文庫 日本のピアノ100年: ピアノづくりに賭けた人々 (草思社文庫 ま 2-5)

  • 草思社
4.50
  • (5)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 46
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (468ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794224293

作品紹介・あらすじ

明治33年(1900年)1月、日本楽器は国産第一号となる簡素なアップライトピアノを完成させた。
まだ欧米には及ぶべくもなかった日本のピアノではあったが、大戦後、状況は一変する。
高度成長で勢いを得たピアノ・メーカーは新たなコンサート・グランド・ピアノの開発に情熱を傾ける。
そして、リヒテルやグールドなど世界の名演奏家が愛用するピアノを生み出し、
ついに日本を世界頂点のピアノ王国へと押し上げたのである――。

誕生から100年間のピアノづくりに情熱を傾けた人々の姿を通して、日本の「ものづくり」の軌跡を見事に
描き上げたノンフィクション作品。第18回ヨゼフ・ロゲンドルフ賞受賞作


プロローグ グレン・グールドのピアノ 

戦前篇 洋琴からピアノへ 国産ピアノ誕生前夜から一九五〇年まで

第一章 文明開化期のピアノ 
第二章 オルガン製造に群がる男たち 
第三章 国産ピアノ第一号誕生 
第四章 洋楽ブーム 
第五章 戦前のピアノ黄金時代へ 

戦後篇 世界の頂点へ 一九五〇年から二〇〇一年まで

第六章 戦後の再出発 
第七章 大量生産の時代 
第八章 イメージ戦略と販売競争と 
第九章 コンサート・グランドへの挑戦 
第十章 日本のピアノはどこへ行くのか 

エピローグ 日本のピアノの未来に向けて

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「日本のピアノが世界に認められるようになるまでの技術者達の試行錯誤」のような話を想像していたが、どちらかというと特に前半はピアノメーカーの隆盛と経営の難しさといったことがよく書かれていた。

    時は明治、元武士である流しのなんでも修理人・山葉寅楠がたまたまオルガン修理を依頼される所から日本のピアノ作りは始まる。
    開国、世界大戦、高度経済成長など波乱多い時代に、時に西洋に習い、時に科学技術に頼りながら「日本のピアノ」が作られていく。

    ピアノは大量生産による工業製品としての面を持ちながらも、一流のアーティストが音楽を生み出す工芸品でもある。
    大量生産では、熟練の技術者の手作業によって生まれる音には敵わない。しかし効率が悪くなるほど経営は成り立たなくなる。品質も維持できない。
    昔は大小いくつものピアノメーカーがあったそうだが、現在残っているメーカーを数えるとその舵取りの難しさがわかる。
    それぞれの明暗を分けたものは何であったか。
    読み物としてもビジネス書としてもなかなか面白い。

    西洋楽器であるピアノを作るにあたって、作っている人間が西洋音楽もピアノの音の良し悪しもまるで分からないまま技術だけ上がっていくというのは、本場から遠く離れた地ならではのエピソードだ。日本のピアノメーカーにピアノを弾く人間は長いこと居なかったそうだ。
    日本におけるピアノは「音楽」ではなく「西洋への憧れ」や「商売」が出発点だったということか。
    日本のメーカーがピアニスト達と二人三脚で改良に励み、コンサート・グランドを作り上げ世界に認められるのは主に戦後になってからになる。

    自分は家にピアノは無かったのだが、むかし木管楽器を少しやっていた。木でできた楽器というのは一つひとつ音も演奏した感じも違う。例え同じメーカーの同じ型番であっても、一つとして同じ木が無い様に、全く同じ響きを出す楽器は(電子楽器でもない限りは)おそらくない。
    どこでどれを買っても同じ性能を発揮しなければならない工業製品と違って、そこは楽器の良いところでも悪いところでもあるだろうが、ピアノメーカーの目指すべき所とは何処だろうか。
    本書の中で「ベーゼンドルファーにスタインウェイの響きを求めてもナンセンス」といったフレーズがでてくる。
    ヤマハならヤマハの、カワイならカワイの良さがあるのだろうが、ピアノの売り上げが年々減っている今、より多くの人に選ばれるのは必須条件だろう。
    しかしながら、世界中で同じ楽器ばかり選ばれるというのは、音楽という芸術の世界ではひとつの限界というか、停滞であるように感じる。

    世の中、良いものが自然と残っているのではなくて、悪くても残そうと努力したものだけが結果的に残っているんだろうか。

  • 日本の産業史に造詣の深い著者による国産ピアノの歴史を俯瞰するノンフィクション。浜松に住んでいた山葉寅楠がオルガン修理を請け負ったことがきっかけで楽器製造に乗り出し、のちのヤマハに至り、当時のヤマハに勤めていた河合小市が独立して現在のカワイに至るなど、ピアノ産業の歴史を明治初期から辿っていきます。
    当時のピアノといえばスタンウェイ(アメリカ)、ベヒシュタイン(ドイツ)、ベーゼンドルファー(オーストリア)といった海外製品の独壇場でした。それを研究し、日本独自のピアノ生産をまずはアップライトピアノから取り組みます。同じように作っても、海外と日本との材料となる木材の違いや湿度の違いによる影響でひび割れや反りが発生したり、全く同じに作っても、同じ音が出ないなどの困難に直面します。
    いつしか「スタンウェイに負けないピアノを」が目標となりました。本書で何度も触れられていますが、ピアノという楽器を製造するには、精密に木材を加工したり、塗装するという職人的な伝統工芸要素と、アクションに使われる金属部品等を効率的に生産する大量生産的な要素の相反する性質が必要となります。
    アップライトピアノの生産はその後者に軸足を置くものですが、それを通じて製造メーカーとしてある程度のレベルに到達したとき、次に直面したのが一流ピアニストがコンクールや演奏会で使用するコンサートグランドピアノの製造でした。こちらは大量生産のアップライトピアノとは異なり、1音1音の表現を極める極めて職人的な世界です。当時の日本にはクラシック音楽のピアノ曲の芸術性を理解できる人材が不足しており、そもそも「どういう音を求めるべきか」という視点から取り組む必要がありました。「スタンウェイに勝るピアノを」が次の目標となったのです。
    製造技術者とピアニストとの協業の末に、ついに日本のコンサートグランドピアノが一流ピアニストに認められ、海外の主要コンクール等で使用されるに至るまでの様々な関係者の取り組みを丹念に描いています。
    私自身はピアノを弾くことができませんが、聴くのは大好きです。この楽器に、これほどの歴史があったとは本書を読むまで全く知りませんでした。読み応え十分のノンフィクションです。

  • 第101回アワヒニビブリオバトル「再出発」で紹介された本です。オフライン開催。チャンプ本。
    2023.7.4

  • 岐阜聖徳学園大学図書館OPACへ→
    carin.shotoku.ac.jp/scripts/mgwms32.dll?MGWLPN=CARIN&wlapp=CARIN&WEBOPAC=LINK&ID=BB00602454

    明治33年(1900年)1月、日本楽器は国産第一号となる簡素なアップライトピアノを完成させた。
    まだ欧米には及ぶべくもなかった日本のピアノではあったが、大戦後、状況は一変する。
    高度成長で勢いを得たピアノ・メーカーは新たなコンサート・グランド・ピアノの開発に情熱を傾ける。
    そして、リヒテルやグールドなど世界の名演奏家が愛用するピアノを生み出し、
    ついに日本を世界頂点のピアノ王国へと押し上げたのである――。
    (出版社HPより)

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

前間 孝則(まえま・たかのり)
ノンフィクション作家。1946年生まれ。石川島播磨重工の航空宇宙事業本部技術開発事業部でジェットエンジンの設計に20余年従事。退職後、日本の近現代の産業・技術・文化史の執筆に取り組む。主な著書に『技術者たちの敗戦』『悲劇の発動機「誉」』『戦艦大和誕生』『日本のピアノ100年』(岩野裕一との共著)『満州航空の全貌』(いずれも草思社)、『YS-11』『マン・マシンの昭和伝説』(いずれも講談社)、『弾丸列車』(実業之日本社)、『新幹線を航空機に変えた男たち』『日本の名機をつくったサムライたち』(いずれもさくら舎)、『飛翔への挑戦』『ホンダジェット』(いずれも新潮社)など。

「2020年 『文庫 富嶽 下 幻の超大型米本土爆撃機』 で使われていた紹介文から引用しています。」

前間孝則の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×