なぜ脳はアートがわかるのか ―現代美術史から学ぶ脳科学入門―

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791771752

作品紹介・あらすじ

脳、前衛芸術に挑む。
絵画を見て、それを「よい」と思うとき、脳では何が起こっているのか。複雑怪奇な前衛芸術が「わかる」とはどういうことなのか。ノーベル賞を受賞したエリック・カンデルが、脳科学、医学、認知心理学、行動科学から美学、哲学まで、あらゆる知を総動員し、人間の美的体験のメカニズムを解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 初めて見る、自分の常識とは真逆だ、訳がわからない…こんな芸術作品に出会うと不快になったり、脳がグルグル回転するような感覚になったりする。対象は人でも、試験問題でも、会社で与えられたタスクでもよいだろう。

    この現象を脳科学の観点から解説してくれた本。抽象画やモダンアートのことをよくわからないが、たまに観に行ってしまう私にとってとても興味深いものだった。

    いわゆるアートがわかるわけではないが、脳の活性化のためにこれからも見続けたいと思った。いつかわかるようになると信じつつ。

  • 絵を見る、という行為自体は普通なんだけど、その中で気に入る絵や気に入らない絵というのがあった。
    特に風景画(具象絵画)が好きだったが、キュービズムに始まる抽象絵画は全く好きになれなかった。
    しかし、この本を読んでその理由が分かった。

    抽象絵画は”何を描いているのか?”ではなく、作家が描いたカラーや線という情報から、自分の中でどういう情動体験をするかが”こちら側に委ねられている”ということが分かった。
    そう思えば、アクションペインティングでもその中に何を見るかはその鑑賞者の自由でそれを楽しめばいい、ということになる。そういう視点で見たことが無かった。
    これで少し美術館に行く楽しみが増えたような気がする。

    全体的に分かりやすく、特に具体的な作品例がカラーで多く掲出されているので読み易いが、脳科学の説明になると難しくなってギャップは相当あるが、絵画に興味がある人は楽しめると思う。

  • 図書館で借りたけどじっくり線引きながら読みたかったので購入した

  • アートと脳科学の本。美術史をたどりながら脳科学も学べるという良書

  • 「視覚について、ひいては絵画を見る時、脳はどのような
    処理を行っているか」という話と「人はどのような抽象絵画
    を描いてきたか」という話、二つのトピックスを平行して
    語り、そのうち関連付けられそうな所に橋をかけて人文と
    科学の連結を図るという内容。タイトルは少々大げさな気も
    するが、読んでいて楽しい本であった。ちなみに、私は抽象
    絵画はよくわからない(笑)。

  • 原題は「REDUCTIONNIZIM IN ART AND BRAIN SCIENCE」…芸術における還元主義と脳科学?よくぞ「なぜ脳はアートがわかるのか」という邦題をつけてくれました。訳者のファインプレー!副題の「現代美術史から学ぶ脳科学入門」も本書の主題を端的に表していますが、一方「脳科学で語る現代美術史入門」という本でもありました。そう、アートといっても現代美術、特に、ニューヨーク派の抽象芸術が鑑賞者の心を揺さぶるのか、をノーベル医学生理学賞を受賞した科学者がシンプルに語ってくれます。今回初めて知ったキーワードは視覚に対する脳のボトムアップ処理とトップダウン処理。自分の理解ではボトムアップ処理は脳に入ってきた情報を整理し、トップダウン処理はそれに過去の知識や学習を加えるプロセス。具体を、フォルム、線、色に還元する抽象芸術はトップダウン処理に大きく関わる芸術なのだ!ということで「アートの還元主義」という題名に繋がるのです。ターナー、モネから始まり、カンディンスキー、そして音楽家のシェーンベルク、モンドリアン、で、ニューヨークに移りデ・クーニング、ポロック、ロスコ、ルイス、フレイヴァン(知らない!)、タレル、カッツ、ウォホール、クローズ(彼も初めて!)の抽象美術の流れを画像もバンバン使って解説してくれていて、同時に脳科学の解説の図も同じくらい使ってくれていて、まるでDNAの二重らせん構造のようにアートと科学が対応しながらぐるぐる回っているような楽しい本でした。この先のAIと芸術の関係、それからこの夏、東京芸術大学の美術館で展覧会が行われたアール・ブリュットとの関係とか、もっともっと知りたくなりました。

  •  アンリ・マティスが述べたように、「私たちは、思考と具象的要素を単純化することで喜びに満ちた平穏へと近づくことができる。思考を単純化して喜びの表現を獲得すること、それこそが、私たちが行なっている唯一の営為なのだ。(p.16)

     私たちが近くするものとは、外界から目や耳や指に当たってきた、未加工のあいまいな合図なのではない。私たちは、もっとはるかに豊かなもの、すなわちそれらすべての未加工のシグナルと過去の豊かな経験を結び付けた像を近くしているのである。(…)世界に関する私たちの近くは、現実と同時に生じる空想なのだ。(p.30)

     ある意味で、カンバスに絵として表現されたものを見るためには、どんな種類のイメージが絵に描かれていると予想されるかについての知識を、私たちは前もって持っていかなければならない。たとえば私たちは、自然や、何世紀にもわたり制作されてきた風景画に馴染むことで、フィンセント・ファン・ゴッホの筆づかいに小麦畑を、またジョルジュ・スーラの点描に芝生をたちどころに見出すことができる。このようにして、物理的リアリティや心理的リアリティをめぐるアーティストのモデリングは、日常生活でも生じている、本質的に創造的な脳の作用とも符合する。(p.34)

     成長環境やそこから受ける刺激、学習、更には運動や近くの行使のあり方は人によってある程度異なるので、脳の構造も、人によって独自の様態で変更される。人間が互いにわずかに異なる脳を持っているのは、各人各様の経験のゆえである。遺伝子を共有する一卵性双生児でさえ、おのおの人生経験は異なり、よって互いに異なる脳を持つ結果になる。このような脳の構造の個人レベルでの変化は、独自の遺伝子構成とともに、個性の発現の生物学的な基礎をなす。また、アートに対する反応様式の個人差をも説明する。ここまで見てきたように、アートに対する私たちの反応は、生得的なボトムアップの近くプロセスのみならず、シナプス結合の強度の変化に媒介されたトップダウンの関連付けや学習にも依存する。(p.75)

     カンディンスキーの論じるところによると、絵画は音楽と同様、物体を表現する必要はなく、人間の精神や魂の至高の側面は、中小を通じてのみ表現する音ができる。音楽が聴き手の心を揺さぶるように、絵画におけるフォルムや色は、鑑賞者の心を動かすのである。(p.92)

     エロティシズムと攻撃性の融合は、その後西洋美術に見られるようになり、たとえばグスタフ・クリムトが1901年に描いた、鑑賞者を誘惑する美しい絵『ユディト』に如実に見て取れる。この絵でクリムトは、性交後の陶酔のなかでホロフェルネスの生首をもてあそぶユダヤ人のヒロインを描いている。彼女はこのアッシリアの将軍が行なっている攻城を解いて人々を救うために、彼に酒をしつこく勧めて誘惑し、首を切り落としたのである。クリムトは、彼が制作した全作品を通じて、女性も男性同様、エロティシズムから攻撃性に至るまで、一連の性的な情動を経験していること、そしてエロティシズムと攻撃的な情動が融合しやすいことを示した。異なる側面ももちろんあるが、『ユディト』も『女性Ⅰ』も、強い性的な力を描写している点では共通する。とりわけ注目すべきことに、どちらの絵でも描かれている女性は歯を見せている。(pp.110-111)

    多くの鑑賞者にとって抽象芸術を見ることの喜びは、ジェイムズが「馴染みの物事との関連づけによる、新しきものの輝かしき同化(かつて見たことのない何ものかの首尾一貫した近く経験)」と呼ぶものの一例である。私は、さらに次のようにつけ加えたい。新しきものの同化、すなわちイメージの創造的な再構築の一環としてのトップダウン処理の動員が、本質的に鑑賞者に快をもたらす理由は、一般にそれによって創造的な自己が刺激され、ある種の抽象芸術作品を前にしてポジティブな経験がもたらされるからだ。(p.132)

    デ・クーニングとポロックの作品の比較によって明らかになることは、抽象芸術が明らかに還元主義的でありながら、多くの具象芸術よりはるかに強く鑑賞者の想像力に訴えかけるという点である。また、これら二つの完全に抽象的な作品は、キュビストの作品に比べ、脳の資格装置によるボトムアップ処理にそれほど負担をかけない。キュビストの作品は、具象的な構成要素を維持しているケースが多いが、いくつかの互いに無関係の異なる視点を適用して見るよう鑑賞者に求める。だが私たちの脳は、そのような見方を意味あるあり方で処理できるよう進化してきたわけではない。それに対し抽象画は、あいまいさを解消することが第一の仕事であるボトムアップ処理にはそれほど依存しておらず、私たちの想像力、つまり過去における個人的経験や、他の芸術作品との出会いをもとにしたトップダウンの関連づけに強く依拠しているように思われる。(pp.136-137)

    私たちは、崇高なものであれ、美しいものであれ、時代遅れのイメージとの関連を呼び起こす小道具や仕掛けを含まないリアルなイメージを生み出しているのだ。(…)私たちが創造するイメージは、リアルで具体的な自明の啓示であり、それを見る者は誰であれ、懐古の念を呼び覚ます歴史のメガネをかけていなくても理解することができる。(Newman 1948)
    美術アカデミーの絵画とは異なり、彼らが創造するイメージは識別可能なフォルムを欠いているが、その爆発的な色調は鑑賞者に巨大な情動的影響を及ぼす。それはなぜか?その一つの理由として、具象的要素を欠く抽象画は、非常に異なるあり方で脳を活性化させることがあげられる。つまりから―フィールド・ペインティングは、色に関する関連づけを鑑賞者の脳に引き起こすことで、知覚や情動に影響を及ぼすのだ。(p.155)

  • 脳科学の観点からアート、特に現代美術における変遷を解説した知的好奇心を刺激してやまない一冊。

    まず神経科学の巨匠と言えるカンデル氏が、これほどアートに造詣があることに驚く。しかもきちんとアートに関する論文も多数引きながらの博識ぶりである。単なる「好き嫌い」の主観的解説本とは訳が違う。

    特に解釈が難しい現代美術について、脳神経学的な見地から照らして考えると、普段我々が気づかず無意識に捕まえている、脳が作り出すイリュージョンを、アーティストらが還元し解体して見せようとしたか、その戦いの過程であることがよくわかる。

    同様のポピュラーサイエンス本としてゼキが記した書も有名だが、こちらの方がどちらかというと、科学的解説については網羅性がありわかりやすい。視覚だけでなく、運動に関する領域にまで踏み込んで考察がされているのも◎。

  • ふむ

  • なぜ脳はアートがわかるのか
    2023年2月22日読了

    「芸術作品の創造や知覚がいかにしてなされるのか」を脳科学の観点から解き明かした一冊。現代アートを数多く紹介しながら、知覚や認知といった脳の機能を解説しており、難しく感じる箇所もあったが、結果的に楽しく拝読させていただいた。(というのも実は、一度挫折している…。だが一気に読むと理解が進み、読書が進むことができた。一気読みおすすめの本。)

    本書では、芸術作品(特に抽象的な作品)を鑑賞した際に、各人でいくらか異なったあり方で感知・認識する点に注目している。
    そこで持ち出されるのが、ボトムアップ情報(処理)とトップダウン情報(処理)である。
    ボトムアップ処理とは、脳に生得的に備わる計算プロセスによってもたらされるもので、各人でほぼ同じ基本情報を引き出すことができる。
    一方のトップダウン処理とは、自分の経験に基づき眼前のイメージの意味を推測することで、イメージは個人の心理的な文脈置かれる。つまり、個々人で異なる情報が引き出されるのだ。

    芸術作品を鑑賞した際、様々な認知がなされるのは「トップダウン処理」によるものとされる。

    抽象作品を鑑賞すると、トップダウン処理によって記憶・情動・経験に関するシステムが動員される。
    すると、①イメージの構成を分析し、②トップダウン処理によって関連付けが行われ、③これらの脳の動きに基づき情動的反応が起こる、というわけだ。

    たしかに私たちは作品を鑑賞すると、作品に物語性を付与したくなってしまう。
    おそらく、自分の経験と作品を結びつけ、その中で「自分だけ」のストーリーを構築していたのだろう。作品と個々人経験の両者がそろって鑑賞となるならば、各人の認識は異なって当然といえる。

    なお、抽象作品の鑑賞は本質的に「快」の情動が引き起こされる。そのわけは、この関連付けによる「補完」によって、私たちの創造性が刺激され、ポジティブな経験がもたらされるからだ。
    鑑賞している間に補完や再構築によって、脳内で創造が起こっていたとは…。人間はかくも何かを生み出さずにはいられない生き物なのだなと思った。

    自分が好きな芸術鑑賞について、なぜ好きか説明することができなかった。
    ただ、作品が好きだから、美しいものが好きだからと思っていた。
    しかし、本書を読み作品鑑賞が「内省」となっており、自分自身と向き合える場になっていることに気づくことができた。(もちろん、それだけではないのだろうけれど…)

    好きなことへの理由付けができたこともあり、大変腑に落ちた一冊でした。

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著者プロフィール

1929 年,ウィーン生まれ。米コロンビア大学教授。現代を代表する脳神経科学者。記憶の神経メカニズムに関する研究により2000年,ノーベル医学生理学賞を受賞。邦訳された著書に『記憶のしくみ』(講談社ブルーバックス,2013 年),『カンデル神経科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル,2014 年)。

「2017年 『芸術・無意識・脳』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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