ある在日朝鮮社会科学者の散策: 「博愛の世界観」を求めて

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  • 現代企画室
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784773817027

作品紹介・あらすじ

祖国朝鮮の統一を願い、亡命した日本で主体思想を研究、第一人者になったが、金炳植事件や黄長華韓国亡命などで運命が二転三転。日・朝・韓戦後史の渦中を生きた社会科学者が、数奇な88年の旅のすべてを語る。

「社会実践は真理の尺度である。民衆はつねに正義の審判者である。歴史は栄枯盛衰の鏡である。現代朝鮮のふたつの現実も歴史の審判を免れ得ない。檀君朝鮮を止揚して金日成朝鮮の開闢を告げた北朝鮮を、後世の思想家はどう評するのだろう。人民民主主義を標榜する国家が白頭血縁の王朝国家に変貌した北朝鮮を、後世の歴史家はどう評するのだろう。……民主主義の下では被告にも抗弁する権利が与えられる。北朝鮮における主体思想研究の大まかな流れと、その流れの中で私がどう動いたかを書き留めたのは、私のささやかな抗弁権の表現である。」(本書より)

感想・レビュー・書評

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  • 在日の朝鮮人学者として「主体思想」研究の第一人者であったという元朝鮮大学校副学長による自叙伝。
    朝鮮大学校や朝鮮総連で様々な公職につき、北朝鮮でも厚遇された著者が同書の中で、
    「いつの間にか主体思想に異物が混入し、主体哲学の純潔性が踏みにじられた」
    「自主性の哲学である主体哲学のなかに、異質な『革命的首領論』が潜入し、『社会政治的生命体論』に成長し、ついに「白頭の血統論』にまで行きついた」
    「主体思想に異物を持ち込んだのは権力側である」
    といった記述があると知って手に取った。

    主体哲学研究には二つの流れがあって、黄長燁の主体科学院派と楊亨燮の社会科学院派があったこと、黄長燁が海外の国際セミナーで「主体思想はわれわれの仲間が作ったものであり、首領の神格化、絶対化とは絶対に無縁である」と語ったことにより、主体科学院派は金正日総書記に「反党思想」との判決を下され、その結果、黄長燁の亡命に繋がったことなど、北朝鮮国内における主体思想研究の流れがよく分かって興味深い。

    著者はまた、朝鮮大学校、総連の内部にいた者として当時の総連の「罪悪」についても告発している。
    「批判」と称する同僚へのリンチ、何十枚も書かされる「自己批判書」、学内の壮絶な権力闘争。極めつけは、金日成の還暦を祝うために朝鮮大学校の学生200名を北朝鮮に送ったことである。当時、日本と北朝鮮の自由往来は許可されておらず、彼らは日本に帰国することはできなかった。祖国への忠誠競争によって、多くの在日同胞までもが犠牲になったのだ。

    それだけではない。
    朝鮮半島の南側出身である著者は、日本で朝鮮総連の幹部になった。そのせいで、反共政策をとっていたかつての韓国では、家族だけでなく親戚までもが進路を断たれるなど様々な不利益をこうむり、著者も韓国に帰国することができずに何十年にもわたって「離散家族」となっていたのである。

    「自叙伝」という、普段はあまり手に取らないジャンルの書籍であったが、激動の時代を生きた一人の在日の学者の人生を通して、南北朝鮮の歴史を感じることができる、興味深い内容だった。

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著者プロフィール

1927年 韓国全羅南道和順郡に生まれる。
1955年 愛知大学修士課程を修了、研究員。
1960年 朝鮮大学校教員、学部長、副学長。
1981年 社会科学研究所創設、所長。在日朝鮮社会科学者協会会長。主体思想国際研究所理事。
1998~2004年 総合研究開発機構、客員研究員。

主な著書に、『チュチェ思想の世界観』(未来社刊、1981 年)『主体思想の理論的基礎』(未来社刊、1988年)『主体的世界観』(未来社刊、1990 年)『博愛(사랑) の世界観』(韓国시대정신、2012 年)、『ある在日朝鮮社会学者の散策』( 現代企画室、2017 年) などがある。

「2020年 『博愛の世界観 主体哲学の弁証法的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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