新訂増補 方法としての行動療法

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  • 金剛出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784772414685

作品紹介・あらすじ

行動療法はその時の臨床において、該当する治療作用が期待される技法を、多くの技法の中から選択して用いて治療を行う。そして、その経過をもって初めてその技法が治療法としてのまとまりをみせるのであり、またそこで初めて、その経過が他の精神療法の経過と比較検討ができるような、行動療法というまとまりをもった精神療法になっていくのである。

山上敏子わたくしの治療法―行動療法を平易な言葉でかみ砕く。

感想・レビュー・書評

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  •  行動療法の大家が記す行動療法とは。

     元は連載記事らしいが、かなりまとまっていて読みやすい。
     理論に加え、かなりハードなケースの実践例も書かれている。
     様々な手法がある行動療法だが、その中核にあるのは系統的脱感作法で、ウォルピが行動療法の中興の祖である印象を抱いた。

     行動療法といえばこの一冊。

  • ・わたくしは日常臨床の実際という観点から、多くの理論や技法や治療法や治療プログラムをもっている行動療法を、方法の体系、すなわち、臨床手段の体系としてとらえてきました。そして、その臨床手段の体系を二つにわけて考えてきました。
    ひとつは、①対象を認識し把握する技術です。問題をどのように観察し、分析し、把握し、理解するかという、問題の認識把握技術であります。これは、その基本は対象の刺激―反応(連鎖)分析でありますが、この対象の認識把握技術は、対象となる問題の帰納的な分析技術であり、ことがらをとても動的に、また循環的にとらえることを可能にする技術で素。
    ふたつには、②変容技術です。これには、沢山の基礎技法や、応用技法や、治療法や、治療プログラムがあります。行動療法ではしばしばこの技術だけが目立つことがありますが、技法や治療法や治療プログラムをたくさんもっており、それらが提案され続けているところは、やはり行動療法が誇ってよいところであります。

    ・わたしはよくどれかひとつだけの理論枠を覚えるのであればこの理論枠にある技法を覚えるとよいと言っているのはそのような理由からである。これらの技法は、行動療法に限らず日常臨床のはしばしで、問題を把握し解決方法を考え、それをおこなうときに役に立つところが多い。課題分析、構造化、教示、強化の諸技法、プロンプト、シェービング、チェイニング、トークンエコノミーなどがある。また、刺激反応分析もこの理論枠に入れられている技法であるが、これは章を変えて、あらためて対象認識把握技術として述べる。

    ・系統的脱感作法
    不安惹起状況は、ほとんどの場合いくつかの因子をもっており、それが不安惹起力を変えているので、それを探す。簡単な例をあげて説明すると、たとえば、具体的な先端恐怖がテーマであるとき、尖った物体の形状によっても、その物体と患者の物理的な位置関係によっても、その物体が固定されているかどうかのような位置の安定度によっても、あるいは患者がどのような環境状況にいるかによっても、惹起される恐怖の程度が変わる。それらを組み合わせてハエラキーをつくる。まったくひとつの因子しかないときにはその強度でハエラキーをつくる。このようにするのは、不安に拮抗するために用いられる筋肉弛緩反応の抗不安効果は弱いので、不安惹起刺激も弱くなければ脱感作がおこないにくいからである。
    これをおこなうとき、自覚的障害単位(以下SUDとする)を用いる。これは自覚的な不安・恐怖感を点数化したものである。まったく平静であると自覚されている状態を0点、パニックと自覚されている状態を100点と仮に決めて、尺度とした点数である。そしてハエラキーの項目をこの点数で評価し、その項目を不安惹起力の弱い項目から強い項目へと順に並べたものが、実際に用いるハエラキーになる。
    5~10/100 くらいの不安の量であれば脱感作ができる。
    ウォルピは、首・顔部の筋肉弛緩ができればSUD上で十分な落ち着きが得られることが多いと主張している。わたくしも、ほとんどの場合、両腕と顔、首、肩までの筋肉弛緩訓練だけで脱感作には十分の弛緩が得られるのでそのようにしてきた。
    弛緩訓練は、訓練対象になっている筋肉群をまず十分に力を入れることで緊張させ、その筋肉の緊張感を自覚してもら、そのあと、徐々に力をとってもらい、そこで生じてくる弛緩感の変化を自覚できるよう注意を向けるように、静かなゆっくりとした落ち着いた声で支持する。この筋肉の緊張と弛緩を交互におこないながらの訓練を患者が十分な弛緩が得られるまでくりかえす。弛緩した状態はおおよそは外からわかるものである。弛緩した患者はどっしりとして、落ち着き、身動きせず、目を閉じ、ゆっくりと呼吸するようになる。また、一度十分に弛緩した患者は、そのあとの脱感作治療では、弛緩するようにという指示だけで弛緩ができることも少なくない。

    ・問題が強迫症状であるとき、エクスポージャー(不安を生じさせている刺激状況に実際orイメージで直面してその状況を体験することで、不安なくその状況を体験できるようにしていく。病歴から不安症状を取り出し、その症状の刺激反応分析を行い、強度の段階に添ってハエラキーを作る)の方法だけでは効果が得られにくい。
    どうしても不安刺激状況からの回避行動(すなわち強迫行為―運動行動だけではなくイメージや言語での回避行動もある)が生じて、エクスポージャーが実際にはおこなえずに効果が得られないのである。
    したがって効果を得るためには、この回避行動を防止する方法が必要になり、いわゆる反応妨害という考え方と実際の方法が考案されるようになった。
    曝露反応妨害法を端的に述べると、強迫症状を生じさせている状況(この状況には物理的な状況も内的な観念やイメージもあるが)に対面しながら(曝露)、そこで生じる強迫衝動や不安感や不快感をそのままにして、強迫行為をとらないようにする(反応妨害)方法である。
    …反応妨害の方法としてもっとも頻繁に用いられているのは、教示という技法である。この技法は応用行動分析の理論枠にある基礎技法のひとつである。この技法は、目的とする行動が出現しやすいように環境刺激を準備する方法である。強迫行為をしないでおくということを患者ができるように、その反応が出現しやすいように、刺激を準備することである。
    たとえば「確かめたくなってもそのままにしておきましょう」などと治療者が伝えることも環境刺激を準備することになり、臨床実際ではこの方法を用いることが多い。十分に準備された状況では多くの場合、この方法でよいのである。それで効果が無いときには、この方法に加えて、ハビットリハーサル、思考中断法、行動形成法、モデリング、セルフモニタリング、強化法、認知修正法、などのいろいろな基礎技法を用いて反応妨害を行う。

    ・自主的な服薬がそのときの治療のテーマになっているとすると、自主的な服薬に至る一連の行動のどこが難しいのかを探してそこに焦点をあてて、そこをできるように援助する。そのためには、まず服薬行動の課題分析が必要になるのである。服薬ができるためには、患者が薬の必要性を自覚していて、服薬する方がよいと考えられていて、服薬しようと思って、そして服薬時間を覚えていて、薬を手元に置いて、水を探して…、そのような多くのことができて、はじめて自分で薬を飲むということができるのである。
    服薬の援助や指導は、この課題分析をもとにして大きな一連の服薬行動の不足している部分の行動ができるように、そこに焦点をあてて、その焦点づけられた対象行動の変容にあった技法をそれぞれに用いて、そこを援助するということになる。

    ・大切なものを捨てるのではないかと不安でなにも捨てられず、使ったちり紙や楊枝やアイスクリームの空き箱や匙などまで、なにもかもため込んで動きがとれなくなっていた強迫性障害の20歳代の女性Eさんの外来治療でのシェーピングを述べてみる。
    この女性は治療の初期には、このようなため込みがおかしいことであるということを自覚できていなかったし、自分の状態を説明することも難しい状態であった。わたくしは、このような状態にあった患者にも、なにか捨てることができていることはないのだろうかと探した。同伴している困惑しきった母親がやっと気づいてくれたのは、この女性がぶどうの種を食卓の上に置いたままにして忘れていたことがあったということであった。そこで、患者に、ぶどうを食べてその種は食卓の上に置いたままにする、ということを教示してみた。数回の診察ではそれができていることをテーマにして、患者の表情がわずかに和むのを確かめながら診察をすすめた。そのあとも捨てたり手放したりする物を少しずつ増やすようにしながら、そのつど教示をおこない、できたことを話題にすることをくり返すことで治療をすすめた。最初はわたくしの教示で辛うじて捨てることができるようになっていたが、そのうち患者は自分から捨てる物を決めてきて教示を待つようになり、さらにそれも不要になり、診察時の報告だけでよくなり、間もなく自然にごみや不要なものが捨てられるようになった。

    ・研究があきらかにしたことのひとつは、モデリング(犬恐怖があるこどもたちに、恐怖がない子どもが犬と遊んでいるところを観察させる。犬との接近の距離、程度、時間をだんだんと近く、密に、長くするようにしていく。モデルの観察と同時あるいはその後に、モデルと同じようにおこなうことを含めた方法を参加モデリングと呼ぶ)では精神生理的反応には効果があるが運動反応や不安感や認知反応には少ししか効果がみられないことと、参加モデリングにするといずれの反応においても効果が増強することであった。

    ・刺激―反応分析の枠組みの基本形はつぎの三項(あるいは五項)からなっている。すなわち、問題となっている反応と、その反応の先行刺激状況と、さらに反応に随伴されて生じている結果刺激状況の三項である。そして、この三項の関数的な関係を知ることが、すなわち行動を知ることである。
    (先行刺激と反応のあいだに、その人の状態や条件=過去経験や生物学的条件など、を入れ、また、反応と結果刺激のあいだに、反応と結果の関係、を入れた枠組みを基本形とする五項の枠組みも存在する)

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