マイナーなればこそ

  • 思文閣出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784784216239

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  • 「敗者には敗者として生きる道が備えられています(略)。勝者なら目を向けない事業、やろうとしないプロジェクト、そういったものにちゃんと目を向け、あえてそれを救い上げ、取り組む、それが敗者の存在理由になりえます」―これが、本書に通底したメッセージである。

    戊辰戦争の勝ち組である維新の志士や元勲たちが試みた改革は、政治的、制度的改良といった外面的、社会的な改良(皮相の開花)であった。しかし、一国の近代化には、国民の精神や魂を変革するという内面的な改革(心中の開花)が必要である。これを新島は「第二の維新」と呼び、これを佐幕派として敗者(マイナー)となった、高梁藩、安中藩、熊本藩から多く輩出されたプロテスタントが精神的な近代化を目指したのである。

    精神的な近代化は、あまり目立たないが、制度的・社会的な改革の成功は、精神面での近代化の成否に掛かっていることは、論を待たないだろう。これは、「勝ち組」「負け組」の結果が明らかな現代の諸改革においても重要な示唆である。

    この点、同志社英学校の創設者山本覚馬(会津藩、負け組)が、制度的な改革と精神的な改革の両方を必要性をも説いていたことは、卓見としか言いようがない。維新後の京都の発展は、そのひとつとしての同志社の創設は、山本覚馬に負うところが極めて大きいと改めて実感する。

    本書では、日本人が最も好きな歴史上の人物の一人、坂本龍馬と新島襄の間接的な関係を紹介している。日本人の坂本龍馬に対する評価は、少し冷静な目が必要だと常に思う。本書においても「坂本龍馬は偉く見えるが、その思想は横井小楠と勝海舟の受け売り」(磯田道史)という見方も紹介され、「船中八策」は小楠の「国是7条」に酷似しているうえ、「日本を今一度洗濯いたしたく申し候」も「天下一統 人心洗濯 願うところなり」という小楠の口癖とは無縁でなさそうだ。新島襄も、「魂の終局に達するには、日々の洗濯を要す。修行を要す」という言葉を残している。
    とはいうものの、坂本龍馬の甥、沢辺琢磨は新島の脱国を助けたうえ、新島が家庭教師をしたニコライの感化を受け、ギリシャ正教日本人司祭になったことは、驚くべき繋がりであことには違いがない。

    本書には、「負け組の生き方」という大きなテーマが通底にあるが、新島襄の幅広い交遊から幕末志士の豆知識に触れることができ、歴史の表舞台から裏舞台まで楽しめる魅力が詰まっている楽しさも見逃せない。

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