コラテラル・ダメージ グローバル時代の巻き添え被害

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791766376

作品紹介・あらすじ

強者はより強者に、弱者はより弱者に-。なぜ世界では不平等と格差が無くならないのか?不確実な時代の真実を解き明かす世界的社会学者の最新成果。

感想・レビュー・書評

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  • コラテラル・ダメージ(軍事用語)意図しない、計画されていない、誤って予期せぬ被害を与えてしまう効果を意味する。

     リキッド・モダニティではこれが社会的に通用してしまう。近代化の進んだ社会は、分業の高度化で一人一人の関連性が希薄である。しかし、どこかでつながっている可能性は高い。異国で起きた現象が、回り回って遠い国で猛威を振るう危険性がある。概してその被害者は、不平等のしわ寄せを受けた人々である。

     資本主義の世では、権力と政治が分離する。そして、現在その力の差が拡大の一途をたどる。政治が機能せず、人々の格差が広がることに歯止めがかからない今、無視されている領域がある。米のハリケーン・カトリーナで見て見ぬ振りされた場所は、政治の無能によるコラテラル・ダメージを被ったといえる。
     地震などの突発的な災害と違い、台風による被害は十分に備えることができる。しかし、それができなかったのは、不当に歪んだ政治の責任である。政治が正しく機能しないのは、権力のある人々に迎合しているからか。その一部の権力者のために、被る必要のない損害を受けた人がいるのである。

     そうすると、サブプライムローンの被害もコラテラル・ダメージだな。結局あれで儲けたのは、金を貸した側で、借りた側は、いや借りさせられた人たちは本来する必要のない借金をする羽目になっている。
     
     
     軍事作戦において、その成果のためには悪は必要悪として正当化されることが稀によくある。
    「原爆を投下しなければ、もっと多くの日本兵の命を奪うことになった。降伏を認めない日本を屈するための、致し方ない最終手段だった。」このように、悪は後付理論で必要悪とされる。
     正論が後付されるってことは、リスクの可能性が十分あったということの裏返しでもある。
     原発問題も次から次へと言い訳が後付されている。資本主義の独断専行による、エネルギー政策はリスクが隠ぺいされている。しかし、そのリスクが暴発した時、被害を被るのは、エネルギー政策に直接かかわった人ではない。被害は周辺化される。
     コラテラル・ダメージもまた、近代化の産物「周辺化」の一つであると思う。


     周辺化は、ある問題の影響や責任が、問題の当事者ではなく、直接関係ないものに被せられることを言う。
     バウマンの「ホロ・コースト」でも書かれているよ。

  • バウマン社会学の主要テーマである(らしい。よく知らないけども!)、消費主義、グローバリゼーション、倫理、不確実性、モダニティ分析などの要素が全て含まれているように感じた。
    私はまだ社会学についてあまり詳しくないので、様々な社会学者の主張の引用なども多く、たくさんの知識を得られて面白く感じたが、教授曰く語り尽くされたことのまとめで新鮮みに欠ける、らしい。
    読みやすく、わかりやすい例が多く出てくるので、初学者に向いているのかもしれない。
    特に「ゲーテッド・コミュニティ」や消費が道徳的であるための行為になっている、悪はどこからくるのか、という話が興味深かった。
    メインテーマの社会的不平等と排除についても関心が持てた。不平等をなくすことは現実的に不可能であるので、排除はなくしていかなければいけない、ということを言いたいのであると思う。
    バウマンの若い頃の近代とホロコーストや、廃棄される生などのがっつり自分の考えを書いた本も読んでみたい。

  • 「コラテラルな犠牲者という言葉は、最近作られた軍事用語であり(略)、意図しない、計画されていない、そしていわば誤って予期せぬ被害を与えてしまう効果を意味する。」ウィキリークスの動画等で有名になったこの言葉。本書では軍事的な巻き添え被害に限らず、著者がリキッド・モダンと呼ぶ後期近代に特有の状況を象徴する言葉として使われる。権力と政治が分離した状況で、国家の庇護を国民に実感させるためにとられる、福祉行政ではなく、セキュリティの強化という手法や、流動化・短期化する労働環境、人間同士の絆に介入する消費主義、等々といった具体的なテーマに沿って語られる11章。

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著者プロフィール

1925年、ポーランドのポズナニのユダヤ人家庭に生まれる。ナチス侵攻によりソヴィエトに逃れ、第二次世界大戦後ポーランドに帰国。学界に身を投じワルシャワ大学教授となるが、68年に反体制的知識人として同大学を追われる。イスラエルのテルアヴィヴ大学教授などを経て、現在リーズ大学名誉教授、ワルシャワ大学名誉教授。現代の社会学界を代表する理論家である。邦訳書に『個人化社会』(青弓社)、『コラテラル・ダメージ――グローバル時代の巻き添え被害』(青土社)、『コミュニティ――安全と自由の戦場』(筑摩書房)、『リキッド・ライフ――現代における生の諸相』『リキッド・モダニティ――液状化する社会』(ともに大月書店)、『廃棄された生――モダニティとその追放者』(昭和堂)など多数。

「2012年 『液状不安』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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