- Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
- / ISBN・EAN: 9784794224590
作品紹介・あらすじ
進化はいま、都市で起きている!生物学の新常識がここにある。
進化とは、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」、ではなかった!
人間が自分たちのためにつくったはずの都市が、
今では生物たちにとって〈進化の最前線〉になっている。
都市には生物にとって多様な環境を提供できる余地があり、
しかも地球上の多くの場所が都市化されており、
都市こそが生物の進化を促す場所になっているのだ。
飛ばないタンポポの種、化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚、足が長くなったトカゲ……
私たちの身近でひそかに起こっている様々な進化の実態に迫り、
生物たちにとっての都市のあり方を問い直す。
感想・レビュー・書評
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面白かった!スヒルトハウゼン博士は日本でもよく知られたオランダの進化生物学者、生殖器官のスペシャリスト。だが、本作は人間がドラマティックに環境を変化させた”都市”の”自然”環境にアジャストし、急速進化している生物についての、所謂総説。”Darwin"はダーウィン博士人物だけでなく、進化速度の単位でもある。1ダーウィンはおよそ1000年に0.1%の増加or減少。タイトルは都市の進化速度のあばれっぷりを感じさせる。
引用されている鳥関係の論文はすでに読んでいたものがほとんどだが、昆虫や植物類は初見のものも多く、フレッシュに楽しかった。先日読んだロソス博士のアノールの話ももちろん出てくる『生命の歴史は繰り返すのか』。スヒルトハウゼン博士のダシャレを日本語訳するのは、本当に大変なことだとも思う。
都市部特有の気象現象も生物に多大な影響を及ぼす、車や列車、人間がハリネズミの毛のように密集して過剰なカロリーを生み出し、その熱が高層建造物群の間に滞る、アーバンヒートアイランド。さらに、あらゆるところに使用されている、石材、アスファルト、金属が日中に太陽から直接、窓ガラスの反射光から間接的に熱を吸収し、夜間にゆっくりとその熱を放出する。住民数が10倍増えるごとに、気温は約3度上昇。さらに都心部には高温の空気柱が立ち上がり、そこに向かって全方向から風が吸い込まれる。空気柱が上昇するにつれエアは冷却され、空気柱に含まれる都市の塵の粒子を核にして水分が凝結、都市型集中豪雨が起きる。
島嶼生物地理という生態学理論の説明。騒々しい環境での鳥のさえずり変化の調査。エピジェネティクス。都市では男らしくないほうがモテる。シーボルトが日本からもちこんだ外来種。都市化研究のフィールドワーク。
たくさんの例がでてくる中から面白いものを挙げると
・ロンドンチカイエカ 地下鉄の構内で進化した蚊たち
路線によって亜種固定されている蚊
・アリとアリ社会に特化して進化した生物たち
特にアリの化学言語は社会的免疫系として機能しているんだが、好蟻性生物のアリへのハッッキング方法が色々あってすごい。甲虫クラヴィガー(Claviger testaceus)は腺から昆虫の死臭を出すことができ、アリ自身に巣内の育児室の食餌場に運んでもらい、アリの卵、幼虫、蛹を食らう。
・有名なマンチェスターのシモフリガの話
・NYC公園のそれぞれで進化しているシロアシネズミ
カビの生えたジャンクフードに発生する菌が生み出すアフラトキシンという発がん性有毒物質を中和する役目を担う通常とは大きくことなるAKR7遺伝子を持っている。さらに、FADS1という高脂肪食の処理をする遺伝子をも持つ。アイソレートされた小さい個体群の進化の例、ハリウッドの高速道路地帯のボブキャット、パリのインコなど。
・ドバトの羽色と亜鉛
・ヨーロッパアワノメイガとトウモロコシコンバイン
・メキシコのメキシコマシコとイエスズメ、タバコの吸い殻で巣の防虫。
・マミチョグ
ロンドン地下鉄の蚊
Why There's a Unique Mosquito Species in the London Underground
https://youtu.be/l4BMT8K8Wx4
『アムステルダムの野生生物』(2015)
De Wilde Stad filmtrailer
https://youtu.be/y5Sho_Sqji8
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非常に興味深く読むことができた学術書であった。
生物の進化というと僕たちは100年、1000年単位でじっくりと変化していくと考えてしまうが、この本に書かれていることは、生物は思った以上に素早く進化してしてしまう。
いろいろな生物の進化の状況が記載されているが、特徴的なものでいえば、イギリスに住むある種の蛾である。
この蛾はもともと白い色の蛾だったのだが、産業革命時代に工場からの排気によりイギリスの空気は著しく汚染された。
つまり、木や壁などが黒く汚れてしまったのだ。
この蛾は体の色を黒く汚れた木や壁にとまっても目立たぬように白色から黒色に変化させていったという。
そして、産業革命も一段落つき、昔のように空気もきれいになってきた。そうするとこの蛾は黒色に変化した体の色を世代を経るごとに薄くしていき、昔のような白色に戻ったという。
つまり、200年にも満たない間にある昆虫は完全に色を変化させるような進化をしたのだ。
また、ある国の鳥は、巣を作るのに今までは木や草を使っていたのだが、ある時からタバコの吸い殻で巣を作るようになったという。
これは巣を作る木や草が無くなったからではなく、たばこの吸い殻に含まれるニコチンなどの成分が鳥の巣に住み着く寄生虫を殺す役割を果たすことをこの鳥は何らかの方法で知り、その世代以降、タバコの吸い殻を利用して巣を作るようになったという。
恐るべき進化である。
人間が思っている以上に生物たちは今の環境に順応しているのだ。
昆虫や小動物の世代交代は数十年で何サイクルもできる。その間にDNAのレベルで変化を起こしていき、彼らは進化していく。
人間の寿命は長いので、変化をしていく経過は非常にゆっくりである。
しかしながら、人間だって生物である。
見えない変化がじわじわと起こっているに違いない。
そう考えると、数万年後に今の人類が生き残っているとしたら、僕らが想像できないような進化を経ているのかもしれない。 -
進化生物学者・生態学者の著者が、都市で急速に適応進化する動植物の実態について、グローバルな研究の成果を網羅的に紹介した書。
「都市環境における自然選択の力はとても強いので、都市の生物は進化の速度が速」く、(人間の営みによって進化の方向が不自然にねじ曲げられてしまっているのだとしても)とてもエキサイティングだ。また、「都市環境に最もよく適応進化しつつある種の多くは、非在来種」であり、外来種の存在を悪として排除しようとする自然保護主義者の活動が、却って動植物の都市への適応進化を妨げてしまっている面がある、という言説にも納得した。結局は、人間の営みも含めた世の中の変化全体を自然の営みと捉えるべきなんだろうな。
もちろん、著者は「都市が生物学的にどれほど興味深かろうが、世界の膨大な生物種の保存を都市に委ねることはできない。この目的のためには、わたしたちは現在残されている原初的で、損なわれていない野生を保存し、大いに尊重し、探求する必要がある」と、自然環境保全の大切さも強調している。ただ、経済優先の世の中において、現実問題として急速に絶滅しつつある多様な種をどう保全していくのかはかなりの難題だろうなあ。映画 "ジュラシックパーク" ではないが、DNAライブラリーとして保存する、ということになっちゃうのかな。
このほか、本書はとても興味深い内容が盛り沢山だった。例えば、「しばしば著しいパッチ状を呈することのある都市環境は、都市野生生物の遺伝子プールを多数の小さな切片に分裂させる」、「動物や植物の中には、進化によって、その生息環境中に人間が投棄する恐ろしい汚染物質をうまく処理するものが存在する」、「多くの種は適応に失敗し、死滅する。実際に適応したものも、しばしば大きな対価を払う。しかしながら、少なくとも、生息環境に起こる化学物質汚染に負けず、まんまと切り抜ける種が存在することは、都市が促す急速な進化の力を証明している」、「人間が都市環境の中に生みだすあらゆる新しい特色に適応する必要のある動植物は、適切な突然変異が起こるのを待つ必要はない。必要な遺伝子の変異体は、おおむね、すでに現存の遺伝子変異の中で出番を待っているのである」、「今のところ、ほとんどの専門家は急速な都市での生物進化が…DNAに実際に変化が生じることによって起こるものと考えているが、ここ数年のうちに、エピジェネティクスが考慮に入れられるべき力の一つであると判明する可能性は十分にある」、「世界中の都市の生態系がますます似たものになりつつある」、「年の市動植物、菌類、単細胞生物、ウイルスなどの群集は、地球共通の、単一で、多目的の都市型生物多様性へと、ゆっくり移行しつつある」、などなど。
また、江戸時代に日本から国外追放された、かのシーボルトが、母国オランダのライデンに戻って、「収集品のうち価値のあるものは売り払い、本を書き、自宅で日本博物館を運営し、持つ帰った生体標本を使って通信販売による東洋産植物の販売ビジネスを始めることで、退職後に悠々自適の生活を送ることができた」とは知らなかった。シーボルトがフジ、ハマナス、アジサイなど100種近い日本産の植物をヨーロッパ(のみならず世界中に)広めた張本人だったとは! アメリカ東部の名門大学のグループ「アイヴィーリーグ」の呼び名の元になったボストンツタ(ナツヅタ)も、シーボルトによって広められた日本原産の植物なのだとか。
進化生物学者達(及びアマチュアの観察者達)によってこれだけ大規模に、動植物の進化について様々な研究がなされているということ、知らなかった。新鮮な驚きだった。
人間も生物として進化し続けている。近代化・都市化・自動化・IT化などは、生物としての人間に一体どのような進化をもたらしつつあるのだろうか。毎年のように世代を重ねていく動植物に20~30年で変化が目に見える現れるのなら、人間に変化が現れるまでにはその20倍程度の時間がかかる? シジュウカラやユキヒメドリの例のように、「頑健で争いに強いオス」がモテなくなる現象は進化論的にもありそうだが。
誤字が結構多かったが、内容はとても面白かった。文句なく星5つ。 -
マックフルーリーハリネズミかわいそすぎでしょ…怖…
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生物たちが都市の自然環境の中で適応し独自に進化していく様が、とても興味深く綴られています。
◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BC02333319 -
「進化はいま、都市で起きている!生物学の新常識がここにある。進化とは、「手つかずの自然で、何千年もかけて起こるもの」、ではなかった!人間が自分たちのためにつくったはずの都市が、今では生物たちにとって〈進化の最前線〉になっている。都市には生物にとって多様な環境を提供できる余地があり、しかも地球上の多くの場所が都市化されており、 都市こそが生物の進化を促す場所になっているのだ。
飛ばないタンポポの種、化学物質だらけの水で元気に泳ぐ魚、足が長くなったトカゲ……私たちの身近でひそかに起こっている様々な進化の実態に迫り、生物たちにとっての都市のあり方を問い直す。」 -
著者はオランダの進化生物学者。特に前半が興味深い!
前半は都市で独自の進化を遂げつつある生物たちのストーリー、後半は著者の自然/都市論が語られる。
まず、自然に対するヒトの捉え方が少し独特。かつてビーバーが巣作りのために川を堰き止めダムを作るとき、元の環境は破壊され、そこに新たな生態系が生まれる。アリは大きなコロニーを形成するが、そのコロニーには好蟻性の昆虫たちが自分達のニッチを見つけ暮らしている。元の環境を変化させ、新たな生態系をも創造するビーバーやアリは、本書では「生態系工学技術生物」と呼ばれている。そして、その究極がホモ・サピエンスということだ。
世界は均一化した急速な都市化によって、かつての自然は失われている。だが、その都市という環境をニッチとして生きる好蟻性ならぬ「好人性」の生物が現れている。それは、元々都市化に向いている性質を持つという「前適応」によるものだったり、エピジェネティクスであったり、DNA自体の変異であったりし、最終的には分化した、違う種であると言えるほどの遺伝子的な特徴を持つまでに急速なスピードで進化を遂げている。
たとえば、本来暗闇を好むはずのクモが、電灯に群がる羽虫を捕らえるために進んで電燈近くに巣を張る習性を得ていること。かと思えば、都会の羽虫も徐々にだが人口の電燈に慣れていき、都会で何世代か経た羽虫は、森に住む羽虫より電燈に群がる数は少ないということ。
都会に住み着く鳥は、鳴き声の周波数が高いという前適応を持つために都会の騒音と競合せず仲間同士のコミュニケーションが取れること。羽の形状が短く丸く、瞬発力を持つこと。また、鳥の中には森の中で住んでいた頃より周波数が高くなっていく種がいたり、長距離を飛ぶよりも瞬発力に優れた羽の形状に変化していっていること。
また、興味深いのは、都会という新たな環境に適応している動物たちの特徴は、問題解決に関する知性を有すること、新しいものに興味を持ち、魅力を覚えることであるという。これは人の社会での在り方にも準えることができそうだ。
また、私が以前たまたま福岡に行った時に印象に残った市民センター「アクロス福岡」が載っていたのに驚きだった(アルゼンチンの建築家エミリオ・アーンバースが建てた「福岡県民ホール」とあったので、多分このことだろう)。ここの屋上庭園には76種の草木の種子が蒔かれ、理想的な植物の混生状態に工夫されている。ただ、筆者としては、より理想的なのは、緻密に計画された植生よりも、何も植えない空白を用意し、ただ飛んでくる草木の種子等の生育に任せるのがいいのでは、と言っているが。
個人的には、壁面全体を覆っていた植栽が年を重ねるにつれて最初から植えられていた植栽と、勝手に生えてきた草木とが合わさりある意味新たな都会の中の自然を作り出していくのもまたいいのではと思っている。明治神宮の100年計画の森づくりのストーリーを思い出した。 -
日本の都市ともつながりが深いのが、興味深い