- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784791767991
感想・レビュー・書評
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収められた論文の最後の一文がどうも気になる.
「政治思想史についてほかでもあり得る視点を提示することは,世界と歴史を別の仕方で生きられたものとして示すことであり得るかもしれない.本章では多くのことが十分に論じられないままに終わったが,専門外の私が表現したかったことはこのような解釈の冒険〔政治思想史のフェミニスト的解釈のこと〕へのささやかな共感以上のものではない.」(125頁.〔〕内引用者)
このフェミニズム(の試み)へのなんとも言えない態度表明で論文は締め括られている.何が気になるかと言えば,この表明が何の文脈なく,唐突になされたこと.
著者が予防線を張った印象を受けるが,では誰に対しての予防線なのだろうか.論文の初出は1994年.したがって,おそらく当時の学会の雰囲気に思いを馳せるべきなのだろうが,門外漢にとって知る由もない.フェミニズムに触れる論文を書くとフェミニズム論者なのか,などと囁かれたりそういった目で見られる雰囲気とかを想像してしまう.詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「政治を政治たらしめるもの」である〈政治的なもの〉について考えた10編(序章含む)の論文を採録。多くは著者が専門としている政治哲学ではなく、フェミニズム、丸山思想史、アメリカ政治学などの研究史から〈政治的なるもの〉をめぐる抗争を描いている。
この論文集がいちばんすごいなと思ったのは〈政治的なもの〉という主題を立てながら、〈政治的なもの〉が何かという答えが明確ではない点である。主題を立てながら、それについてはっきりと話すことなく文章を進めていくというのは、ものすごく勇気のいることではないかと思われる。
いやもちろん、断片的には記載はあるのだ。ただそれが明示的ではないというか…それはおそらく、〈政治的なもの〉について語る言葉の不足にあるのだと思う。多弁を要せば語れるというものではないが、作者は「言葉がないもの」について、多弁することでその欠落を埋めようとしている。そんな印象を持った。