兵隊やくざ 続―続・貴三郎一代 (光人社ノンフィクション文庫 154)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769821540

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  •  『兵隊やくざ』(光人社NF文庫)の続編である本作では、桁外れの行動力を持つ大宮貴三郎とインテリの兵長殿(関東軍最古参の上等兵だったが前作で昇進)のコンビが中国大陸で終戦に伴う混乱に巻き込まれていく。
     北満の孫呉の部隊にいた二人は、軍隊という理不尽な組織とそれを利用している人間に対する反抗から、部隊の南方転出の際に脱走を企図し、これを成功させる。とはいえ、二人が脱走兵であることが日本軍の将兵に露見すると当然大変なことになるわけだが、関東軍から脱走した二人は北支軍隷下の地域であればそのような心配はないだろうとたかをくくる。そして、日本軍を慰問してまわる浪花節語りを経て、北支の部隊の将兵に取り入り、日本兵を相手とするピー屋を北京と天津の間ではじめ、そのオヤジとなる。大宮はピー屋の妓の一人桃子と結婚することになり、牧師や神官を呼べないので仕方なく僧侶を呼んできて、僧侶が枕経をあげるなかで奇妙な結婚式を挙げる。しばらくするとこのピー屋には、大宮と兵長殿が日本軍の貨物廠から物資を盗んだ際に買収した豊後一等兵、高粱畑で決闘をした商売がたきの根上、根上のダニである山本大尉、妓たちの検診に週に一度くる軍医大尉、大宮の結婚式をやった僧侶の兵隊、同じく僧侶である上州、慰安所の許可をした別の大尉、そして脱走兵である二人を追ってきた青柳憲兵伍長といった奇妙な取り合わせの、個性豊かな野心家たちが集うこととなり、さながら梁山泊の様相を呈するようになる。この梁山泊を中心に様々な事件が起こり、物語が展開することになるが、二人をはじめとする梁山泊の仲間、妓たちも、中国大陸で日本の敗戦によって起こる大混乱に否応なしに巻き込まれていくこととなる。
     大宮と兵長殿の行動は、困難な時代での生活のためとはいえ決して褒められたものばかりはない。しかし、終戦により日本人が大陸から内地へ引き揚げることになったときに二人が行った決断は心を打たれるものだった。
    <私と大宮との、大陸での生活の最後のわずかな部分に、最大の苦痛と悲劇があったことについて、私は、いまでもありありとその場面を思い浮かべることができる。問題は、金ではなかった。自分の持っている全財産を上州に渡して、噂が事実ならば、乗船者で金を持たない者に十円ずつ渡してくれるように頼み、音丸といっしょに先に立たせた。私と大宮がなぜ、遅れたかというと、天津の日本租界に、歩けない病人や老人がたくさん残っていたことを発見したためであった。彼らは港まで歩いて行けない。中風やみや盲目や、リュウマチ患者なのであった。こういう問題に直面すると、大宮貴三郎の判断ははやい。「かついで行きましょう」と彼は、まったく何の躊躇もなくいった。……「帰ろうや、日本へ」と、私たちは動けない人間に向かっていった。彼らの大部分は、帰国をあきらめていたのだ。>
    <私たちは、病人や患者の背中輸送を一カ月もやったのだ。最後まで一日も休まずにやりとげたのは、大宮一人であった。この、無報酬で、過酷な重労働を、なんと呼んだらいいだろうか。大宮はそれに耐えた。軍隊で、あれほど抵抗し、楽をしようとしていた大宮貴三郎の中では、これは軍律でも、愛国心でも、天皇陛下の命令でもなく、一人でも余計に日本人を内地へ帰したい、という情熱だったのだろう。私には、そうとしか考えられない。すでに北支には秋風が立っていた。>
     おそらく、このような混乱時にこそ、それぞれの人間の本性というものが現れるのであろう。いつの時代、どこの地域であっても、混乱時には人を騙し、酷いことを行う者がいるものだ。最近では、トルコ・シリア大地震後の現地で窃盗が多発しているというニュースが記憶に新しい。民族的な大移動ともいうべき終戦時の引き揚げにおいても、本作中の根上のような不善をなす者はたくさん現れたのだろう。しかし、その一方で、本作の主人公たちのような立派な行動をとった、無名の英雄とも呼ぶべき日本人もまた、当時数多く現れたのであろうなどと思いを巡らしながら読んだ。

  • P294
    陸軍を脱走し、満州に慰安所を作り、終戦を迎えるまでの元やくざの話。

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