- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784779503191
感想・レビュー・書評
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年をとっていくと,何かと若い人との比較から,能力の低下が強調され,不安に苛まれるという人が多いそうですが,「そんなに不安を募らせる必要はないですよ」ということを心理学の研究から提示していくという目的であろう本。さすがに「不安を煽る」本は書かないでしょうね。画期的な箇所は特に見られません。
第1章は記憶の話ですが,矛盾点があります。p.5に「長期記憶の期間の長さには際限がないことやその容量にも限りはないとされています」とあり,p.14で忘却の意義として「次々と不要と考える情報は廃棄していかないと,容量に限界があると考えられる記憶機能に負担がかかりすぎるからです」と。容量は有限か無限か。説明が場当たり的だと言われても仕方がない。標準的な心理学がそういう局所的なアプローチしか持っていないことを示す例です。
高齢になると若い時期でのように輝かしい,誇らしい事象は減少するのが一般的であり,したがって高齢者になると都合の悪いことは記憶から消し去り自慢話が増えることになるのです。これは忘却による適応機制に他なりません。忘れることがあるために中高年の時期をポジティブに生きていくことができるのです。(p.15, マユツバ)
「休耕田モデル」はモデルというよりも,電気回路を水流に譬えるようなメタファあるいはアナロジに過ぎません。前頭葉機能だけでなく,「筋力低下は足から起こるといわれるのは,日常生活で上肢は使う機会が減少しないためです」(p.83)とあるように,身体についても「休耕田」は成立します。つまり,使わないと使えなくなるよという以上のことは全然言っていないわけです。使わない間にどうなるのかは,田んぼと脳では全く異なるはずで,その点については「休耕田モデル」は何も答えてくれません。単なるメタファをモデルという科学的センスのなさは心理学ではよく見られることです。
本来なら廃棄なんですが,著者謹だからどうも…。いや,廃棄。詳細をみるコメント0件をすべて表示