでは知識の館となった。そうした知識に対して、宗教などが価値を否定したために、無視されたり破棄されてきた歴史を振り返るのが本書だ。そして図書館からさらに広く、カフカの例を挙げその小説という書かれた原稿の存続にも触れている。カフカは自分の書いた小説を絶対に公表するなと言って死んでしまった。しかしそれを託され友人がその意図に逆らって、原稿を故意に残したことで、われわれはその小説を読めるようになった。しかしバイロンの回想録は失われてしまった。シルヴィア・プラスの詩や日記は本人以外の手が入っている。こうした公表や非公表の問題もからめて解説していく。

感想・レビュー・書評

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  • 2017年1月、真実とは別にオルタナティブファクトが存在し得ると言う概念をアメリカ大統領顧問ケリーアン・コンウェイが示した。トランプ大統領の就任式に集まった聴衆は映像やデータを見れば明らかにバラク・オバマの時より少なかったが、トランプは自らの聴衆の方が多いと主張したのだ。

    侵略し、言語を奪い、歴史認識を書き換える。信仰を奪い、教育を操り、生活様式を変える。国の生命線を握り、政治を操作し、国民はいつの間にか、知らず知らずのうちに、貧困で窮屈でストレスフルな労働の日々を当たり前のものとして、無気力に感受し、暮らし始める。

    知識の破壊。相手に打撃を与えるための破壊、不都合な真実を隠すための破壊、人や文化の存在を消し去るための破壊、自ら望んでの破壊。戦争の度に、または為政者の都合によって、奪われてきた。人類はミームを紡ぎ、倫理観を向上させ、より良い暮らしを目指すのだが、それは種の領域において利害が一致する範囲においての事で、利害関係が相反すれば、衝突する。

    アパルトヘイト体制下、南アフリカの政府当局者は膨大な量の記録文書を破棄した。ナチスはユダヤ人から書物を奪い、アレクサンドリア図書館は独裁者カエサルに都市が略奪された際に消失。アッシュルバニパルの図書館では粘土板が割られ、宗教改革でも何十万冊もの本が破壊。引き揚げ時に日本兵は資料を燃やし、かと思えば、GHQに戦前の本は黒塗り、焚書される。マレーシアは1957年にイギリスから独立したが、マレーシア植民地政府の多数の記録文書は破棄された。アーカイブの破壊は旧植民地政府関係者の人種差別的な行為や偏見を隠蔽するために行われたのだ。

    本を読めるのは、幸せな事だ。

    知識を破壊するのは、知識に力がある事の証明でもある。知識は信仰であり、歴史認識であり、科学技術であり、それらを身に付けた集団の結束力の源泉でもある。本一冊一冊、有り難く、読み、身に付けていきたいと改めて思う。

  • 新刊速報【2022年4月版】|柏書房営業部通信 |かしわもち 柏書房のwebマガジン|note
    https://note.com/kashiwashobho/n/n61f4ecbe7150

    攻撃される知識の歴史(一般書/単行本/外国歴史/) 柏書房株式会社
    http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b604470.html

  • 九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/1426558

  • [目次]
    はじめに
    第1章 土に埋もれた粘土板のかけら
    第2章 焚きつけにされたパピルス
    第3章 本が二束三文で売られたころ
    第4章 学問を救う箱舟
    第5章 征服者の戦利品
    第6章 守られなかったカフカの遺志
    第7章 二度焼かれた図書館
    第8章 紙部隊
    第9章 読まずに燃やして
    第10章 降り注ぐ砲弾
    第11章 帝国の炎
    第12章 アーカイブへの執着
    第13章 デジタル情報の氾濫
    第14章 楽園は失われたのか?
    結び 図書館や公文書館はなぜ必要なのか

  • レビューはブログにて
    https://ameblo.jp/w92-3/entry-12751504157.html

  • 古代から現在に至るまで攻撃されてきた図書館・文書館。資料は戦利品として略奪されたり、後世に残ることを恐れて燃やされたり、文化のアイデンティティを破壊するため、資料の所蔵機関が攻撃されたりする。それは決して過去の出来事ではない…と著者の憤りとともに、警鐘を鳴らす図書。結びには図書館や公文書館がなぜ必要なのか、解説する。特定のコミュニティの教育を支える、多様な知識や思想を提供する、重要な権利の保護と健全な意思決定の奨励を通じ、開かれた社会を支える、確かな判断基準を提供する、社会が独自の文化的・歴史的アイデンティティを確立するのを助ける、などがあげられていた。

  • 英ボドリアン図書館館長が、焚書や図書館破壊など、知識に対する攻撃の歴史を振り返る一冊。

    格調高い良書だが、カフカやバイロン等の原稿破棄を巡る章(何章かある)はいらないと思った。
    それは「知識に対する攻撃」ではないし、話が別だろ、と……。

  • 書物が焼かれる場所では、いずれ人間も焼かれるだろう
    過去を記憶にとどめない者は、過去を繰り返す
    第1章 土に埋もれた粘土板のかけら
    第2章 焚きつけにされたパピルス
    第3章 本が二束三文で売られたころ
    第4章 学問を救う箱舟
    第5章 征服者の戦利品
    第6章 守られなかったカフカの遺志
    第7章 二度焼かれた図書館
    第8章 紙部隊
    第9章 読まずに燃やして
    第10章 降り注ぐ砲弾
    第11章 帝国の炎
    第12章 アーカイブへの執着
    第13章 デジタル情報の氾濫
    第14章 楽園は失われたのか?
    結び 図書館や公文書館はなぜ必要なのか

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著者プロフィール

2014年からボドリアン図書館の館長(25代目)を務める。それ以前は、ダラム大学図書館、貴族院図書館、スコットランド国立図書館、エディンバラ大学に勤務していた。ダラム大学とユニバーシティ・カレッジ・ロンドンで教育を受け、オックスフォードのバリオール・カレッジの研究員。2019年の女王誕生記念叙勲で大英帝国勲章のオフィサー(OBE)に指名された。著書に『John Thomson (1837-1921) : Photographer』、『A Radical's Books』(マイケル・ハンター、ジャイルズ・マンデルブロート、ナイジェル・スミスとの共著)などがある。

「2022年 『攻撃される知識の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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