新訂・英文解釈考

著者 :
  • 金子書房
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784760820016

感想・レビュー・書評

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  •  本書は1914年生まれの英語学者が1980年3月に刊行した大学入試英語の参考書。当時の時点でも文科省と入試作成者の想定していたであろう領域を大胆に踏み越えているが、そういった「やりすぎ」もみんな嫌いではない。なにより、ロングセラーなだけあってよい内容。
     一般論としては受験生には合格してから読んでほしいところだが、我慢は心身に良くないので、一・二度の挑戦と挫折を経てから読破を諦めるというコースを歩んでもいいと思う。III章を読む前に『日本語のレトリック』などを読むほうが負担が軽くなるはず。
     紙面構成は改善の余地がきわめて大きいが、当時の著者・編集者の意図と古さそれ自体を尊重する編集部的博物学からしても(または「読みにくさ」をたっとぶ参考書オタク的からも)、このまま変更されることはないと思われる。


    【版元】
    [https://www.kanekoshobo.co.jp/book/b183757.html]


    【こんな感じです】
     本書の「同格 Apposition」についての解説(pp.23-28)をごく一部だけ、例として示しておきます。英文ではよく引っかかってしまう文法項目なので、本書における佐々木先生の「筆致」や、そっけなくみえる説明の分量を確認してみてください。
     なお引用部分の本書の中での位置づけは下記の通り。

     Ⅰ.「文」の構造 
      4.「同格」の構造
       1. 名詞句を添えて 
       2. 名詞節を添えて 
       3. つなぎの“that”を使わずに「文」を添えて  
       4. つなぎに“of”を使って 
       5. 「不定詞」を添えて 
       6. 「しめくくり」として 


    ――――――(引用始)――――――

      1. 名詞句を添えて 
    [例文]
     He began to laugh, at first quietly and then so loudly. He laughed at himself―the wretched comedy of his grief.
                  ――William Saroyan
    [解説] “himself”のところで筆が一寸とまり、そこで自嘲の対象の“himself ”をもっと明確にしたい気持に動かされて“the wretched comedy of his grief ”が、「――」によって示される間を置いて現れる。これは作者の心をこめた一句であるからよく味わう。まず“his grief which was tragic, but comic all the same”などとしては“wretchedness”も“comicality”も弱くなるので“the wretched comedy ”のように一見矛盾したことばをつなげて言い、次にそれを形成する“his grief”を続けるのであるが、そのつなぎに後出の“of ”を使ったのである、「自分の悲嘆というみじめにもこっけいな有様」の意味になる。
    [意味] 彼は笑い出した.はじめは声をひそめ,やがて手放しに大声を立てて.自分自身を――この悲嘆のみじめにも滑稽なざまをだ.

    ――――――(引用了)――――――



    【目次】
    はしがき(1997年7月1日 佐々木髙政) [i-iii]
    目次 [v-vii]

    Ⅰ.「文」の構造 003
      1.「主語」の姿 005
      2.「目的語」の姿  011
      3.「補語」の姿 018
      4.「同格」の構造 023
      5.「係り」の構造 029
      6.挿入語句 034
      7.「省略(Ellopsis)」 038
      8.句読点 044

    Ⅱ.「文」の織りなし 049
      1.名詞 051
         (1)特定の名刺の持つ「意味」
         (2)「能動的な意味」か「受動的な意味」か
      2.代名詞 055
         (1)何を指し、その意味は?
         (2)再帰代名詞及び‘one's own’
         (3)‘One, another, the other(s), etc.’
      3.冠詞 066
         (1)不定冠詞
         (2)定冠詞
         (3)形容詞に定冠詞をつけて
         (4)定冠詞の副詞的用法
      4.形容詞 073
      5.副詞 077
         (1)副詞の語義
         (2)文修飾の場合、その他
      6.動詞・助動詞・準動詞 086
         (1)動詞
         (2)助動詞
         (3)準動詞
      7.関係詞 100
         (1)‘Who, Which, that, what’
         (2)‘When, where, why, etc.’
      8.接続詞 114
         (1)「名詞節」の場合
         (2)「副詞節」の場合
      9.前置詞 124

    Ⅲ 「叙述の様式」と「修辞」 135
      1.「否定」と「肯定」 137
         (1)「否定」と「肯定」の対応
         (2)「二重否定」more… than
         (3)‘Neither...nor...’
         (4)‘No more...than...’及び部分否定
      2.「現実」と「仮想」 148
      3.「強調」と「控え目」 157
      4.「修辞技法」のあれこれ 176
         (1)形容詞の「転位」
         (2)副詞又は形容詞を名詞に「転化」
         (3)「比喩」と「擬人法」
           (a)  比喩」――「直喩」と「隠喩」
           (b)  「擬人法(Personification)」
         (4)「漸層法(Climax)と「漸墜法(Bathos)」
         (5)「対句(Antithesis)」
      5.「感情」を読みとる 199
      6.「おかしみ」と「辛辣」と 213

    Ⅳ.叙述の展開 227
      1.「論説」の場合229
         (1)その構造と展開
         (2)「対比」
         (3)「解説」と「注釈」
         (4)「随想天筆」
      2.「描写」の場合 253
      3.「結び」の一句 262

     索引  [267-286]

  •  よく英文解釈書の最高峰であると言われるが、納得の内容。英語を英語のままで、母語のように細かなニュアンスまで分かるようになるのには、一度は本書のような書物で学ばなければならないと感じる。

     ある英文学者の本を読んでいて、英英辞典で意味を調べるようにしたら、英語の力が飛躍的に伸びたとあったが、それを実感できる。英英辞典と言っても、学習者用のそれではない。OEDである。

     まだ、ページ数では半分くらいにしか達していないが、本書を読了したらどんな世界が見えるようになるのかと思うと、胸が高鳴るばかりである。

     近くのジュンク堂書店では、大学受験参考書の棚に2冊並んでいたが、余程の実力者で英語以外に力を入れる必要がない者でなければ手を出しても、挫折してしまうだけではないだろうか。
     逆に英文科の学生にはオススメだ。

     例えば、前置詞の意味を解説した、126ページでは、
    afterの用法の一つを次のように解説している。


    次の例では、subsequent to and notwithstanding (
    OED)である。
    After all his entreaties, I gave him a flat refusal, his wicked design being too evident to admit of any doubt.
    三拝九拝されたけれど彼にキッパリいやだと言った。その悪企みがあまりにも明白で疑を容れる余地がなかったからだ。admit (of) : lie open to, be capable of(OED)


    entreaties 以外は見慣れた単語ばかりだが、一見しただけですぐには意味が取れないのではないだろうか。

    この本を読むと、英文解釈力はもとより自分の日本語での表現力も高められるように思う。

     最後に星を一つ減らした理由を述べておこう。それは、本書の他のページを参照するように書かれている箇所を開いても、なかなかそのページのどこを見たら良いのか分からない場合があるためである。

  • ページ数は少ないものの大判で、びっしり文字があるので情報量がすごい。
    内容は例・訳・語釈(たまに解説)をひたすら繰り返すというもの。見かけが古風でレイアウトが結構見づらいが、大量の難易度高めの実例(文学作品などから取っている)に触れるから力は付きそう。

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著者プロフィール

1914年(大正3年) - 2008年(平成20年)
一橋大学名誉教授

「2021年 『新装版 和文英訳の修業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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