夜の哲学 バタイユから生の深淵へ

著者 :
  • 青土社
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本棚登録 : 43
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791769476

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  • 2020I050 950.28/Sa
    配架場所:C1

  • 青山ブックセンター六本木店跡地にできた、「本と出会うための本屋。」と謳われている文喫で購入。
    ネットで本を検索して購入することが当たり前な時代だからこそ、検索対象とならない本と出会いたいとの想いから当書店にはかねてから行きたいと思っていた。
    そして念願叶って入店後、そのキャッチフレーズどおり、哲学書の本棚で偶然本書を見つけて手に取り、そのまま購入した。

    ジョルジュ・バタイユの名は、齋藤孝氏の『使う哲学』の中で扱われていたため知っていたが、『エロティシズム』の作者というくらいの知識しか持ち合わせていなかった。
    しかしながら、自分が夜に思索することが好きなためか、『夜の哲学』というタイトルと幻想的な図柄の表紙に惹かれた。

    本書の内容は全てが書き下ろされたものではなく、著者が過去に書いた12本と本書のために書き下ろされた1本の論考で章立てされている。
    そのため、本書を通してひとつの哲学的テーマを探求したいと期待した読者は、ややもすると本として脈絡のない印象を抱くかもしれない。
    また、著者が扱う対象に関しては、バタイユを軸としながらも、ニーチェ、ハイデガー、ラカン、サド、ブランショ、キニャール、ナンシーといった西洋の哲学者・思想家から岡本太郎、三島由紀夫、喜多川歌麿と国内の芸術家や作家にまで及ぶ。読み進めていくうちに登場人物の幅広さから著者の主張がどこにあるのか見失いそうになる読者もいるのではないだろうか。

    しかしながら上記ような構成であるものの、哲学や思想に関する前提知識に乏しい自分でも、著者がこだわる「夜」に読むと、不思議と本書にのめり込んでいくようにページを捲っていることに気付く。
    バタイユはニーチェの思想に影響を受けたとされており、本書においてもニーチェからの引用も多いのだが、自分もニーチェの思想に共感する部分が多いことが、多少難解な本書を読み進めていけた一因であると考える。

    さらに本書では、サディズムや歌麿の春画を題材にして夜と性を切り口にバタイユの性思想にも触れている。現代社会においてはタブー視されがちな思想をあえて扱うことで、言ってみれば「性を通した聖なる生」について、読者に改めて考えるきっかけを著者は与えようとしたのかもしれない。

    本書のまえがきを引用すると、
    「哲学の純粋さが、考えることの自由にあるとするならば、夜こそは哲学の豊かな源泉だといえる。
    哲学というと人はすぐに古代ギリシアからの西洋哲学史や歴代の哲学者たちの難解な概念を思い浮かべるかもしれないが、しかし西欧だけが哲学の場ではないし、概念が組み合わされた体系だけが哲学なのでもない。」
    と著者は述べている。

    この考えに賛同し、いわゆるメジャーな西欧哲学者とは異なる視点で、就寝前の時間帯に「性と生」について再考してみたい方には一読の価値があるといえよう。
    文喫にて偶然出会った本であったが、バタイユや彼と交流のあった岡本太郎をより知った上で再読してみたい一冊となった。
    このような本との出会いもまた良いものである。

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著者プロフィール

法政大学教授

「2020年 『ロマネスクとは何か 石とぶどうの精神史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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