日本は勝てる戦争になぜ負けたのか: 独創的戦争文化史 (光人社ノンフィクション文庫 795)
- 潮書房光人新社 (2013年7月31日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
- / ISBN・EAN: 9784769827955
作品紹介・あらすじ
「日本兵は世界一強く、日本の戦争指導者は世界一愚かだった」米戦史家ロバート・レッキー-真の敗因、真の戦犯は敗戦によって深い闇のなかに葬り去られてしまった!勝てる戦争だったと知るだけで、半世紀前の歴史を見る目が、がらりと変わってくる。新しい指導者となる現代人のための新しい戦争史観入門。
感想・レビュー・書評
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ツッコミ所が多すぎて何を書こうかと迷う。
筆者の言う「勝てる戦争」とは、日本は米国と戦争せず、南進してイギリスとオランダのみと戦争すればよかった、ということだそうです。
これだけだと「独創的文化史」の副題が泣きますね。もちろんこれだけではありません。
南進して資源地帯を確保した後は、インド洋の制海権を確保!そうすると…
・エジプトのイギリス軍が補給を絶たれてロンメルの戦車に轢き殺される。その勢いでインド英軍拠点も撃破!
(エジプト駐留イギリス軍の補給線ってインド洋通ってたっけ?)
・ペルシャを経由していたソ連へのレンドリースがストップ。これによりドイツがスターリングラードを攻略し、最終的にドイツが独ソ戦に勝利!
(レンドリースは北極海経由やアラスカ経由もあるので、ペルシャルートの喪失は致命傷にはならないのでは?)
・こうなるとイギリスは植民地を構う余裕はなく、東南アジアの日本軍は安泰
おそらくこんなようなことを言いたかったのだと思う。
一応、米国が参戦してくる可能性も考慮に入れてます。その場合でも、著者の考える日本海軍必勝法により米海軍恐るるに足らずだそうです。
その必勝法とは、「漸減邀撃作戦」。具体的には、
・太平洋を横断してくる米艦隊に、駆逐艦や潜水艦による小部隊の攻撃を繰り返し、戦力を削ぎ落とす
・疲弊して日本近海に到着したところに、戦艦大和、武蔵による艦隊決戦で殲滅する
・米戦艦の最大射程より大和、武蔵の射程が長いので、米戦艦の射程外から攻撃することにより必ず勝てる ( ゚д゚)ポカーン
これだけでは何言ってるかわかりませんね。空母への言及も無いし。
著者の主張の前提として、以下が根底にあります。
・日本が米国に物量で負けたというのは嘘である。
・日本と英米の装備は互角で、兵力ではむしろ勝っていた
・日本兵は世界一強く、普通に戦えば負ける要素は無かった
ちなみに、根拠やデータに基づく検証は一切ありません。
米空母に対しては、質量ともに十分な日本の機動部隊がいるから問題ない、ということのようです。
話は戻って、タイトルにある「戦争になぜ負けたのか」という点については、軍上層部および政府の無策・無能が最大原因という主張で、こちらは巷に溢れている話と大差ありません。
ただ、どうすれば改善できたのか、という点については一言。「サムライ魂を持て」。 うん。潔すぎる。カッコイイ。
総括すると、太平洋戦争では、サムライ魂が欠けていたからヤンキーに負けた、ということのようです。
副題の「独創的」の文字に違わず、かなり個性的(妄想的?)な主張が繰り広げられています。また、(歴史や科学ではなく)「文化史」であると割り切ってたのか、筆者の主張をサポートする資料、データ、文献等は一切登場しません。
従って、歴史のIfを追求したり、データに基づく敗戦分析を求める人のニーズには応えられない本だと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示