ユリイカ 2021年10月臨時増刊号 総特集◎須永朝彦 ―1946-2021―
- 青土社 (2021年9月8日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791704064
感想・レビュー・書評
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2021年5月に死去した須永朝彦の追悼企画。アカンサスの繁茂する遺影の額縁か墓碑らしい表紙が印象的。開けば楽園とヘリオガバルスの薔薇が広がる。コテコテでも後者は故人も喜びそうだけど、前者もそうだろうか。
様々な寄稿者が様々に評する故人とその作品群。詩歌、短歌、小説、古典、文学史と様々に活動していた故人なだけに、寄稿者もその言及も多岐に渡って充実している。
何かと難しい人であったようで、中には、亡くなった今になっての取材だから述べておく、といった空気もわりとある。塚本青史「魚竜に添う海豚」なんかは特に赤裸々に手厳しい。実質的な出発点たる短歌については高橋睦郎や結崎剛が褒めながらも特に手厳しい。黒瀬珂瀾の分析の鋭さも痛いほど。内心戦きつつ、掲載されている歌にまた目を通せば素人として特に覚える感慨もなく。自身でこれだと思えないものを出す時の態度がまたちょっとずるくないだろうか。いや又聞きだけど(それはそれとして、「片時の夢――舞台を詠む」で『京鹿子娘道成寺』とそれに寄せた歌が頁を跨いでいるのは気が利いてないと思う)。ならば小説と思えば、異国を舞台にしたものは「ボロが出るでしょ」が頭をよぎるから難しい。幻が安い。好きなんだけどな。
批評、編集を通しての美の伝道者といったイメージが一番しっくりくるのかもしれない。その手の活動に関する寄稿が、故人のニュートラルな像に最も近いような気がしている。『美少年日本史』はいつか読んでみたい。このあいだのアニメ『平家物語』で敦盛最期が描かれていて、ああこれは、と感嘆を新たにした。著者がこれをどのように紹介しているのか気になる。