昭和の陸軍人事: 大戦争を戦う組織の力を発揮する手段 (光人社ノンフィクション文庫 920)

著者 :
  • 潮書房光人新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784769829201

作品紹介・あらすじ

長期的な人事計画を持たずに大戦争に乗り出した昭和の陸軍-本土決戦にも作用した複雑怪奇な"陸軍人事"を解明する。

感想・レビュー・書評

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  • 2015年刊。

     日本陸軍は軍隊である前に官僚組織であった。この当たり前の事実に気付かされる書。

     本書は、昭和戦前期における、陸軍大臣・参謀総長(多年の皇族総長のため次長を含む)・教育総監の所謂三長官人事に加え、各部隊長や内外の司令官人事、実務中枢たる参謀本部や陸軍省の部局長人事、実戦部隊の幕僚人事を通じ、日本の戦争指導の問題点(更に、本来不即不離の外交・情報収集へのコミット不備)を明らかにしようとする。

     まさにザ・官僚。陸大等の席次、同期や近接期の共同と競争、配転と配転先の上役・同僚、彼らの栄達や引き。同僚や部下の支持など、現代でも巨大組織(就中、中央官庁)で見受けられる事態だったことが、細々した人的関係を叙述し尽くすことで浮かび上がる。

     こういう中、戦争の長期化で、中央の幕僚も野戦指揮官や現場の幕僚、技術将校の人材につき、速成の必要性が高まったがゆえに、
    ① 中央が現場経験に乏しい人材で固定化(政策保秘という目的もあったろうが)。
    ② 陸大のみならず、士官教育者の人的枯渇。
    ③ 師団の数的膨張が、現場指揮官の数的限界をはるかに超え、機能低下を来した。
    ④ 戦時下の年功序列配転は論外(流石にそこまで愚昧ではなかった)。
     が、適材適所に徹することもできなかった。
    ⑤ 派閥人事、殊に戦線縮小派と目される人物の中央からの放逐。
    ⑥ 陸大優秀層の海外留学がなくなってしまったこと。
    ⑦ 皇族参謀総長の長期化の弊害が印象に残る。

     一方で、個別の事情として、
    ⑴ 教育総監として軍人教育に辣腕を振るうことが期待された渡辺錠太郎の憤死、
    ⑵ 東条が陸相以降、東京憲兵隊隊長に子飼いの部下を送り込むだけでなく、憲兵司令官人事につき、短期間で入れ替える等の容喙をし本部を機能不全化した点。
    ⑶ 東条の情報源は憲兵(人的情報)と陸省調査部の通信盗聴。これらの取得情報を、異例・辣腕とされた東条人事に反映させた。
    ⑷ 終戦時の参謀総長(2.26事件後の陸軍次官で粛軍に辣腕を振るう)梅津美治郎の日中戦期以降の処遇。
     これが東条を東京に残置させる結果になり、陸相(続く首相)への道を開いた点。

    これらは特に目を引いた内容だ。

    しかし、余りに細かな人名と人的関係が網の目状になり(個人的には殆どが知らない人)、また、権限に関する無知のため、十分理解したとは言い難い。
     再読不可避。

    ◆補足。
    陸大の授業時間につき、語学が約25%、馬術が約20%。この2種で半数近く。語学の必要性はともかく、この2種は努力型・一点暗記型に有利で、かつ馬術が得意な者が上位に食い込むのに有利だという事実だ。馬術がいるのかという根本的な懐疑もないではない。そもそも、軍略家とは何かということを忘れ、本来の在り方とは異質なもののように思えるのだが…。

  • 戦前の日本は兵役制度が完備し、総人口の10パーセントの動員は可能で、終戦時は11.47ぱーせんとに達していた。しかし、兵員を統率する将校の絶対数が足りなかった。これは日本が計画的な侵略戦争を遂行したのではないことの証明にはなるが、長期的な計画がないままに大戦争に乗り出した無謀さをも意味する。(2015年刊)
    ・はじめに
    ・第Ⅰ部 日本を動かした三長官の人事
    ・第Ⅱ部 重視されるべき指揮官の人事
    ・第Ⅲ部 常に優先された参謀の人事
    ・人名索引

    昭和の陸軍人事を解説しているが、よくまあ調べたものだと感心する。残念なのは、出典が明示されていないところ。はじめにで基本的な参考書籍が3点あげられているが、その他多数は省略するとある。読み物としては面白いが、残念なところである。

  • 陸軍の膨大な人事データから、特徴的あるいは典型的なケースが、その背景の深読みもあわせて解説されており、人事マニアの、いろいろな視点がわかる。

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著者プロフィール

軍事史研究家。1950年、神奈川県生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了(朝鮮現代史専攻)。著書に「日本軍とドイツ軍」、「レアメタルの太平洋戦争」、「日本軍の敗因」(学研パブリッシング)、「二・二六帝都兵乱」、「日本の防衛10の怪」(草思社)、「陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人」(集英社新書)。「陸軍人事」、「陸軍派閥」、「なぜ日本陸海軍は共同して戦えなかったのか」(潮書房光人社)、「帝国陸軍師団変遷史」(国書刊行会)がある。

「2020年 『知られざる兵団 帝国陸軍独立混成旅団史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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