グローバル化とイスラム―エジプトの「俗人」説教師たち― (世界思想ゼミナール)

著者 :
  • 世界思想社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784790715443

作品紹介・あらすじ

爆発的な衛星放送の普及、インターネットの広がりは、イスラムをどう変えたか。エジプトを舞台に、普通のムスリムがグローバル化の波にどう対応してきたかをいきいきと伝える。

感想・レビュー・書評

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  • 【変化と抗変化と】イスラムにグローバル化がどのような影響を与えたのかを、イスラムを取り巻く言説空間とエジプトの「俗人」説教師の活躍を通して考える作品。イスラムをめぐる近年の変化の一端が感じ取れる一冊です。著者は、東京外国語大学大学院で教鞭を取られている八木久美子。


    大文字ではなく、個人レベルでの変化を眺めた小文字のイスラムを知るために非常に参考になります。著者がたどり着いた「俗人」という表現も言い得て妙だなと感じました。また、イスラムに関する言説空間とエジプトの社会の関係についての見識を深めることができるたも本書の魅力の一つです。

    〜いったい誰の声に耳を澄ませば、これからの、そして今のイスラムがわかるのだろうか。これは最初に立てた問いである。……肝心なのは、一点を見るのでもなければ一瞬を切りとるのでもなく、今、イスラムの周辺にどのような力学が働いているか、動きを見ることである〜

    イスラムに関心のある方にぜひ☆5つ

  • [ 内容 ]
    爆発的な衛星放送の普及、インターネットの広がりは、イスラムをどう変えたか。
    エジプトを舞台に、普通のムスリムがグローバル化の波にどう対応してきたかをいきいきと伝える。

    [ 目次 ]
    第1章 近代化からグローバル化へ―イスラムの世界性とグローバル化
    第2章 ウラマーと呼ばれる人々―伝統的「知識人」の経験した近代化過程
    第3章 「俗人」が語り始める―一般信徒の見せる独自の動き
    第4章 教育のなかのイスラム―学校ではイスラムはいかに教えられるか
    第5章 新しい説教師の活躍―上昇する中間層とそのイスラム志向
    第6章 グローバル・メディアとイスラム―新しいメディアの生む可能性

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ブログ「数えられなかった羊」の記事を読み購入。http://arabic.kharuuf.net/archives/1351

  • 昨年の1月25日革命以来、さまざまなニュースが飛び交ったエジプト情勢だが、その背景なり実相なりの解読に役立つかと思い手にしたのだが、豈図らんや‥。
    ウラマーにせよ、俗人説教師たちの登場にせよ、著者の着実な語り口は相応に評価されるべきものではあろうが、此方の期待したものに、些かズレが‥。

  • (2011.11.28読了)(2011.11.10借入)
    【アラブの春・その⑦】
    副題が『エジプト「俗人」説教師たち』となっています。
    ちゃんとした資格を持ったウラマーと呼ばれる説教師たちは、正統性を示すため、厳密な解釈を行い一般の人には通じにくい用語、言葉を話すので、一般の人にはわかりにくい。
    そこで、一般の人にわかりやすく、且つビジネスや西欧文化との橋渡しもしてくれる「俗人」説教師と呼ばれる人々の活躍の場が生じているという。
    ムスリムの専門的な解釈を必要とする部分に関しては、専門家に任せ、それ以外の部分では、一般の人にわかりやすい言葉で、相談に乗ってあげる。
    ムスリムではあっても、イスラム教の教えに基づいて、生活のすべてをがんじがらめにされてしまうことを望まない人たちも多数存在する。それは、現代においては、どこの社会でも同じような現象といえるのではないでしょうか。
    インターネットや衛星テレビの登場も、イスラム社会の変容に力を貸しているようです。特にコーランやハディースがデータベース化されたことにより専門家しか事例をあれこれ挙げることができなかったのに、誰でも即座に検索できるようになった。
    解釈事例についても、データベースに蓄積され、だれでも参照できるようになった。
    かつては、人々の個別の相談に個別に答えていたものが、誰でも、検索参照できるようになったのです。
    「俗人」説教師という切り口で、見事にエジプト社会の様子を教えてくれる本です。個人で買うにはちょっと高いので、図書館でご利用ください。

    章立ては以下の通りです。
    第1章、近代化からグローバル化へ―イスラムの世界性とグローバル化
    第2章、ウラマーと呼ばれる人々―伝統的「知識人」の経験した近代化過程
    第3章、「俗人」が語り始める―一般信徒の見せる独自の動き
    第4章、教育の中のイスラム―学校ではイスラムをいかに教えられるか
    第5章、新しい説教師の活躍―上昇する中間層とそのイスラム志向
    第6章、グローバル・メディアとイスラム―新しいメディアの生む可能性

    ●イスラム教(2頁)
    イスラムは何を信じるかだけではなく、何をなすかを、そしていかになすかを問う宗教だ。実践というのは、毎日五回礼拝を行うとか、ラマダーン月に断食を行うというようなことだけを言っているのではない。さらには困っている人に手を差し伸べ、助け合うというような道徳的な行いだけを指すのでもない。そうしたことはもちろんのこととして、イスラムでは何を着るか、何を食べるかというような、日常の一つ一つの振る舞いまでを射程に入れるのだ。
    ●客人を大切に(12頁)
    あなたと出会えてうれしいという気持ちを相手に伝えることにかけて、エジプトの人々は天才だ。カイロの下町を歩いていて道に迷ったら、ただ困った顔をしていればいい。片言の英語で誰か必ず話しかけてきて、道を教えてくれるどころか目的地まで連れて行ってくれる。
    ●ウラマーへの期待(61頁)
    長い歴史の中で積み上げられてきたコーランやハディースに関する知識を保持し、さらにそうしたイスラム的な知の守護者として政治権力と向き合い、社会全体のイスラム性を確保することができるのは、まさに「公的」、「制度的」イスラムの担い手だけとされる。
    ●ウラマーの論理(67頁)
    コーランの解釈の正しさを保証するのは、解釈の作業においてしかるべきプロセスを踏むことである。神の言葉であるコーランがすべての人に向けられたものであることは確かであるが、それを正しく解釈するには、そのために必要な訓練を受けたものが、しかるべき手続きを踏むことが必要だという考え方である。
    ●俗人の論理(67頁)
    彼らの発想の根底にあるのは、聖典は誰にも開かれたものであるはずだという強い信念である。神は一人ひとりの人間に語りかけているはずだと。要するに権威はコーランというテキスト自体にあるのであり、解釈する人間の側にあるのではないということであろう。
    ●エジプト憲法第二条(94頁)
    「イスラムが国教であり、アラビア語が公用語であり、イスラムのシャリーアの諸原則が立法の主要な法源である」
    ●歌とリズム(108頁)
    タリバンの支配下にあったアフガニスタンで音楽が禁じられたという記憶はいまだに新しい。実際、イスラム法において音楽の位置付けはいつも微妙であった。
    エジプトにおける宗教教育では、歌や音楽はイスラムの規範上問題ないというのである。
    ●親の願い(114頁)
    我が子にはムスリムとして筋の通った生き方をできるよう充分な宗教教育を受けさせたいと願いつつ、それと同時にこれからの時代、外国語に親しみコンピューターの扱いにも習熟することで、社会的な成功の鍵を手にしてほしいと願う親たちが多いということだ。
    ●女性の社会進出(165頁)
    アズハル大学は1961年以来女性にも門戸を開いており、実際にアズハルで学位を取った女性が教壇に立つこともすでに珍しくはない。またアズハル以外にも、現在ではさまざまな教育機関がイスラムについて学ぶ機会を女性にも提供している。その結果、ウラマーとは呼ばれないにしても、以前と比べれば普通に女性がイスラムの専門家と認められるようになっているのは確かだ。
    ●女性の説教師、マグダ・アーメル(167頁)
    イスラム法に関する正確な知識を女性が持つことで女性が自分の正当な権利を守ることができるよう、手助けすることを心がけているとも言う。

    ☆関連図書(既読)
    「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「革命と独裁のアラブ」佐々木良昭著、ダイヤモンド社、2011.07.14
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「レバノン混迷のモザイク国家」安武塔馬著、長崎出版、2011.07.20
    「アラブ革命の衝撃」臼杵陽著、青土社、2011.09.09
    (2011年12月4日・記)

  • 非常に明解。
    中東といっても、一国ごとに、しいては地域ごとに異なっているため「イスラム」というものを一様に理解していくことは困難である。しかし、エジプト、敷いてはエジプトの中間層・若者というターゲットを定めて論ずることでイスラム教というものが見えてくる。
    重要なのは、オイルマネーで潤い変容してきたイスラム国家ではない、エジプトという国に焦点を当てたことである。
    イスラムというものを理解する切り口に適する本であると思う。

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著者プロフィール

東京外国語大学教授。
著書『イスラム教徒へのまなざし』『人種主義の実態と差別撤廃に向けた取り組み』(現代人文社)、『イスラム服の訴えるもの』『地球村の行方』(新評論)、『二つの死に挟まれた死』『現代宗教』(東京堂出版)。

「2006年 『マフフーズ・文学・イスラム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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