- Amazon.co.jp ・本 (388ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791766307
作品紹介・あらすじ
「英雄」ナセルの台頭から、ムバーラク政権の終焉に至るまで、激動する世界につねに翻弄されてきたエジプト。2011年の革命までの歩みを辿りなおすと同時に、今後の鍵を握る新世代の動向を追うことで、エジプトの、ひいては世界の展望を開く画期的著作。この国を知らずして、世界は語れない。
感想・レビュー・書評
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[巨像か、虚像か]アラブ・ナショナリズムのシンボルとなったナセル大統領の時代から、2011年の革命直後までのエジプトの動向を主に記した作品。事実の羅列に留まらず、エジプトという「物語」がどのように時代に応じて展開したかの説明が加えられています。著者は、BBCなどでコメンテーターとしても活躍するターレク・オスマーン。訳者は、東京外国語大学のアラビア語学科を卒業されている久保儀明。原題は、『Egypt on the Brink: From Nasser to the Muslim Brotherhood』。
「自由主義的世俗重視派」(この言葉がどこまで的を射ているか定かではありませんが......)から見たエジプトの歴史がどのようなものかを確認するためにうってつけの一冊。1950年代から今日までの流れが、政治や外交のみならず、社会や文化といった文脈を含めて概説されているので、エジプトや中東に興味のある方はまず本書を手にとってみると、見取り図が描きやすいかと思います。
特に2011年以降、社会に生じた亀裂などを背景として、大衆に広く受け入れられるようなエジプトという「物語」を紡いでいくことが難しくなるであろうと語られています。本書が執筆された段階からの数年で大きくエジプトも変動を経たため、現在あとがきをつけるとすれば、どのようなものになるのかなと考えながらの読書でした。
〜若者たちは、役割のモデルや自分たちが帰属している継続的な国家プロジェクトばかりか、すべての国民が受け入れることができる過去の解釈を欠いているのである。〜
カイロ滞在時を懐かしみながらの読書でした☆5つ詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
(2012.02.15読了)(2012.02.02借入)
【アラブの春・その⑩】
図書館からのお知らせで、この本の存在を知り、貸出を予約しました。予約中に日経新聞にこの本の紹介が掲載されました。
期待して読み始めたのですが、全く理解不能でした。政治用語や経済用語に疎いためかもしれません。(翻訳者が、原文の意味を理解して訳しているようには思えない。理解しているとしたら、文章力不足しているように思える。担当の編集者は、出来上がった翻訳の文章を読んで、理解できたのだろうか。)
副題は、「ナセルからアラブ革命まで」です。ナセル、サダト、ムバーラク、そしてアラブ革命までのことが書いてあります。
この本の章立ては以下の通りです。
はじめに
第1章、エジプト世界
第2章、ナセルとアラブ民族主義
第3章、イスラーム教徒
第4章、自由主義的な資本主義の興隆
第5章、エジプトのキリスト教徒
第6章、ムバーラクの時代
第7章、エジプトの若者たち
結び
謝辞
訳者あとがき
参考文献
註
索引
●本書は(17頁)
本書は、過去半世紀の間にエジプトとエジプト国民が体験した変化を描いている。それはこの期間において生じた変化であり、その変化の背景をなしている原動力であり、21世紀の20年目の初頭の時点におけるエジプトの社会の現状であり、予見できる将来における社会と国民の潜在的な展望である。
●本書の構成(25頁)
第1章では1950年代末頃の自由主義的で魅力的な、世界的な視野をもった、外見から判断する限り高い可能性を秘めていたエジプトの社会をご紹介することにしよう。
第2章の主題は、ナセルとアラブ民族主義である。
第3章は、エジプトにおけるイスラームの物語である。
第5章ではエジプトが1970年代から1980年代にかけて体験した社会と経済の変化の結果として隆盛を極めた新たな有産階級がサダト政権やその後のムバーラク政権とのかかわりを深め、その結果として、政治的な意思決定と特定の経済・金融上の利益の関係が不透明になった一方、自由主義的な資本主義が、政権の信条と原則としてしだいに洗練されていったプロセスを検討している。
第5章では過去60年においてエジプトのキリスト教徒とその社会の間の関係に生まれた変化を考察している。
第6章は、ムバーラク大統領が政権を握っていた時代を扱っている。
第7章ではエジプトの人口の70%を占めている、最も重要な年齢層である35歳以下の若者たちを考察する。
●拷問(101頁)
拷問や政治的な弾圧は、君主制を敷いていたエジプトにおいても紛れもなく存在していたとはいえ、ナセルはそれを制度化した。
●宗教が占める地位(116頁)
エジプト人の社会生活に宗教が占める地位は、1950年代と1060年代のナセルの時代に変わっていった。アラブ民族主義と、ナセル主義と結びついた進歩的なイデオロギーは、イスラームばかりかキリスト教を含めた宗教を、街路、学校、大学といった公的な領域から、家庭、ムスク、教会といった個人的な活動範囲へと後退させていった。
●識字率(149頁)
エジプトでは1980年代から出生率が急上昇し、その結果として、人口が4500万から8000万へとほぼ倍増し、それが都市化に拍車をかけたのだが、識字率は上昇した。1970年代初め頃にはほぼ45%だったエジプトの識字率は、2000年代の初めころには65%にまで上昇しており、35歳以下の人々の間の改善は最高度のレヴェルを記録したのだが、これらの人々は、衛星チャンネルからインターネットや携帯電話に至る最新のテクノロジーを使いこなしながら成長した世代だった。
●キリスト教(202頁)
エジプトにキリスト教をもたらしたのは聖マルコであり、紀元後43年にエジプトを訪れた聖マルコは、ユダヤ系エジプト人ハナニーヤに司祭職を授け、ハナニーヤは、その後エジプトにおける数多くの布教活動に指導的な役割を果たした。
●キリスト教徒(205頁)
キリスト教徒は、16世紀の中頃までエジプトの人口の40%以上を占めていた。17世紀に入ると、エジプトは、二度に及ぶアラビア半島からの人口移動の激流にさらされ、それとともに数多くのキリスト教徒がイスラームに改宗した。
☆関連図書(既読)
「渡り鳥と秋」ナギーブ・マフフーズ著・青柳伸子訳、文芸社、2002.03.15
「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
(2012年2月15日・記)