世界を支配するベイスの定理 ―スパムメールの仕分けから人類の終焉までを予測する究極の方程式―

  • 青土社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784791772407

作品紹介・あらすじ

ハリウッド俳優の財布の中身、保険の掛け率から人類の終焉までもを解き明かす究極の定理。
18世紀の数学者ベイズの考えた定理は、ありとあらゆることを予測できる究極の定理であり、ビッグデータ時代の現在でも知らず知らずのうちに我々はその恩恵にあずかっている。そのベイズの定理を手がかりに、我々を悩ませ続ける眠り姫問題、終末論法などを検証、人類とこの宇宙の終焉の時までを予測する。

感想・レビュー・書評

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  • 『従来の統計学的考え方からすれば、起こったことのない事象に確率を割り当てることはできない。データのないものに対しては、沈黙を守らなければならないからだ』―『第一部 レミングを考える/すべてを予測する方法』

    「世界を支配するベイズの定理」。うむ、購入する時によく確かめればよいだけのことではあるけれど、このタイトルは多分に誤解を招く。ベイズの定理についての解説書なのかと思って手に取るとがっかりする。オリジナルの副題の方には多少そのニュアンスがあるとはいえ、原題「The Doomsday Calculation」にはベイズの定理に焦点を当てたというニュアンスはないし、内容の中心は終末論などの不可知に対する考えをまとめたもの。その知り得ないことを予測(と言うのが言い過ぎなら予想)する中でベイズの定理が取り上げられるとはいえ、その方程式が議論の中心ではない。

    「ベイズ」と言えば、多少統計学を学んだものであれば、事前確率と事後確率の関係を表した P(A|B) = P(B|A)*P(A)/P(B) という数式を思い浮かべるだろうけれど、本書の中で唯一紹介される数式は、ある試薬が陽性の結果であった場合に偽陽性ではなく真に陽性である確率を求めるものとして示される。それが P(H|E) = P(H&E)/PH(E) だが、果たしてこれが丁寧に説明される訳ではない。因みに、P(*)は事象*が起こる確率という意味の関数。P(A|B)は条件付き確率と呼ばれるもので、事象Bが起きたという条件の下で更に事象Aが起きる確率という意味。この数式の場合、事象Hは試験体が真陽性であるケースで、事象Eは試薬が陽性を示す(偽陽性の場合も含む)ケースを意味している。右辺に表れる&はいわゆる「かつ(AND、∩)」という意味である。なので、P(H|E)は試薬が陽性を示している場合に真陽性である確率という意味で、P(H&E)は試薬が陽性でありかつ真陽性である確率という意味。これがベイズの定理の数式として出てくるのだが、これは集合論的に(つまりベン図で)考えれば当たり前のことを書き下しているだけで、典型的なベイズの例ではないと思う。

    ベイズ統計学の入門書に必ず出てくるのは「三つの扉(モンティ・ホール問題)」というやつで、三つの扉の向こう側の一つには当たりがあり、その当たりを引く確率を求めるというもの。当然その確率は1/3だが、問題は、どれか一つを選んだ「後」で、残り二つの内の一つをゲームの主催者が開いて見せてくれることで複雑になる。当然、主催者は「はずれ」を見せてくれる訳だが、その後で選択肢を変えることが出来る。さて、変えた方がいいのか悪いのか。興味のある向きは検索されたし。主催者が与える情報によって最初に選んだ扉の当たる確率が変化するのだが、その確率は1/2(二つの内の一つがあたりなのだから)か、それとも?

    本書でのベイズの定理は、自分が観測している現象から、それがどの位平均的に持続することなのかを推定しようという試みの中で登場する。その導入部は突飛もない予測(チャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚は何年続くかを占う話や、ベルリンの壁があと何年で崩壊するかを予測する話、など)で興味をそそる。それは、その現象を観測した時点での経過時間がどのくらいありふれたことであるかという推定を、いわゆる統計上の信頼区間を用いた推定によって行う試みなのだが、ここまでは読者をそれほど戸惑わせない。例えばベルリンの壁が作られてから観測するまでの期間が、壁が崩壊するまでの時間(未知の情報)の75%だと推定できるのならば、残りの時間はそれまでの時間の1/3であり、25%だとすれば残りの時間はそれまでの3倍ある。ということは、信頼区間25%から75%の確率、つまり五分五分の確率で、壁は、これまでの時間の1/3倍から3倍の時間存在し続けると予測できる、という話。ただし、ここがすんなりと理解し難いところだと思うが、ここで「観測」という現象が入ることで、その後の永続時間の確率が変化している、というのがベイズ統計学的(だと、少なくとも著者は主張する)。確かに、それは一理ある。私の観測は、壁の過去から未来までの存続期間から十分にランダムに選ばれたサンプルと言えるかどうか。そう言われると、少し訳が解らなくなるでしょう?

    『私たちはカオスの世界に生きている。多くの場合、決定論的予測を可能にするほどじゅうぶんには詳細が知られていないような世界だ。これが数多くの事象をランダムだと見なす理由である。自己サンプリングは、そうした事象に関する迅速でシンプルな推論方法を提供する。そのきわめて重要な前提は、私は自分を、集団全体からランダムに引かれたくじだと考えることができるということだ。これがうまく当てはまる状況もあれば、当てはまらない状況もある』―『第一部 レミングを考える/ガムボールマシンの形而上学』

    しかし、これはベイズの定理が支配する予測、というよりは、むしろ統計解析をする場合に必ず付きまとう問題だと言えるのではないか。つまり、扱う標本(サンプル)と母集団(標本が属している元の集合)の関係を考える場合、あるいは標本から母集団の特徴を推定しようとする場合に必ず付随する問題だろうと自分は思う。例えば、日本人のある趣向の傾向を知ろうとしてインターネットでの調査をするというようなケース。インターネットを使う人が全日本人を代表しているとどの位確信できるのか(インターネットを使わない人や、使っていてもその手の調査には参加しない人も当然いる)。更に調査に報酬があった場合とない場合で、結果が変わるとしたら、その調査は信頼できると言えるのか、など。これは分かり易い例だけれど、科学的調査でも、知らずにバイアス(偏重)されたデータを基に推定を行ってしまうケースは少なくない。一見ランダムに空間上に散らばるデータポイントのどれを選択しどれを棄却するかは、データの質で決められることも当然あるけれど、しばしば無意識の想定が入り込む行為でもある。その範囲を「Area of Interest(AOI)」などと言うけれど、これを客観的に決定する方法はなく、「AOIは解釈」と捉えるのが一般的だ(が、これが腑に落ちない解析初学者も多い)。自分が見えている地平が、必ずしも絶対的な視座からの眺めではない、というのは肝に銘じておかなければならないことなのだが、案外と意識されない(出来ない)ことが多い。それは何故そうなってしまうのかを、本書は認識論的に深堀する。それは非常に意欲的な試みと言ってよいと思うけれど、多くの読者を置き去りにもしてしまうだろう。あるいは、その議論には目をつぶり、終末論の結論や多元宇宙論からの結論のみに注意を向ける読者を生んでしまうかも知れない。

    『このことは、高く評価されている理論が観測不可能なものについて語るとき、それを信じるべきかどうかという疑問を提起する。実際、私たちは常にこれをしている。森の木からリンゴが落ちて、それを目にするニュートンがそこにいなかったら、リンゴは本当に木から落ちたのだろうか? もちろん落ちた』―『第二部 生命、心、宇宙/1/137』

    不可知に対するアプローチに、自分自身の運命が絡んでくる場合は尚更のことなのだが、人は信じたくないものを信じない、あるいは信じたいものしか信じない傾向が強いということは今一度肝に銘じておかなければならないことのように思う。あるいはヴィトゲンシュタインの言うように、語り得ないことについては沈黙せねばならない、ということか。

  • 電子ブックへのリンク:https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000129462
    ※学外から利用する場合、リンク先にて「学認アカウントをお持ちの方はこちら」からログイン

  • タイトルを意訳しすぎている気がする。
    原題は「The Doomsday Calculation」であり、世界の終りの日を計算してみよう、という内容である。
    で、この計算にベイズの定理を使用しました、という感じである。

    最近はやりのAIの数学的な基礎には統計学やベイズ推論手法が使用されているが、このような内容の書籍化と思って読んでみたら終末に関する議論で、ベイズ推論ではこのようなビックリした計算にも使用できるよ、という最初の導入かと思って読み進めたら中盤になっても終末論の話が続いて、??となって原題を見てみると上記のタイトルになって、主題に気が付いた。

    終末の日がどの程度になるのかわからないし、いったい、終末とは何が起こるのかというところもはっきりしないのでイマイチぴんときません。

  • 請求記号 417/P 86

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