艦艇学入門: 軍艦のルーツ徹底研究 (光人社ノンフィクション文庫 277)

著者 :
  • 潮書房光人新社
4.00
  • (1)
  • (4)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 30
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769822776

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 新書文庫

  • この本のタイトルは艦艇のルーツをたどる、という趣旨のように読めますが、実のところ、主力艦ではない水雷艦やスループ(護衛艦の一種)、揚陸艦、モニターといった補助艦艇を扱っています。また、イギリスを中心に海外にも言及し19世紀末期に遡るのも、この本の特色です。対象とする時代が時代だけに写真は少ないのですがその代わり大量の側面図があるので、十分楽しめます。ただ、写真は、本書の中ほどに、紙質を変えた写真のページがあります。20世紀初頭の水雷艇の写真は珍しいと思われます。


    各章の簡単な説明は以下の通りです。
    1 水雷艇・魚雷艇
    水雷艇とは魚雷を主兵装とした艦艇で、南北戦争に始まり20世紀初頭に水雷駆逐艦=駆逐艦に取って代わられた艦種です。南北戦争や日露戦争の日本のものなどを取り上げています。
    魚雷艇は高速のモーターボートに魚雷を搭載したもので、高速を特徴とします。

    2 駆逐艦
    駆逐艦自体はよく知られた艦種であり、第二次大戦で最も活躍した線種の1つであります。ですが、この本は、それ以前の時代、水雷駆逐艦とよばれた頃の19世紀末期〜20世紀初頭に焦点を当てています。
    19世紀の水雷巡洋艦が、蒸気船のような形からだんだん変化する様子に、船体の発達が垣間見えます。

    3 スループ・コルベット・フリゲイト
    これらの艦種は、第二次大戦では、駆逐艦よりも小さい護衛艦について使われます。これらの艦種区分は19世紀に遡るものの20世紀初頭にいったん廃れ、第1次大戦以降に復活します。
    蒸気船から発展していくさまが見て取れる19世紀のフリゲイト・コルベット、第1次大戦期のスループ、第2次大戦のスループ・コルベット・フリゲイトが取り上げられています。

    4 揚陸艦艇
    上陸用舟艇と強襲揚陸艦を取り上げています。
    上陸用舟艇は、ボート(はしけ)にエンジンと荷台の扉をつけて、浜辺に直接上陸できるようした舟艇で、第1次大戦のイギリスと第2次大戦の日本を中心にあげています。
    強襲揚陸艦とは、強行上陸できる大型艦船です。今日のアメリカのイオージマ級等から話を始め、世界初といわれる日本"陸軍"の神州丸や平時は貨物船として使えるようにした各船舶、英米の揚陸艦船を紹介しています。
    このほか、LSTに代表される戦車揚陸艦、揚陸艦艇等を武装し揚陸艦を援護した揚陸支援艦が紹介されます。

    5 機雷敷設艦・掃海艇
    機雷敷設艦は文字通り機雷を敷設する艦艇です。
    掃海艇は、反対に機雷を除去するための艦艇です。大正期の日本の新造掃海艇、イギリスの各種掃海艇など各国のものが紹介されます。

    6 砲艦
    河用砲艦と砲艦が扱われています。
    河用砲艦とは、揚子江やナイル川などで使用された、喫水の浅い砲塔搭載艦です。配備場所からも分かるように、植民地と結びついた艦船です。揚子江の日中米英の砲艦、アムール川やドナウ川のロシアの河用モニター(低喫水砲塔搭載艦)を中心に取り上げています。
    砲艦は、最小限(?)の大砲を搭載した艦艇です。その記述を大まかに分けると、蒸気機関の時代ではクリミア戦争や南北戦争の時代、19世紀末期には対水雷艦用艦艇へと発展し時代。その後沿岸警備等のための小規模な艦艇として発展した1930年代以降の日独米などの砲艦、となります。

    7 モニター
    モニターとは、低喫水の砲塔搭載艦ですが、多く分けて二つの意味合いがあります。1つには南北戦争で北軍が開発したモニターです。もう1つには、第1次大戦のときにイギリスで誕生したもので、上から見ると小判型の低乾玄の船体に、戦艦並みの砲塔を1基搭載した独特の艦船です。
    前半は南北戦争の両装甲艦の構造・戦い、砲塔ゆえに低乾玄となった19世紀の砲塔搭載船の発展で、もっとも19世紀らしさを感じる部分です。加えて、19世紀末期のアメリカの沿岸モニタ−が紹介されます。
    後半は、第1・2次大戦期のイギリスのモニターに加え、第1次大戦期のイタリア港湾防衛用の小型のモニターなどが紹介されます。

    内容の紹介だけでスペースを食いましたが、いずれにしても、19世紀末期〜20世紀初頭の艦艇の紹介・側面図が多いという、特異な本となっています。
    日露戦争以前の艦艇は主力艦以外あまり知られませんが、この頃にも多様な艦船があったことが分かります。

    戦艦主力艦とは一味も二味も違った海上戦争の側面や活躍が伺えます。


    類書としては、小艦艇入門(光人社NF文庫)があります。こちらは日本限定ですが、こちらも機雷敷設艦、掃海艇、水雷艇、河用砲艦、砲艦を扱っていますので、合わせて読むと面白いと思います。

全2件中 1 - 2件を表示

石橋孝夫の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×