非認知能力: 概念・測定と教育の可能性

  • 北大路書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784762831645

作品紹介・あらすじ

ヘックマン『幼児教育の経済学』(2015)や
ポール・タフ『私たちは子どもに何ができるのか』(2017)の邦訳で
一気に注目され,学習指導要領(平成29年3月告示)をはじめ,
わが国の教育政策に多大な影響を与えた概念,
「非認知能力」とは一体何であったのか?

非認知能力とは何か。「人間力」「やりぬく力」など漠然とした言葉に拠らず,心理学の知見から明快に論じる。誠実性,グリット,好奇心,自己制御,楽観性,レジリエンス,マインドフルネスなど関連する15の心理特性を取りあげ,教育や保育の現場でそれらを育む可能性を展望。非認知能力を広く深く知ることができる一冊。

白梅学園大学名誉教授 無藤 隆氏 推薦!
「非認知能力」とは何か。心理学で実証された15種類の心理特性から,
①非認知能力は教育可能である,
②その教育は望ましい成果(学力や健康・幸福・社会的活動)につながる。
本書から多くを学ぶことができた。
広く教育・保育の関係者に勧めたい。

【主な目次】
序章 非認知能力とはなにか
1章 誠実性
2章 グリット
3章 自己制御・自己コントロール
4章 好奇心
5章 批判的思考
6章 楽観性
7章 時間的展望
8章 情動知能
9章 感情調整
10章 共感性
11章 自尊感情
12章 セルフ・コンパッション
13章 マインドフルネス
14章 レジリエンス
15章 エゴ・レジリエンス
終章 非認知能力と教育について

感想・レビュー・書評

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  • 現在様々なところで言及されている非認知能力ですが、それぞれの機能がどのような測定方法で把握され、どのような効果があると報告されており、どのような教育的介入が可能なのかは、まだ明確ではない状態にあります。本書では、15の心理特性を取り上げていますが、それらは、「比較的盛んに研究が行われている」、「教育や人生において『よい結果をもたらす』可能性がある」、「介入による変容の可能性がある」、という3つの共通点のあるものが選ばれています。私が特に気になっている「グリット」についても、第2章で取り上げられていました。

    【序章】非認知能力とは
    認知能力とは、知能検査で測定される能力(知能)と学力がある。対して非認知機能とは、何かの課題に対して懸命に取り組み、限られた時間の中でできるだけ多く、より複雑に、より正確に物事を処理することができる心理的な機能である。ヘックマンは、現在の教育は認知力テストの結果、つまりは「どれほど賢いか」を重要視していると批判し、最近の文献の一致した意見では「人生における成功は賢さ以上の要素に左右される」と非認知能力の重要性を主張している。また、認知能力の遺伝率は50~70%、ときには80%を超えるが、パーソナリティ特性は50%前後、特性によっては50%を下回ることもある。よって、認知能力は遺伝による部分が大きいために教育や環境によって変わりにくく、対して非認知能力は環境によって変化する部分が大きいことから、教育や子育ての介入によって変化することが期待されている。
    【第1章】 誠実性:課題にしっかりと取り組むパーソナリティ
    【第2章】 グリット:困難な目標への情熱と粘り強さ
    グリットには二つの側面があり、一つは興味の一貫因子、もう一つは努力の粘り強さ因子である。グリットの高い人は、神経症傾向が低く、ポジティブ感情を経験しやすい、また、楽観的で人生満足感が高い。努力の「量」だけでなく、「質」も高い。認知方略(記憶の工夫)、メタ認知方略(学習の振り返り)、時間と学習環境の管理(スケジュールや学習場所の工夫)、動機付け方略(やる気を高める工夫)という4つの方略がある「自己調整学習」がうまい。ただ、この「自己調整学習」はグリットの努力の粘り強さ因子とは正に相関しているが、興味の一貫性因子とはほとんど相関していない。グリットの一人者であるダックワースは、グリットを育む上での成長マインドセット(自分の能力が生まれつきのものではなく、努力や工夫で開発されるという信念)の重要性を指摘している。
    また、目標追及やその成否を支える特性としては、グリットの他にも自己制御と誠実性もある。ただ、自己制御は目先の誘惑に流されず長期的に好ましい目標のために努力ができるという心理特性であり、グリットは一つの重要目標に集中し続け努力を重ねるという心理特性がある。また、誠実性よりもグリットの方が高い成果や目標の放棄と相関するといった違いがある。
    グリットを伸ばすための介入研究としては、次の3つがある。①結果に基づくアプローチ:自分にとって「価値」があると思うほど、目標を達成できる見込みが高いと「期待」できるほど、動機づけが高まる。しかし、4カ月後には介入効果は消える。②自分らしさに基づくアプローチ:「頑張り屋」という自分の一側面を強く意識させる方法。③学級の目標構造に焦点を当てたアプローチ:目標構造が習得的(先生が生徒の学びを大切にし、困難や失敗を「成長や気づきのチャンスだ」と温かく声をかける)な学級の方が、遂行的(すぐ成果を出すことを求められたり、先生が生徒の小テストの点数に一喜一憂する)な学級よりグリットを高めやすい。
    今後国内の学校教育や幼児教育などの現場にグリットの観点を普及させるには、①教師や管理職がグリットの概念を深く理解すること、②子どもの「達成したい」「達成できる」という気持ちを育むこと、③個性や願いを育むこと、④学校や家庭の目標構造、の4つが重要である。
    【第3章】 自己制御・自己コントロール:目標の達成に向けて自分を律する力
    【第4章】 好奇心:新たな知識や経験を探究する原動力
    【第5章】 批判的思考:情報を適切に読み解き活用する思考力
    【第6章】 楽観性:将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力
    【第7章】 時間的展望:過去・現在・未来を関連づけて捉えるスキル
    【第8章】 情動知能:情動を賢く活用する力
    【第9章】 感情調整:感情にうまく対処する能力
    【第10章】共感性:他者の気持ちを共有し、理解する心理特性
    【第11章】自尊感情:自分自身を価値ある存在だと思う心
    【第12章】セルフ・コンパッション:自分自身を受け入れて優しい気持ちを向ける力
    【第13章】マインドフルネス:「今ここ」に注意を向けて受け入れる力
    【第14章】レジリエンス:逆境をしなやかに生き延びる力
    【第15章】エゴ・レジリエンス:日常生活のストレスに柔軟に対応する力
    【終章】非認知能力と教育について
    心理特性どうしは互いに関連している。例えばグリットは、誠実性や自己制御・自己コントロールと密接な関連をもっている。他にも、自尊感情が自己愛というあまり望ましくない心理特性と関連するような例もある。今後研究を進めていく上で、ある心理特性を変えていこうとするとき、それに伴って他のどのような心理特性もともに変わっていくのか、どのような特性は変わっていかないのか、ということについて、慎重に検討しておく必要がある。

  • [読書]3 非認知能力 概念・測定と教育の可能性 小塩真司(2021)

    序章 非認知能力とは
     1章 誠実性 課題にしっかりと取り組むパーソナリティ 
     2章 グリッド 困難な目標への情熱と粘り強さ
     3章 自己制御・自己コントロール
     4章 好奇心 新たな知識や経験を探究する原動力
     5章 批判的思考 情報を適切に読み解き活用する思考力
     6章 楽観性 将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力
     7章 時間的展望 過去・現在・未来を関連づけて捉えるスキル
     8章 情動知能 情報を賢く活用する力
     9章 感情調整 感情にうまく対処する能力
    10章 共感性 他者の気持ちを共有し、理解する心理特性
    11章 自尊感情 自分自身を価値ある存在だと思う心
    12章 セルフ・コンパッション 自分自身を受け入れて優しい気持ちを向ける力
    13章 マインド・フルネス 「今ここ」に注意を向けて受け入れる力
    14章 レジリエンス 逆境をしなやかに生き延びる力
    15章 エゴ・レジリエンス 日常生活のストレスに柔軟に対応する力
    終章 非認知能力と教育について


    気になっていたけれど、怒涛の生活環境の変化から手が出せてなかった一冊。読み切れてよかった。
    久々の北大路書房さんの本。やっぱりおもしろい。

    自分は家庭環境やバスケ経験、キャパ越えの受け持ち経験からいろんなストレスや人間関係に揉まれる中で、非認知能力を身につけてきた方の人間なんだろうなぁと思うことがあった。
    逆に、26歳くらいまでは、情動知能の低く感情調整もできてなかったなぁ。って。
    逆境の中でウェルビーイングに向かうための術を得ていったんじゃないかなぁ。って振り返るとの同時に、今の自分(ここ2ヶ月)はキャパ越えしないために、自分を甘やかすことに徹していた結果、自己肯定感が下がっているなぁとも思った。

    正直読んでいて、よくわからないところはたくさんあった。
    今からでも読書会入れてもらえるかなぁ〜って思ったりなんかして〜

  • 特におもしろかったのは後半の共感性、自尊感情、セルフ・コンパッション、マインドフルネス、レジリエンス、エゴ・レジリエンスあたり。それぞれ心理学の基礎研究を丁寧にレビューしているので単なる流行のワードという扱いではない。(なので、読んでちゃんと理解するには心理学の知識が要る)
    興味深かったのは、介入研究(能力を高めるために教育・訓練を行い効果測定する)の紹介と、教育の可能性が示されている点。初等・中等教育(小中学校での教育)への言及が多くて大学や社会人の事例は少なめ。

    本書で取り上げられた「非認知能力」は以下の通り(目次より):
    ・誠実性―課題にしっかりと取り組むパーソナリティ
    ・グリット―困難な目標への情熱と粘り強さ
    ・自己制御・自己コントロール―目標の達成に向けて自分を律する力
    ・好奇心―新たな知識や経験を探究する原動力
    ・批判的思考―情報を適切に読み解き活用する思考力
    ・楽観性―将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力
    ・時間的展望―過去・現在・未来を関連づけて捉えるスキル
    ・情動知能―情動を賢く活用する力
    ・感情調整―感情にうまく対処する能力
    ・共感性―他者の気持ちを共有し、理解する心理特性
    ・自尊感情―自分自身を価値ある存在だと思う心
    ・セルフ・コンパッション―自分自身を受け入れて優しい気持ちを向ける力
    ・マインドフルネス―「今ここ」に注意を向けて受け入れる力
    ・レジリエンス―逆境をしなやかに生き延びる力
    ・エゴ・レジリエンス―日常生活のストレスに柔軟に対応する力

  •  何らかの教えを実践している人、インストラクショナル・デザインに興味がある人なら必読の書である。「非認知能力」とは何か、それを測定する研究結果の紹介、教育での活かし方のヒントが書いてある。
     本を読んでいると「なるほど」と思う箇所が多々ある。これまで受けた教育やワークショップにおけるアクティビティについて、やり方は分かっていたが原理・理由まで掘り下げてこなかったもののうちいくつかがこの本により明らかになった。
     「好奇心」を紹介するパートで、「情報のズレを提示する」というというものが提示されている。これは「喉まででかかっている状態」にすることで好奇心が増すというものである。ここに至るワークショップでのアクティビティはけっこうあるが、なるほど「好奇心」を刺激するということなのだと膝をうった。
     当然他にもたくさんある。手元に置いておき何度も読みそのたびに気づく様な付き合い方になるのだろう。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50256368

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50256368

    非認知能力とは何か。「人間力」「やりぬく力」など漠然とした言葉に拠らず,心理学の知見から明快に論じる。誠実性,グリット,好奇心,自己制御,楽観性,レジリエンス,マインドフルネスなど関連する15の心理特性を取りあげ,教育や保育の現場でそれらを育む可能性を展望。非認知能力を広く深く知ることができる一冊。
    (生命融合科学分野 大塚正人先生推薦)

  • これは堅いが立派な本のようだ。

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著者プロフィール

早稲田大学文学学術院教授。
2000年,名古屋大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。主著に『性格とは何か―より良く生きるための心理学』(中央公論新社,2020年),『性格がいい人,悪い人の科学』(日本経済新聞出版社,2018年),『パーソナリティ・知能』(共著,新曜社,2021年),『レジリエンスの心理学』(共編,金子書房,2021年),『非認知能力―概念・測定と教育の可能性』(編著,北大路書房,2021年),『Progress & Application パーソナリティ心理学』(サイエンス社,2014年),『性格を科学する心理学のはなし―血液型性格判断に別れを告げよう』(新曜社,2011年),『はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険』(ミネルヴァ書房,2010年),『大学生ミライの因果関係の探究』(ストーリーでわかる心理統計,ちとせプレス,2016年),『大学生ミライの統計的日常―確率・条件・仮説って?』(ストーリーでわかる心理統計1,東京図書,2013年)など。

「2022年 『大学生ミライの信頼性と妥当性の探究』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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