トナカイ月 上: 原始の女ヤーナンの物語

  • 草思社
4.20
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794204813

感想・レビュー・書評

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  • 人類学者が考えていることが、いかに現在の反映でしかないか、というのを、あらゆるところで感じる
    むしろ、死ぬの生きるのがすぐ隣にあることの新鮮さや、とはいえ既に動物からは大きく隔たっていることとか

    多神教的、汎神的、シャーマニズム的世界によりながらも、語り手の見せるわずかな拠り所の痕跡がとても一神教的で

    こういうのを書ける日本人がいれば、もちょっとリアルだったんやないかな

    けど、素晴らしい読書体験になる

  • 9/20 読了。
    2万年前のシベリア。地球全体が氷河に包まれるなか、そこだけは凍結を免れてマンモスやライオン、トナカイやオオカミなどの動物たちからなるサバンナの生態系を形づくっていた。極寒に震えながらそこで暮らす人間たちは、日々の獲物のこと、小屋の安全のこと、血族の絆のこと、婚姻に際しての贈り物のことなどにかかずらって生きていた。
    氷河期の人間はどう暮らしていたかを驚異的なリアリティで描く歴史小説であると共に、ヤーナンという気丈でプライド高く深い孤独を背負い込んだ女性の生き様を描いたフェミニズム小説でもある。というか、ヤーナンというキャラクターを主人公に据えたことで、氷河期の暮らしに皮膚感覚レベルで共感できるように書かれている。
    血族を何よりも重んじる人間関係は地獄。男と結婚して他家との関係を作り、子供を産んで一族の未来を繋がなければ、家族という名の群れから弾きだされる。この問題が現代において完全に解決しているとは思わないけど、男も女もひとりで暮らすことを選んだからといって即野垂れ死にするような社会でなくなったことは有難いことだ…。

    関連本:服部文祥・編「狩猟文学マスターピース」

  • 147夜

  • 上下巻。

  • 感想は下巻で。

  • 変わらない人々のいとなみ、狩りをして肉を得る、男と女が血をつないでいく。
    いきなり「私」が死んだあと、というところで物語がはじまるほど、霊との近い関係におどろかされる。
    あとがきによればシャーマンということばは、シベリアあたりのツングース諸語に由来するようで、舞台となるここは2万年前のシベリア。強く美しい「私」ヤーナンの意外に強情っぱりな人物像が浮かび上がってきてハラハラ、でもやはり命をおびやかされるほどの酷寒で「生きる」ことは無我夢中で、強い意志なくしては命を保つことはできない。生きるためには肉が欲しくて、いつもおなかをすかせている。読みすすむうちいつのまにか痩せたライチョウではなく、ぷりぷりともり上がった尻の牝ウマを心待ちにしている。
    作者のエリザベスは20歳で両親・弟と、地図にも載っていなかった僻地で数年間調査のためブッシュマンの人々とともに生活し、その後人類学者としての地位を確立していく。
    綿密な調査と自由な想像力の上に立ったこの本を読んだあとには、血と肉の焼けるにおいや、凍る大地に獲物がかからないもどかしさと飢え、そこで生きていてみんな死んでいくことがとてもなまなましく、これからどこかの博物館で槍のための石を見つけたならば、あの男たちのうちの誰かがあの火の前でていねいに削る背中がよみがえり、ここでたしかに生きてたんだなあと思うに違いない。

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