現代思想 2018年12月号 特集=図書館の未来

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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791713745

感想・レビュー・書評

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    誰もが有する「知る権利」と結びつけ て、「図書館とは何か」という原則的な定義 を学ぶ機会が幼い頃から設けられるべきだと 思います。 学校教育のなかで情報リテラシーを学 ぶように、その一環として図書館リテラシー を学ぶことも大切ではないでしょうか。

    「図書館はベストセラーがタダで読め る場所」という誤解があります。そうした一 面も確かにあるかもしれませんが、実際には 児童サービスやレファレンスサービスなど、 その活動は多岐にわたり、専門性も高いです。 なぜ、そういう誤解が生まれるのか考えると、 学校教育の場で、基礎的なリサーチの方法や、 批判的に資料を読む方法をあまり熱心に教え てこなかったことと、無関係ではない気がし ます。私の学生時代は、読書感想文で小説を 読まされ、「このときの作者の気持ちは?」 と問われて困りました。

    受験問題は、書かれている事柄から読 み取る思考能力が問われているだけで、他人 の考えを踏まえて自分自身の意見を生み出す ような力は培うことはできないと思います。図書館における、レクリエーションと しての読書を否定するつもりはまったくあり ません。私も小説や物語が大好きで、図書館 でたくさん読んできました。ただ、それだけ でなく、知の集積である図書館のポテンシャ ルを活かし、物事を批判的に見る思考力を養 う支援があってもよいと思います。そうやっ て、図書館が市民を育て、育った市民が今度 は図書館づくりに携わる。そんな循環ができ るといいなと思います。二年前、アメリカ横断の旅でボストン を訪れた際、アメリカ全土の図書館で開催し ているサマーリーディング・プログラムの看 板をいたるところで発見しました。旅の途中 『未来をつくる図書館ニューヨークから の報告』の著者である菅谷明子さんとお話し たときに、日本の図書館は読書推進を謳って いるが「読書の仕方」を教えていないという 話題になりました。単に読書数を増やそうと するのではなく、基礎的な読書の仕方を教え、を学ばせてあげるべきだという結論に達しま 質の高い読書経験を積み重ねていくステップ した。確かにアメリカではサマーリーディン グ・プログラムなど、図書館が「読む力」「考 える力」を伝えるプログラムを提供していま 慣れていると感じました。 アメリカの若者のほうが本を読むことに 旅の最後にニューヨークを訪れたとき行 った書店で、若者が哲学関連の分厚い本を購 入していたりして驚きました。

    当然だが、人々は必要とする情報や新たなきっかけを探しに図書館 にやってくる。そして、人々が義務ではなく、自らの意思で訪れる ここには、他のどのような場所に比べても劣らない心が躍る雰囲気 がある。

    「インターネットの登場=図書館の衰退」という話も数多く耳に してきたが、実はそうではないと思う。インターネットの存在が逆 に図書館の魅力を際立たせる時代になりつつある。

    本とは高密度に知を圧縮し持ち運びしやすい形にしたものであ る。仮にその形が変わっても、高密度の知が集積され、それを容易 に展開、自由にアクセスできる場が図書館であるとするならば、図 書館は、その知を媒介につくられるさまざまな関係を生み出す場である。

    ビブリオシアターでは、二階にあ る漫画の棚もそのきっかけの一つだと思っています。 ビブリオシアターは、従来の図書の十進分類法に囚われず、「近大INDEX」という 分野別・テーマ別に本を置いています。当初はその配架方法に対して批判の声をあげた方々 もいましたが、漫画を置くということに対しては大きな抵抗がありませんでした。逆に面 白いことに、漫画を読んで社長になった人の話や、逆に漫画を読まない学生も増えてきて いるので、漫画からでも本を読むということに慣れてもらえたらよい、という話がでまし た。今では漫画の横に、その漫画に関連するテーマの文庫と新書を併せて置くということ に対して評価を頂いています。たとえば、「文学をマンガする」というテーマのなかに『あ さきゆめみし』(大和和紀)という源氏物語を題材にした作品があるとその近くに口語訳源 氏物語や平安時代の生活に関する新書を置いてます。また、「犯人はこの中にいる」とい うテーマのなかには『名探偵コナン』(青山剛昌)の横に探偵小説や科学捜査に関する新書 があったりというように工夫して並べています。

    中央図書館のように、静かに本を読んだり、資料を調べたり、勉強をしたりする場所が 従来の図書館だと思いますが、その一つの形式だけになってしまうと図書館に近寄りがた いと思う人が出てきますから、本はそういうものじゃない、ということを知ってもらいた いのです。その点で、このアカデミックシアターが役に立てばいいなと思っています。ア シアターで芽生えた好奇心が次第に深まり、もっと勉強をしたい、も ものをしたい、と感じたとき、中央図書館の多くの蔵書が役に立ってくるので、このアカ アターがそうした出合いと発見のネットワークのきっかけになってほし っています。二つの相補い合う役割は、どちらが欠けても駄目で、両方を大事にするとい うのが私たちの大学のコンセプトなのです。

    図書館とは不思議な場所だ。その力の源泉はもちろん所蔵されて いる個々の本のパワーだが、新刊書店や古書店に並んでいるときと は異なる形で迫ってくる。所蔵されている本のほとんどは、私が生 涯一度も手に取ることはないのだから、自分の人生とは無縁に思え る。しかし、図書館の書棚が持つ力は、この理屈では無縁であるは ずの膨大な書籍がそこに存在していることに依っている。今日の自 分は、これまでの人生で一度も出合ったことのない疑問を抱えるか もしれないし、たまたま手に取った本に書かれていた一節を読んで、 ずっと考えていた問題を解くヒントが得られるかもしれない。私た ちのあらゆる方向転換、あらゆる躓き、あらゆる思考の深化に合わ せて、それまで自分には無縁で無駄に見えた書籍が存在感を持って 語りかけてくる。

    図書館の書棚の構成は、いわゆる図書分類法に基りいている 6多い。あらゆる出版物を一つの分類体系で整理するというの よそ不可能な試みであり、どこに分類すべきか迷う新刊せ と聞く。しかし、実感としては多少の厳密さを犠牲にして大雑把な 類で作られる実際の書棚は悪くない。内容が矛盾する本が 隣り合っていたり、明らかに関係のない本が紛れ込んだりしている。 また、向かい合う書棚には、関係のない別の分類の本が並べられる ことも多い。この適度に乱雑で偶然性が紛れ込む余地のある書棚の 前の空間は、思いがけない本との出合いの場所でもある。目指して いった本を探す途中で、直接関係のない別の本が気になって手が伸 びることはよく経験する。一種のセレンディピティが起きやすい空 間といえる。

  • 参考文献

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著者プロフィール

1973年、東京都生まれ。アカデミック・リソース・ガイド株式会社(arg)代表取締役、プロデューサー。ヤフーで「Yahoo!知恵袋」のプロデュースなどを担当し、2009年に起業して現在に至る。日本各地で図書館のプロデュースに関わる。著書に『未来の図書館、はじめます』(青弓社)、『ウェブでの〈伝わる〉文章の書き方』(講談社)、共著に『未来の図書館、はじめませんか?』『図書館100連発』(ともに青弓社)、共編著に『ブックビジネス2.0――ウェブ時代の新しい本の生態系』(実業之日本社)など。

「2022年 『司書名鑑 図書館をアップデートする人々』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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