図書館のこれまでとこれから: 経験的図書館史と図書館サービス論

著者 :
  • 青弓社
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784787200655

作品紹介・あらすじ

人類の知的な創造物を収集して提供する図書館の改革を提言し続けてきた著者が、戦後の図書館の歴史を振り返り、これからの図書館サービスの理念を大胆に提起する。

大学図書館や専門図書館など、多種多様な図書館のなかでもとりわけて公共図書館は、地域住民のために本と知識・情報を収集し提供して、地域住民の仕事や生活の質を向上させ、地域社会をより創造的な社会にしていくための施設である。言い換えれば、図書館の目的は、利用者である地域住民がさまざまな願いや計画を実現するためにそうした活動をうながし、支援すること、また創造的な地域社会の実現に寄与することだ。

そのためには、調べることに関するサービスを充実させ、なによりも図書館員一人ひとりが、レファレンスの専門職として知識と技能を高めていく必要がある――この基盤になるあり方を自身の経験も織り交ぜて詳しく提言する。

21世紀の図書館がさらに進化するための提言集。

感想・レビュー・書評

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  • 図書館のこれまで(歴史)の話、
    後半は、これからの図書館(レファレンス、司書としての在り方、利用者の立場になってみる、地域の課題解決支援サービス、子どもと図書館、教育と図書館など)について。アイデア豊富で説得力があり、「出来るよ!変われるよ!図書館は人にとって必要な存在である。だってこんな風に利用できるんだから!」という大串さんの熱意が伝わるし、とても具体的で読んでいて楽しい。
    司書としての心得の基本を学びつつ、大串さんの熱意とアイデアのシャワーも浴びに、何度も読みなおそう。
    ・大串さんの本が何冊か読んだが、この本ではラストに少し大串さん自身のエピソードも書かれていておもしろい。図書館についていい思い出がなかった子供時代。クラスになじめなくて図書館でぼんやりしていた。読書感想文が苦手だった・・など。親近感!

    メモ:
    ・図書館と教育関係者との貸出記録をめぐる論争があった(1970年代)。その一つが貸出記録をめぐるもので、図書館側は、読書記録は個人の思想。信条、人権、プライバシーに関わるものなので、返却されたらすぐに消去すべきだと主張した。これに対し、社会教育関係者側は、「教育の指導のためには貸出記録は残して当たり前」と主張。1989年に国連で「子どもの権利条約」が採択されたことによって図書館側の利権が正しいとされる。p.26

    レファレンス
    ・貸出サービスがレファレンスサービスへと結びつく、その流れに沿ってレファレンスを活性化させていく、こうした道筋が示さなくてはならない。ー本と人との目に見えない関係を見えるようにすることが出来るのは、現場の図書館員だけだ。
    -大串さんは、利用者の要求を把握して、それに向けて働きかけるレファレンスに力を入れた。資料室の案内に行政課題を取り上げて、問題の所在と資料の紹介、調べ方、利用・活用方法などをのせて配布。これは大きな反響を呼んで、資料室の利用が飛躍的に伸び、貸し出し冊冊数も何倍かに増加。質問や相談も増え、レファレンスが活性化した。p.83-85

    レファレンスサービスは「図書館で調べてみたけれど、わからないのことがあったので図書館員に聞いてみようか」と思った時にニーズが発生する。重要なのは、聞いてみようと思った時に、「図書館で聞いてみよう」と頭に浮かぶかどうか。そのために、図書館はいつでも質問・回答サービスをしています、と住民にアピールしておかなければならない。 p.149
    ・図書館員は、自分で資料を読みながら、辞書・事典などを調べて、利用者からの質問もすぐに答えられるようにする、という読み方をする必要がある。図書館員には、専門職としての本の読み方がある。p.155


    ・「司書の専門性は、社会の発展、住民の力量の高まりとのダイナミックな関係の中で、自らがその職務内容の質を高める努力をし司ていくことに存在意義がある。こうしたダイナミズムが失われた時、専門職は社会的な役割を失う。」「図書館司書は専門職集団として、自らの専門性の向上に日常的に取り組む必要がある。また、社会の変化にも敏感になるべきだ。」p.40-41

    ・「図書館がもっている本や情報を利用者に活用してもらうには、ただ本を本棚に並べる、コンピュータ端末を置いておく、館の入り口にテーマ展示をする、質問してくれるのを待っているという、いわば「待ち」の姿勢ではダメ。建築家のワーマンは『情報選択の時代』という本で、「社会のなかの特定の情報をもっている人々をグループとして想定して、そうした人々が効率よく、かつ的確に情報に到達できる道筋を示すこと、そしてその情報の流通を社会的に整備する必要がある」と述べている。
    情報化社会では、地域のなかで特定の情報欲求をもっている人を図書館が想定して、積極的に働きかけることで利用者を増やすことができ、またそうすることによって、情報を見つけるための場所として利用者に図書館を選んでもらうことができる。 p.72

    ●来館しない人たちに対して、地域内の団体や組織への日常的な働きかけが望まれる。
    ・新着図書の紹介―地域内の団体や組織には、経済団体や医療機関、焦点、行政組織、福祉関係組織、スポーツ団体など、さまざまな相手が考えられる。新着図書の中からそれぞれの組織や団体に関係する本を選んで、内容を簡単に紹介する。そのリストのあとに、図書館に対するリクエストを寄せてもらうような依頼分を入れ、さらに図書館ではさまざまな質問にも応えていて、何かあれば聞いてほしい旨と、電話やインターネットのアドレスを入れておく。
    ・行政組織の場合は、福祉や産業、教育など、それぞれの分野の本を紹介するようにする。リクエストしてくれるように頼んだり、相手側が発行した資料があればもらったり紹介してもらうと、行政組織との顔つなぎになる。(できれば1年に1度は館長が訪ねて回るようにしたい)。そうした団体・組織のなかで図書館に関心がある人に集まってもらうような機会を設けて、図書館に対する意見や要望を寄せてもらう、あるいは本を紹介してもらうこともできるだろう。紹介してもらった本をリストにして配布するのもいい。
    ●来館者に対しては新刊図書の紹介やテーマ別の展示などがあるが、さらにオンラインデータベースの使い方、電子書籍の紹介、インターネット情報源検索方法など、コンピュータで利用できるツールや資料についての情報も必要。「目にみえない、手にとれない」ツールや情報源へのたどり着き方の案内が必要。 P.176,177

    ・図書館の基本的な機能は、人間が生み出してきた知的な生産物である本(書物)を収集・整理・保存して、次の世代に伝えると同時に、その活用を通して地域社会の創造的な発展に寄与・貢献するものである。
    『市民の図書館』は技術的・マニュアル的な内容で、これを進める日本図書館協会は、本格的な図書館の在り方をその延長線上にしめさなくてはならなかったといえる(2004年に「公立図書館の任務と目標」が示されたが、『市民の図書館』発行から30年以上たっている・・。p.89

    ●図書館での講座
    図書館で体系的な講座を開催する前に、図書館になんとなく来館した利用者が、調べることも図書館のサービスだと自然とわかるような空間を構成したり、書架図などの案内を通して「調べる」行為へ誘う仕掛けがなくてはならない。そして利用者自身が、自然に図書館で調べられるようにすることが、最終的な目的になる。それこそが図書館での創造的な行為にも結びついていく。その際、一人で調べる、創造するだけでなく、みんなで調べて、創造する空間になることが期待されている。P.180

    ●レファレンス
    ・p.197 図書館員は、基礎の基礎として「図書館員が選んだレファレンスツール2015」にあるような参考図書ベスト10,データベースベスト10を身につけよう。
    ・例題を作る際には、過去の事例を参考にして考えて検索するとよい。国会図書館の「レファレンス協同データベース」の事例も参考になる。10位ぐらいのレファレンスツールを一通り使って学んだら、次に20位くらいのものまで広げてみる。それらをすべて学べば、どんな質問にも対応できる。ただし、レファレンスで聞かれることには多岐にわたるため回答できないこともある。出来る範囲で、確実に回答出来る様にしていき、順次その範囲を広げていくとよい。
    ・国立国会図書館のレファレンス協同データベースに参加しよう。公開したくない事例や公開できない事例は、未公開のデータベースにいれておけばよい。
    ・特定の地域に関する質問では、その地域にある図書館の回答事例が参考になる。ぜひその地域のレファレンスをデータベースに入れて他館に役立てて。
    ・レファレンスツールの使い方(例えば辞書の探し方)は、五十音順で索引で調べたとか、文字の画数で調べたなど書いておくと、利用者が調べようとした時の優れた参考事例になる。

  • 1973年から20年間図書館で勤務し、その後図書館情報学研究者になった著者の目から見た、図書館の歴史(第1部)と、図書館特にレファレンスはいかにあるべきか論(第2部)。まとまった論考というより、いろいろな話題をざっと概観する感じ。
    自分には特に前半が面白かった。歴史としては断片的情報だが、当事者でありながら異なる視点も得た人の証言。60年代の障害者サービスで国立国会図書館が先進的な取り組みをしていた、80年代頃に図書館利用者に女子どもが多くなったことへの批判があった等、知らなかった事柄も。
    第5章、『市民の図書館』が行財政の技術的な知識をもカバーした手引きであったために、時代の変わった現在において代替となるビジョンを示すことが困難だという指摘(p88)、なるほどと思う。
    第6章「新しい図書館のあり方」で示される、2000年以後の図書館の動き。ビジネス支援、01年「望ましい基準」、鳥取県立図書館の図書館構想など。歴史とは呼べないまでも、少なくともすでに振り返り検証する対象になりつつある。

  • 著者自身の経験を基にしつつ、図書館のこれまでの歴史や今後力を入れるべきレファレンスについて語られる。内容は初歩から。レファレンスの案内を考えるとき参考になりそう。ALAの「暮らしは図書館で豊かになるー図書館権利宣言」をはじめて見た。

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著者プロフィール

1948年、東京都生まれ。早稲田大学文学部卒業後、東京都立中央図書館勤務、特別区協議会調査部、東京都企画審議室調査部をへて、昭和女子大学へ。現在、昭和女子大学名誉教授。著書に『レファレンスと図書館』(皓星社)、『図書館のこれまでとこれから』『挑戦する図書館』『調べるって楽しい!』『これからの図書館・増補版』『図書館の可能性』『文科系学生の情報術』『世界文学をDVD映画で楽しもう!』『DVD映画で楽しむ世界史』(いずれも青弓社)、共著に『図書館概論』(学文社)、『触発する図書館』(青弓社)、編著に『読書と図書館』(青弓社)など。

「2021年 『まちづくりと図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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