万引きの文化史 (ヒストリカル・スタディーズ03)

  • 太田出版
3.43
  • (4)
  • (4)
  • (10)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 144
感想 : 21
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784778313418

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 万引きとはいったいどういうことなのか…。本書では多角的な見地からの考察を重ね、その起源から実態。さらには具体的な事例を用いて『病理』としての解説や、いたちごっこの様相を示す対応策も紹介されております。

    僕もかつて、万引きをしてしまう一歩寸前の精神状態になったことがありまして、半年間水のみで暮らし、ついには幻覚が見えはじめた時にスーパーのお惣菜コーナーに行くと『これを思う存分貪り食ってみたい』などと思っていたことを読みながら思い出しました。

    実際にやっていないからこそ、こういうことも書くことができるのですが、本書は『万引き』というものを多面的な角度から考察することによって、全米の検挙者数は総人口の9%、 日本の被害額は年間4500億円以上…。世界第2位の万引き大国=日本。などの事象を浮き彫りにしておくというものでございます。

    たとえば、貧しい人間が生きるために物を盗む、というのは聞いていて理解がある程度できるのですが、これがハリウッドセレブ、ここでは有名なケースとして女優のウィノナ・ライダーのケースが裁判の過程も詳細なまでに記されており、これには心理学や犯罪分析、精神医学、犯罪学の見地からも、相当喧々諤々の理論が繰り返されたのだ、ということをこの本から知ることができました。

    本書の構成は『万引きの歴史』に始まって『実態』さらには『病理』そして『対応策』の四部構成になっております。本書によると万引きの始まりは16世紀のロンドンからだそうで、当時の社会情勢からすると、万引き犯は死刑だったのだそうで、現在、『万引きGメン』といって高齢者が万引きする様子や、某タレントが万引きでひとつの店を倒産させたことを面白おかしくバラエティ番組で言って、それが大問題になったときのことを比べると、以下にこの問題の深刻さがわかったような気がします。

    さらには万引きをする人にも迫っており、スリルを味わうために『盗む』という人や「ブースター」と呼ばれる職業的万引き犯。さらには依存症という観点からも考察がなされており、『盗む』ということがどういうことなのかを改めて突きつけられたような気がいたしました。

    最終章の『対応策』では現在に至るまで多種多様の対応策を講じながらも、万引き犯たちのいたちごっこが繰り返されているという事実や、万引きそのものを『不治の病』なのかを考察するくだり。そして、万引きした人間の羞恥心を利用して、彼らを取り調べる話はとても興味深く読めました。日本において、万引きで捕まるのは正直言ってかなり『割に合わない』犯罪だなぁというのは正直な見解です。

    万引きは『病』なのか?『スリル』なのか?それとも『文化』なのか?もちろん、犯罪であるということは言うまでもありませんが、ここまで多様な側面を持った『事象』であるということを僕ははじめて知ることになりました。最後になりますが、僕はこの本を『万引き』によって手に入れたものではないということを、この場を借りて明記させていただきたいと思います。

  • 確か最初は新聞で見かけたのだったか、タイトルを見て、万引きが文化ってどういうことよ?と思いつつ手にした本書。

    古くは紀元前からごく最近のものまで、万引きにまつわるエピソード、人々の捉え方や刑罰、盗みの病理から防止策まで、様々に取り上げられている。ということはつまり、いつの時代にも盗人というのは常に存在し、その対応に苦慮するという実態は、現在に至るまで続いているということでもある。

    ハムラビ法典では貧しい者から盗むより富める者から盗む方が罪が重かったとか、19世紀に入るまでは万引きでさえ絞首刑であったなど思いがけない事実もあったし、現代のアメリカでも人種差別的な科刑が見受けられるなど、半ば想像の範囲ともいえる事実もあった。

    ただ非常に驚いたのは、5,60年前頃、万引きは革命だとか、富の再分配だとか、必ずしも悪ではないといった運動があり、少なくない人がそれに賛同したらしいという記述。
    アメリカでは、万引きはそれほど罪深いことではないとか、ちょっとしたゲームとして受け止められることがそれほど珍しくないのかも。
    そういえば、映画でもよくゲーム感覚で万引きをしてのけるシーンがあったよな~、「ティファニーで朝食を」とか…と思いめぐらしていたら、まさにそのシーンが取り上げられていた。
    そんなふうに楽しげに万引きするシーンなどを見る度に、なんとなくしっくりこない違和感を感じていたのはこういうわけだったのだと、妙に納得。
    文化の違いとはこういうことなのか。

    万引きをやってのけるスリルを楽しんだり、それが体制への反抗を示すと思い込んだり、その気持ちもわからないではないが、どう考えてもやっぱり万引きは犯罪であるとしか言えない。
    日本でももちろん万引きは後を絶たないし、小売店では対応に苦慮しているのも事実だし、面白半分で万引きをしてしまう若者もいるだろう。だけどやっぱり、日本ではもっと強く「悪いこと」「恥ずべきこと」として認識されているような気がするのだが…どうだろう?

    意外だったのは、万引き依存症とか盗癖とかいった一種の病気としての捉え方があまり受け入れられていないらしいということ。
    万引きという反社会的行為の裏には、ある部分では、心の不安定さとか、自己肯定感不足とか、バランスを欠いた心理状態が隠されているような気がするのだけれど、必ずしもそれで説明がつくことでもないらしい。

    万引きが文化かどうかは定かではないが、少なくとも、万引きに対するとらえ方に文化の違いは関係ありそう…。

  • タイトルに釣られて読了。
    「1番最初の万引き犯はイヴである」からはじまり、心理学や歴史といった様々な観点から万引きについて探っていてそのどれもが面白くわかりやすかった。
    誘惑と人との戦いはこれからも続いていくからこそ読んで損はなかったなと感じた。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/59101

  • 窃盗癖(クレプトマニア)について知りたくて読んだ本。

    万引き犯であっても女性の方がクレプトマニアとして治療の対象になりやすい、というけれど、男性の万引き犯にクレプトマニアが少ないというだけではないのか、ちょっと判断が難しい。

  • 歴史
    社会
    犯罪

  • 本屋でこの書名を見たとき「万引きなんて軽犯罪に文化史と呼べるものがあるのか?」と思った。
    だから、本書で語られているように"学問・芸術・科学技術といった"文化の創出と発展"に深い関わる"があるとは考えもしなかった。

    何にでも見方、切り口=リテラシーがあれば興味深く読み解けるものなのだなぁ。

  • アメリカ人の著者による万引きについての本。万引きの歴史、万引きの原因分析、万引き防止策など、アメリカの実態を中心に研究している。窃盗のほとんどなかった日本の江戸時代と比べると、万引きに対するその寛容な欧米の認識違いに驚く。小さな分野の研究ではあるが、参考となった。
    「米国内万引き犯罪は百万件以上(2008年)」p11
    「店の警備で万引きが発見されるのは48回に1回」p13
    「全米小売業の2009年万引き被害は、116億9000万ドル。盗難損失補填の価格上昇は、450ドル/年・世帯」p15
    「5ドルの有機栽培トマトが1個万引きされると、その損失を取り戻すのには500ドル分のさらなる売り上げが必要になる」p15
    「豊かな消費社会が誕生したことによって窃盗とその処罰が急激に増えた」p42
    「自分を窃盗症だと、すんなり認める女性はほとんどいない。10年にわたって1日に2回万引きしている女性でも、認めたがらない」p118
    「(1960年代)裕福に見える万引き犯は貧しく見える万引き犯より拘留されることが少ない。年収7万ドルのアメリカ人による万引きは、年収2万ドル以下のアメリカ人より30%も高い」p124
    「(ハリウッド女優ウィノナ・ライダー)私は有名人だから代金を払わずに店から商品を持っていってもよかったのだ」p213
    「人が正直かどうかを確かめる方法はひとつしかない。本人に尋ねることだ。もし正直だと答えたら、その人は正直ではない」p254
    「複雑に考えないでください。泥棒は、自己中心的な欲望に従ってほしい物を盗みます。他者のことを考える感覚が培われていないのです」p275
    「日用品を店から盗むのは恥ずかしい行為だと考えられている。それなのに、いまだになくならずに残っているのが万引きである。それは誰もが口を閉ざすことで増殖する静かな伝染病である」p299
    「日本の万引きによる被害額は、4500億円以上(2011年)。書店の被害額が多い」p309

  • とても興味深かった。
    万引きの歴史、万引きは病か、万引きにふさわしい罰はどの程度か、罰は抑止力になるのか、などなど。
    実例、専門家の意見、更に万引き経験者本人達の言葉も多く、色々な方向から考えられる。
    しかし、そうか、万引きの処罰にもまた性差別、人種差別、貧富の差が関わって来るんだなぁ…。

  • 【選書者コメント】最も身近な犯罪である万引きを、その歴史からひも解いていて興味深い。
    [請求記号]3680:439

全21件中 1 - 10件を表示

黒川由美の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×