5分後に起こる恐怖 世にも奇妙なストーリー 影彷徨う町

  • 西東社
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本棚登録 : 36
感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791627493

感想・レビュー・書評

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  • YAコーナーに置いてあったので、ちょっとした隙間に読もうと思って手に取ってみたが、これが予想以上に読みごたえがあって、けっこう怖かった。てっきり怪談レストラン系の軽いものだとばかり思っていた……(苦笑)。話もよかったが、いきなり出てくる挿絵に一番びくっとしたかもしれない(笑)。

  • 町を徘徊する黒い影。それは貴方が見つけてくれるのをずっと待っている。ずっと、ずっと。でも、もし見えたとしても、気づかないふりをしなくてはいけない。そうしなければ、貴方は後悔することになる。

    ***

    世にも奇妙なストーリー。このシリーズも早くも第四弾。回を追うごとに怖さの濃度が上がっている印象。今回も容赦なく怖い。帯に前の巻の感想が一言ずつ載っており、感想を述べた人物の学年が乗っているのだが、小学5年生から高校生までと幅広い年齢層が愛読している。
    大人が読んでも十分楽しめる内容なので、この人気は非常に納得。怖い話もあり、感動的な話もありでいろいろ粒ぞろいだった。 お気に入りの話は「天井裏の足音」「町にひそむモノたち」「草笛亜沙美はなぜ幽霊になったのか」。

    「天井裏の足音」
    祖父が住んでいる古い日本家屋を舞台にした恐怖体験。祖父の家には曰くのある古い井戸がある。それはその昔、この家に勤めていた使用人が盗み食いを働き、怒った主人が井戸に逆さづりにして責め殺してしまったという話だ。小学生の頃はその話が怖くて怖くてたまらなかった語り手だが、中学生になると流石にその怖さは薄れてくる。代わりに、トイレまでの道筋にある渡り廊下の天井裏から人間が歩き回るような足音がすることに気が付いた。はじめは気のせいだとも思ったし、祖父に掛け合っても相手をしてくれないため気にしないようにしたのだが、ある日出来心で足音に向かって話しかけてしまう。それからというもの足音は存在感を増してしまった。正体が知れぬままというのはどうにも怖くなってしまった語り手は、天井裏にスマホを仕掛けて動画を撮影することにした。何とも知れぬものが屋根裏を足を音を立てて歩き回っている。しかも、平屋の日本家屋なので天井裏は非常に狭く誰かが入り込み、歩き回れる余地はない。最初は静かに歩いているだけの足音だったが、認知されていることに気づき、語り手に駆け寄るように足音が激しくなる。足音はどうやら渡り廊下しか歩き回れないようだが、あの明らかに走り寄ってきた音を聞いた後では、そんなことは気休めにしかならない。正体を知るため、決死の覚悟でカメラを仕掛け真相を探る語り手だが、読んでいる途中でなんとなく、その足音を立てている者の正体がわかってしまった。(当たってないほうが嬉しかった)真相を知った後、知らなければよかったと激しく後悔。でも、初めから答えは示されていたのだ。この家に出る幽霊らしい幽霊は一体しかいなかった。そして、その幽霊がどんな状態で死んだかを考えれば分かることだったのだが、足音がそこから響いていると思い込まされていたので、とても驚いた。この話は挿絵があったのだが、その挿絵がまた怖かった……。

    「町にひそむモノたち」
    大学生の友人が、実家に帰るといったっきり帰ってこない。心配した語り手とその友人は帰省した友人の実家がある町まで行ってみることに。その町はなかなか寂れた田舎だった。駅前には人がおらず、タクシーもない。駅の近くにあるといわれていた宿ですら、四キロ離れているというありさまだ。仕方なく歩いて宿を目指しつつ、友人の家を探すことに。しかし、初めての土地で右も左もわからない。町人に道を聞こうと、近くにいた老婆に話しかけようとするが、その老婆は普通では考えられないような、異形のものとあらわすにふさわしい風貌だった。関わり合いになりたくないと、語り手はその老婆を無視ようとしたのだが、何と友人は臆することなく話しかけてしまう。ぎょっとする語り手を尻目に、その老婆と話を始める友人。自分が見えるのかと老婆がたずねると、友人はためらうことなく見えると答えてしまった。この話がこの本の中で一番好みで、一番怖かった。絶望の度合いもぶっちぎり。友人の住む町に徘徊する異形のもの。目を黒い布で隠し、口を糸でジグザグに縫ってしゃべれなくしている。その風貌だけでかなりパンチがきいている。脳裏にその姿を思い描いただけで嫌悪感と恐怖に襲われる。そんな老婆によく話しかけられたよな、友人は。この時点で何かもうおかしかったのか?目隠しはともかくとして、口を縫われている時点で人間では何となく察せられるのに、それが「見えるか?」と聞いてきて「見える」と答えるのはご法度だろう。その後も、町を歩いていると異形のものがうろうろしておりどう考えてもまともな町じゃない。その後、友人の家に行き、(その友人の家で起った出来事も恐怖)電車を待っている間に立ち寄った町の資料館で、あの異形のものの成り立ちを知ってしまう語り手と友人。やっぱりご法度だったじゃないか……。それにしても、あの異形ものがどうやってできているかは分かったのだが、どこからやってきたものなのだろう。ある種の呪いの様に増えていく方法は資料に書いてあったので、よくわかったのだけれど。この異形のものの一番最初は何だったのか、これだけでもう一本小説が書けそう。しかし、こんなものがあちこちにいるのは嫌だなぁ。語り手の町には別の格好をした同じようなものがいるようなので、色々なバリエーションがあるのかもしれない。行く先々にもしこんなものがいるのだとしたら、もうどこにも行けない……。

    「草笛亜沙美はなぜ幽霊になったのか?」
    最初の雰囲気と最後の雰囲気が正反対で面食らった。住職をしている祖父をもつ大学生の語り手。祖父と同じく昔から幽霊が見える質の語り手は、時々除霊を手伝うようになっていた。そんなある日、突如祖父が「草笛亜沙美」という女性の除霊を任せてくる。除霊、といってもその幽霊が何故幽霊になったのかを解明し、幽霊に聞かせ説得して除霊するという穏便な方法をとっているので、そんなに大仰な事ではない。しかも、10万円というなかなかの報酬に二つ返事で了承した語り手だが、すぐに後悔した。何故かどれだけ調べても彼女の情報が出てこないのだ。自分がなぜ死んだのか全く分かっていない彼女の死因は、おそらく事故や事件に巻き込まれた突発的なものだと睨んだ語り手はいろいろなものを駆使して、彼女が死んだ理由を探るのだが、すべて空振りに終わる。そんな時、姉から彼女の正体を知る核心的な情報を得ることができたのだった。彼女の正体が知れるまでは、なんとなく明るい面白い雰囲気だったこの作品。しかし、彼女の正体が分かった次のシーンからがらりと雰囲気が変わった。正直、正体が分かった時、このままいい感じで感動的に終わるんだろうなぁ、と安直に考えていたのだが、そっち方向に転がるとは思わなかった。なぜ彼女が幽霊になったのかは納得できた。その理由が個人的な欲望に塗れていたとしても、よくわかった。しかし、祖父のその動機はどういう訳だ。なんでそんな回りくどいことをしたのだろう。語り手は跡継ぎになりたがってはいなかったが、それにしても強引すぎるし、結局は実にならなかった。祖父の目的がそこにあるなら、もしやこの草笛亜沙美の幽霊自体も仕組まれた事なのでは?と邪推してしまった。でもそうじゃないと、その後語り手の姉に起ころうとしている悲劇もあまりに都合が良すぎる……。

    今回の本は、人間の心の醜さや欲望を現した作品が多かった。幽霊になってもなおその心を持ち、他者を陥れようとするのだからつくづく人間とは恐ろしい。

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著者プロフィール

黒 史郎 (くろ・しろう)

小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」シリーズ、「異界怪談」シリーズ『暗渠』『底無』『暗狩』『生闇』『闇憑』、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』『実話怪談 黒異譚』『川崎怪談』ほか。共著に「FKB饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』『黄泉つなぎ百物語』『ひどい民話を語る会』など。

「2023年 『横浜怪談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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